【ホロレンズ2初上陸】「マイクロソフトの天才」A・キップマン氏が明言した“一般向けモデル”の可能性

ホロレンズ2と初代ホロレンズ

左が初代ホロレンズ。右が新しいホロレンズ2。ホロレンズ2はまだ開発中のプロトタイプ版。de:code 2019は、国内で初めて体験できる貴重な機会になった。

撮影:伊藤有

日本マイクロソフトの開発者向けイベント「de:code 2019」にあわせて、「ホロレンズ」の生みの親であるアレックス・キップマン氏が来日。今年2月にモバイル国際見本市「MWC19 Barcelona」で発表した「ホロレンズ2」を国内初披露した。

ホロレンズ2の仕様はすでに発表済みだが、ざっくりまとめると次のようなものになる。

  • 前モデルから解像度と視野角が2倍に
  • 10本の指の動きを認識する高精度なジェスチャー機能
  • 高精度な視線検知機能の追加
  • 重心位置の大幅改善で、長時間装着するための快適性の向上(公式発表によれば3倍快適に)
  • ディスプレイを跳ね上げて視界が確保できるフリップ機構の採用

最後のディスプレイを跳ね上げる機構は、キップマン氏自身が、前モデルを首に掛けている日本の開発者の姿を見て、ひらめいたものだという。

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多くのパートナーと提携し、エコシステムを構築。「ホロレンズ2」をより早く導入できるしくみを提供する。

撮影:太田百合子

また既に2月時点で発表済みだが、「ホロレンズ2」で見ているのと同じ空間を、PC、タブレット、スマホ、Webブラウザなどと共有できる仕組みも提供する。

さまざまなデバイスへ「ホロレンズ2」のARをシェアし、同じテーブルを囲んだり、同じオブジェクトを共有することで、活用範囲は飛躍的に高まるはずだ。

キーノートでは、これらを使った非常に未来的なデモも披露された。

キップマン氏が「ホロレンズ2」を装着して目にしている空間の中に、彼自身をモデリングしたホログラムが登場。従来のデモでは、この撮影するカメラはホロレンズ自体をカスタムした特殊なカメラだったが、今回の撮影機材はなんと「iPhone」。違うデバイスをまたいで、MR空間を共有する新機能を使っている。

さらにこのデモでは、Microsoft Azureベースの翻訳や音声読み上げ機能を連携させ、ホログラムのキップマン氏が流ちょうな日本語でプレゼンをする様子も紹介された。

「ホロレンズの父」が語る、MRデバイスの未来像

アレックス・キップマン氏

「ホロレンズ2」を手にするマイクロソフトのアレックス・キップマン氏。価格は3500ドル(約37万9000円)で、予約受付中だ。

撮影:太田百合子

キーノート後、インタビューに応じたキップマン氏は、「前モデルに対してお客様から特に要望の多かった没入感、快適性、導入のしやすさという3つの重要な課題に取り組み、それらを実現できたことを誇りに思っています」と、ホロレンズ2への強い自信を覗かせた。

「没入感を向上させるためにデバイスを大きくしたら、装着が大変で快適には利用できないし、没入感と快適さを実現できても、そのために価格が高くなってしまったらお客様に受け入れられない。“没入感”と“快適”さを大きく向上させながら、かつ“価格も抑え”てより多くの人に価値を提供する。3つの課題を同時に実現することが重要でした」(キップマン氏)

ホロレンズ2

初代ホロレンズ(左)との比較。構成パーツがシンプルで合理化されている。重心位置などの変更で装着感はかなりよくなり、「重い」感覚がかなり軽減された。

撮影:伊藤有

実際に2月の発表後の反響は大きく、「一緒にエコシステムの構築に取り組むパートナーからも、高い評価を得ています」という。

「そもそもパートナーがMRに可能性を感じてくれなければ、アプリケーションのエコシステムは広がらないし、多くの人にその体験や価値を届けることはできません。だから品質に対する評価基準が高いパートナーに良い評価を得られたことは大きな後押しになっています」(キップマン氏)

マイクロソフトはこれらのパートナーと、どのようなのMRアプリケーションのエコシステムを構築しようとしているのか。

キップマン氏はエコシステム構築の前提として、マイクロソフトは「垂直統合型の会社ではなく、あくまでもプラットフォームを提供する会社」だと強調する。

「我々がこれまで約45年間にわたってトップランナーでいられたのは、我々のプラットフォームのもとにパートナーとエコシステムを構築して新たな価値を創造し、そのことによってお客様に様々なメリットを提供してきたからです。MRでももちろん、目指すところは同じです。

