大都会・東京以外の日本の街には住んだことがない私(筆者)が突然、長崎県の離島、五島列島でリモートワークをすることになったら?2拠点での仕事は可能なのか?
人口100万人以下の都市には住めない
釣りの聖地としても知られる五島。
「え、またですか……」
編集長(バブル世代)から五島行きを命じられたとき、私の顔は引きつっていた。
長崎県の西部に位置する五島列島。エメラルドグリーンの海に囲まれ、釣りの聖地としても知られており、カサゴ(長崎ではアラカブというらしい)、きびなご、アオリイカなどが1年を通してとれる。
そんな離島で、ビジネスインサイダー編集部が50人ほどの参加者とともにリモートワーク実験、というのが今回のプロジェクトの趣旨だった。
私は、海外に住んでいた大学時代を除いて、人口100万人以下の都市に住んだことがない。
田舎暮らしへの憧れもとりたててなく、むしろ田舎でワーケーション(ワークとバケーションを組み合わせた造語)とか、辛気臭くてヤダなぁと思っていたほどだ。
じつは私は以前にも編集長の(少々強引な)提案によって、鎌倉でリモートワークの実験をしたことがある。
鎌倉は東京から電車で1時間もあれば行ける街だ。海と山が隣接しており、リモートワークの聖地としても知られている。
それでも、トラブルは起こった。急なニュースに対応できない、Slackで細かいニュアンスが伝えられず、結局コミュニケーションに時間を取られる、などなど。
そんな私がなぜ五島行きを決めたかというと、「悲しいほど美しい島」「世界遺産に認定」といった旅行パンフレットのコピーに、ふと心ひかれたからだ。トーキョーの気楽さや自由さも好きだったけれど、長く住んでいれば感じる息苦しさも、そこには確かにあった。
リモートワークには興味ないけど、リフレッシュはしたい。
だから私は、他の参加者が「リモートで生産性アップ」などと高い目標を掲げているのを尻目に、意識をものすごく低くして、コッソリと五島行きの飛行機に飛び乗った。
田舎で免許ナシという無理ゲー
田舎暮らしの知識がほとんどない私が到着してまず直面したのが、移動にまつわるトラブルだ。
クルマも免許も持っていない私は、五島ではほとんど“役立たず”と同義。しかも宿泊場所のある富江地区からコワーキングスペースのある福江地区までは、くねくねと曲がった海岸線をクルマで30分ほども走らなくてはならない。
うっかり忘れ物をすると、こうなる。
クルマに乗れないのは死活問題。普段はあまり人とつるまずに単独行動をすることが多い私だが、いろいろな人と積極的に関わり、輪を広げる作戦にいそしまなければならなかった。
道端で倒れて入院騒ぎ
インスタ映えはしないけれど、島の人々の優しさに触れることはできた。
離島では人とのつながりは生命線、ということで夜は近所のおでん屋さん(と、ローカル感あふれるスナック「ゴールド・ラッシュ」)に連日飲みに行っていた(編集長、すみません)。
スナックでは、十人十色の理由で五島という土地に住む人たちに出会うことができた。トマト農家や占い師、なぜか神奈川からフラリと仕事のあてもなく来た人……。どの人のストーリーもかけがえなく面白かった。
そんなある日、つい話し込んで深酒しすぎた翌日に、ニュースになるほどの真夏日が直撃。なんと私は入院騒ぎを起こしてしまう。
事件はランチタイムに起こった。その時点で朝からの胃のむかつきが頂点に達していた私は、他の人とは別行動で、歩いて帰ることに。
そしてその帰り道、さんさんと照りつける太陽の下、私は途中の道でうずくまり、動けなくなってしまったのだ。
「大丈夫ですか!?」
薄れゆく記憶の中で覚えているのは、五島なまりの声。人気の少ない五島の中心街の一本道に集まってくる人たち。そのまま私は病院行きとなり、点滴を打つことに。
※写真を撮るのを忘れたので、画像はイメージでお送りします。
sfam_photo / Shutterstock
「東京から来たとですか?暑いからねぇ、大変ですねぇ」
看護師さんはのんびりと点滴のバッグを変えながら、そう話しかけてくれた。
ぽたぽたと落ちていく透明な点滴と、白い天井。元気になるまでしっかりと付き添ってもらい、寝かせてもらう。足のない私は、クルマが迎えに来てくれるまでひたすら眠り続けた。
東京にはないものを求めて
ロビーをコワーキングスペースとして活用していた「セレンディップホテル五島」。
地元のスナックで深酒、入院……と、主催者側とは思えないトラブルメーカーとなってしまった私(ちなみに、私の入院はウワサ話となって多くの人に広まり、翌日には多くの人に心配された)。
けれど逆にその経験は、ただの観光では得がたいものにもなった。
誰にも縛られない、東京の自由さや気楽さが好きだった。
でも退院後にぼんやり、ここまで人に頼り切る経験って東京ではなかなかできないよな、と考えた。そして自分が「1人じゃ何もできないんだ」と認めることで、ふっと肩の荷が下りたような気がした。
リモートワークや移住には興味がなかったけれど、ある意味「自分の弱さを認める」瞬間があったことで、やっと、この企画の意味がわかったような気がしていた。
移住はブームで終わってしまうのか
2019年にオープンしたばかりの「wondertrunk&co. travel・bakery」。このようなおしゃれなカフェが五島には点在している。
入院までした私だが、ノルマとしていた記事3本を1週間でなんとか仕上げ、生産性は思ったよりも高かった(最初にハードルをうんと下げていたのもあるが)。
リモートワーク実験は成功……と言いたいところだが、やはり1週間では短すぎるな、と思ったこともある。
特に、地元の人たちになにが還元できるのか?という部分だ。道で倒れた時に助けてくれた人にお礼もできず、ただ「テイク」するだけだった1週間は、少しのモヤモヤを残した。
私のように田舎暮らしに興味がなくても、「地方創生」なんて意識がなくても、カンタンにプチ移住できてしまう今。
だからこそ、この島に自分がなにをあげられるのか考えていかないとなぁ、と思わされたのだった。
(文・写真、西山里緒)