選挙は、なんておもしろいんだ —— と思わせるニュースがアメリカで相次いでいる。
ミレニアル世代、そしてゲイであることを公表している民主党候補者ピート・ブティジェッジ。
REUTERS/Yuri Gripas
散髪しながらのライブ中継、テレビ司会者の鋭いツッコミに必死で答える候補者ら、土砂降りの中の集会……日本のメディアではトランプ大統領の動向ばかり注目されているが、アメリカでは2020年大統領選挙で、乱立している民主党候補の動向から目が離せない。
「れいわ新撰組」代表の山本太郎氏が街頭演説で人を集め、1人でポスター貼りをしながら、1億3000万円以上の寄付金を集めた背景は、アメリカにいるとよく分かる。選挙を「おもしろく」して、人々を巻き込んでいるからだ。
ゲイ公表の市長が一躍注目候補に
アメリカであれば、2020年大統領選で一躍民主党の注目候補に躍り出たピート・ブティジェッジ氏(37)がまさにそんなひとり。
インディアナ州の人口10万人の市長で、当選すれば市長から初めてホワイトハウス入りすることになる。それだけでなく、彼はゲイであることも公表しており、同性愛者初の大統領ということにもなる。
ブティジェッジ氏の本領が発揮されたのは、保守系テレビFOXの番組に出演した時。懸命に質問をこなす姿にスタジオの視聴者全員が立ち上がって拍手した。FOXは間違いなく、ゲイの彼を叩いて視聴率を狙ったはずだが、逆に司会者は「ワオ」とタジタジになっていた。
司会者:「民主党にとって一つの懸念は、どの候補者が(トランプ大統領との)討論会に耐えられるか、ということです。Twitterなど、(トランプ氏の)侮辱的な言動にどうやって渡り合っていきますか?」
ブディジェッジ氏:「Twitterは……どうでもいいです。(スタジオ内大喝采)メディアの注意をひくには、いい方法でしょう。でも、トランプ氏が作り上げた政治ショーからチャンネルを変える(=目をそらす)ことが、まず大切なのです」
FOXはトランプ大統領のお気に入りの放送局でもある。この限りなくアウェイに近い状況で、ブティジェッジ氏は司会者の質問に真剣に、真っ直ぐに答えた。その様子に多くの視聴者が驚き、感嘆したのである。
散髪しながらFacebookライブ中継
ベト・オルークは他の候補者とは違ったアプローチで有権者との繋がりをみせる
REUTERS/Jose Luis Gonzalez
もう一人の注目候補、ベト・オルーク・テキサス州元下院議員(46)は、メキシコからの移民である馴染みの床屋で散髪中にFacebookライブを配信。選挙戦の様子や移民政策について語った。
「(この床屋のような移民は)雇用を生むために、そしてアメリカ人としての価値を体現するためにいるんだ」
ライブ映像を見せた集会で、彼はこう強調した。
ライブ配信では、「歳をとると、毛が生えるんだよ」と、耳の穴の毛を短くしていることも“告白”。Twitterではたちまち保守系のユーザーから「耳の穴の毛のことなんか知りたくない」と非難が殺到した。
土砂降りになっても帰らない支持者
アンドリュー・ヤン氏の集会。土砂降りになっても最後まで若者たちは楽しそうに参加していた。
撮影:津山恵子
筆者がニューヨークで取材に行った集会でも、集まった人々の関心の高さには驚かされた。
5月12日夕、過去にはオバマ前大統領が2万7000人、前回大統領選で最後までヒラリー・クリントン氏と民主党候補の座を争ったバーニー・サンダース氏が2万人集めたワシントン・スクエア・パークには数百人しかいなかった。土砂降りの午後6時過ぎ。あたりは暗い。人が集まらなくて当然の状況だった。
民主党候補で起業家アンドリュー・ヤン氏(44)が野球帽を被って演壇に立った時は、雨足がピークに達した。民主党候補として立候補している24人(5月31日現在)のうち、かなり知名度が低い。
舞台の後方数十メートルのところでは、中年のトランプ支持の女性が、「ファック・ユー、ファック・ユー」と叫び続けて妨害している。それでも集まった数百人の若者たちは、帰らなかった。
彼の最大の公約は「ユニバーサル・ベーシック・インカム(ユニバーサル基本給)」。オンラインを中心に、若者の支援を集めている。
「(トランプ政権の)減税政策で収入が潤った、子どもが学校に行ける、なんていう話は聞いたことはない。私は、18歳以上の成人に1カ月に1000ドルずつ支給する。それだけのお金があれば、生活苦は解消できる。こんな具体的な公約は、誰もしていない」
雨の中ヤン氏が叫ぶと、若い支持者らが飛び上がって声援を送った。
冬のダウンコートの中まで雨水が染み渡って自宅に帰り着くと、ヤン陣営からメールが来ていた。
「ニューヨークでは、CNNやPBSも取材に来た!」
選挙はもっと「おもしろく」できるはず
再選になりふり構わないトランプ大統領を倒せる可能性のある民主党選手は?
REUTERS/Carlos Barria TPX IMAGES OF THE DAY
アメリカの選挙では巨額のお金が動く。候補者も寄付金を必死で集める。金額の多寡はテレビCMをどれだけ打てるか、多くの集会を開けるかという「体力」を示す。このため四半期ごと、あるいは月末に各陣営は寄付金の残高を競い合う。
当然、有権者も勝ってほしい候補者に寄付して勝負をかける。アメリカの選挙が、「ホースレース(競馬)」と揶揄(やゆ)される所以である。支持したくない代表が選ばれるのを阻止するためにも、競馬よりははるかに真剣な「賭け」だ。
民主党の候補者らは日々、集会、テレビインタビューだけでなく、朝食会や個人宅などで必死の選挙戦を展開する。中には、思いもかけず少人数しか来ない場合もある。しかし、それらをこなしてこそ、有権者とつながっていける。
日本のように熱のこもらない政見放送や、名前を連呼するだけの街宣カーだけでは、有権者に選挙への関心を持たせ、候補者間の公約の違いを理解させ、最終的には投票所に向かわせて投票率をあげるのは、アメリカの選挙戦を見ていると困難に思える。
メディアの選挙報道のあり方を含め、有権者を選挙に向かわせる道を日本は政党、候補者も含めもっと探るべきではないだろうか。
(文・津山恵子)