たとえば私は医者ではないので、MRを用いた手術がどのようなものになるのか詳しくわかりませんが、医療分野に通じたパートナーと組んでアプリケーションを提供することができれば、MRを手術に用いて誰かを救えるかもしれません。

MRのエコシステムはもちろんマクロソフトにとっても新たな価値を生み出すものです。我々が様々な業種のパートナーと組むのは、その業種で働く人々に対して価値を提供したいからです。それこそ我々のミッションである『Empower every person and every organization on the planet to achieve more.(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)』に立ち返ることだし、目指すところなのです」(キップマン氏)

ホロレンズ2のでも体験の様子

de:code2019会場で実施された体験デモの風景。装着している人には、手のひらに3Dの小鳥が舞い降りているように見えている。手そのものの状態も認識しているので、手のひらを裏返すと逃げてしまう。

撮影:伊藤有

さらに「エコシステムは、オープンでなければならない」とキップマン氏。

「我々がトップランナーでいられたのはWindowsがオープンだったから。パートナーはそこに価値を感じることができたし、その価値を多くの人が享受したからこそ、PCはこれだけ普及して民主化されました。

最近は何か新しいアプリケーションを提供するために独自のAPIを使わないといけないとか、手数料を支払わなければいけないといったものもあるが、そんなことをしていたらイノベーションは止まってしまうし、クリエイティビティーも発揮されません。それは世界にとって全く良いことではない」(キップマン氏)

── というのが、その理由だ。

「Microsoft Edgeが入っていても、ほかのブラウザーが自由に使えるように、自前のアプリストアを持っていたとしても、他のアプリストアも自由に使えるようにすべきです。その方が今の時代にあっているし、エコシステムを前に進めるためにも、オープンであることはとても大切です。

できればさまざまな分野でトップを走るの企業にもオープンになってもらいたい。そうすればテクノロジーの利益は民主化されて分散されます。ちゃんと価値が創造されるところに、利益が落ちるようにすべきなんです」(キップマン氏)

「ホロレンズ2」はマイクロソフトが「ファーストライン・ワーカー」と呼ぶ、製造や流通、医療など現場の第一線で働く人々を最初のターゲットとして想定している。

たとえば国内では、トヨタ自動車の販売店がいち早く採用を発表。担当者が修理や点検作業をする際に「ホロレンズ2」を装着すると、ディスプレイにマニュアルが表示されるしくみだという。

トヨタのホロレンズを使った修理システム

de:codeのエキスポ会場では、プリウスの実車を持ち込んで、トヨタが採用するシステムのデモも。最終日夕方でも体験待ちが1時間出るほどの人気だった。

撮影:伊藤有

トヨタのホロレンズのシステム

トヨタが採用するホロレンズを使ったシステムの映像イメージ。装着すると、実際には隠れた位置にあるハーネスやパーツが透視するかのように浮かび上がる。

撮影:伊藤有

紙のマニュアルはもちろん、PCやタブレットが使いづらい作業中も音声操作やジェスチャー操作でマニュアルが参照でき、作業を効率的に進めることができる。

一般向け版の開発は当然。「if」ではなく「When」だ

アレックス・キップマン氏

撮影:SAMSON YEE

キップマン氏がいうように、かつてWindowsは様々なPCで採用されて一気に選択肢が増え、最初はビジネス向けだったものが、家庭や個人へも広がっていった。

同じように「ホロレンズ2」もやがてコンシューマーの一般ユーザーへと広がっていくのだろか?

こう質問すると思いがけず、「イエス」という力強い答えが返ってきた。

「我々が考えるコンピューティングの未来に、コンシューマーが関与しないシナリオはありません。だからコンシューマー向けにホロレンズを提供するかという質問は、『If』ではなく『When』が正しいです。

ただ我々は今、エコシステムをしっかりと構築している段階。まだ何もないのに空騒ぎをするのではなく、適切なタイミングを見定めたいと思っています。

確信しているのは、このようなヘッドマウント型のデバイスを、コンシューマーが受け入れる日は必ず来るということ。そのときにMRのトップランナーとして一番乗りになりたいし、最高のプレイヤーになりたいと思っています」(キップマン氏)

(文・太田百合子、伊藤有)

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