Amazonを介した代引き送りつけ商法が頻発している。
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アマゾンやECサイトでの買い物を装った、第三者による悪質な「代引き送りつけ商法」(いわゆる代引き詐欺)が、活発化しているようだ。試しにTwitterで「Amazon」「代引き」というキーワードで検索をかけてみると、被害を受けた、回避した、といった内容のツイートがほぼ毎日のペースで見つかる。
フリーのデザイナーとして働く、都内在住の山田真子(仮名)さんは、最近被害に遭った。山田さんは普段、インターネット通販を1カ月に1度くらいのペースで利用している。共働きで自宅を不在にしがちなこともあり、購入した商品の送付先を、徒歩5分の場所に住む山田さんの両親宅にしていた。
「4月上旬に実家の父から『アマゾンから商品が届いたけど、代引きだったから1万5000円を払っといたぞ』とメールが着たんです。私は注文した記憶がなくて、さらに父のメールの中で『ただ、書かれている(山田さんの)番号が違っている』とあって、もしかして最近話題の代引き送りつけ!? とピンときて。実家まで取りに行ったら、全く身に覚えのない商品が届いてました」
届いた商品は、スマートスピーカーだった。もちろん、山田さん自身のアマゾンのアカウントに、購入した形跡はない。
山田さんを取材中、伝票に入力された見覚えのない電話番号をかけてみると、滋賀県のリンパマッサージ店につながった。電話口の向こうの店主は、思わぬ問い合わせに驚いていた。
山田さんは注文した記憶のない商品が代引きで届いた。箱に貼ってある票には、山田さんの名前があるが電話番号は見覚えのないものだった。
山田真子さん(仮名)提供
実態が見えない代引き送りつけ商法
アマゾンを介した「代引き詐欺」は、決して新しい問題ではない。すでに数年前から発生していて、注意喚起や被害報告がインターネット上で確認できる。
国民生活センターに問い合わせると、同様の「代引き詐欺」による被害の問い合わせは最近増加傾向にあるという。
「通販サイトで注文していない商品を代引きで支払って受け取ってしまったがどう対処すれば良いか、という相談がここ最近、複数寄せられています。商品や金額はさまざま。住宅用の雑貨品、スマートフォン用品、衣料品など何でも。
ただ、何十万円といった高額品はないです。自分が注文したわけではないけど、家族の誰かが頼んだのかなと、受け取ってしまうようです」
厄介なのは「誰が、何のためにやっているのか」という実態がいまだに不透明なことだ。「代引き詐欺」が、悪意のある第三者の単なる嫌がらせなのか、または在庫をさばくなど悪質な商売目的なのかが、はっきりとしない。
被害金額自体がそこまで大きくないこともあり、なかなか大型事件化しておらず、実態解明に警察が動き出していないのかもしれない。
「『何度も何度も代引きが家にきて煩わしく、ストレスになる』という相談もありました。誰が一体何の目的でやっているかはっきりせず、通販会社もこういった情報は開示しないので、ストレス、不信感がつのるようです」(国民生活センターの担当者)
アマゾンは対策を講じているというが…。
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警視庁にも問い合わせたが、悪質商法に関する件数は公表しているが、その詳しい内訳については答えてはくれなかった。また、「代引き詐欺」に関する過去の取り締まりなどの有無、具体事例についても「今後の業務に支障を及ぼす恐れがあるため、回答を控えさせていただきます」(警視庁の担当者)とだけで、やはり実態は全く見えてこない。
当のアマゾンはどう見ているのか、アマゾンジャパンに被害件数、実態把握、対策などについて問い合わせると、次のような回答があった。
Amazonは違法行為を容認しておりません。
お客様から不正について申告いただいた場合は、厳正に調査を行ったうえで、お客様や販売事業者様に対する不正行為には確固たる措置を講じています。
また、Amazonは、不正行為を行った者がその責任を負うよう、法的機関との連携を強化しています。
見覚えのない商品が届いたというお問い合わせをいただいた場合、まずはご家族やご友人の方のお送りいただいた商品ではないかお心当たりをご確認いただいています。
覚えがないのであればお受け取りを拒否していただくこともご検討いただくようご案内しています。
なお、購入履歴は、Amazonのサイト上でご確認いただけます。
個別のお客様からのお問い合わせ内容や、詳細については、セキュリティの観点からコメントは控えさせていただきます。
「被害者」が現金を取り戻すのに一苦労
代引き送りつけ商法では、本人以外の家族がうっかり支払ってしまうことも(イメージ写真)。
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「代引き詐欺」は、返金手続きに時間がかかることも、厄介な問題だ。
山田さんがアマゾンのカスタマーセンターに問い合わせると、すぐに「代引き詐欺」の被害者としては認定してもらえた。
ただ、その後の返金完了にいたるまでの一連の流れは、被害者であるはずの山田さんにとって、ストレスや不信感を感じざるを得ないものだった。
山田さんは被害者として、現金で払ったからには、現金で返してもらいたい、という考えだった。一方、アマゾンからは「アマゾンギフト券ならすぐ対応可能。現金であれば、所定の手続き等で時間がかかる」と説明されたという。
山田さんに届いたアマゾンのカスタマーセンターからのメールは「長いし、分かりにくい」(山田さん)との印象を受け、違和感のある日本語表現からも疑心暗鬼にさせられたという(編集部でメールの文字数を数えると、長いURL部分を除いても約3000文字あった)。
「今回のことに、第三者の代引き商品送りつけことと判明いたします。ご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ございませんです。しがしながら、お手元にある商品はご返品いただけますので、ご安心ください。なお、ご返品手続きご案内させていただきます。」(山田さん宛に届いたメールの一部、原文まま)
また、カスタマーセンターの担当者に返金の際の銀行口座の振込先を伝える際、なぜかファックスの利用を促された。「さすがに、なんでファックスで? と苦笑いしました」(山田さん)。アマゾンは世界トップクラスのIT企業ではなかったのか……。
山田さんは送りつけられた商品を返送し、事務手続きを経て1カ月後、支払ったお金を取り戻した。
山田真子さん(仮名)提供
「現金での返金」で筋を通したかった山田さんは商品を送り返し、面倒ではあったが所定の返金手続きを済ませた。最終的に、銀行口座に入金されたのは、「代引き詐欺」発覚から約1カ月後のことだった。
こういった被害は他のECサイトでも増加しているのだろうか?
同業の楽天に問い合わせてみた。楽天によると、同様の「代引き詐欺」のような被害は「年間でごくわずか」(楽天の担当者)だという。被害件数こそ明言はしなかったが、関係者の話から類推すると相当少ないのは信憑性がありそうだ。
全体の被害件数は不明だが、一定の被害数がある事業者は、早急に効果的に、かつ迅速な返金手段などの対策をすべきだろう。被害者感情を考えれば、ギフト券などでは不十分なのは明らかだ。
一時的とはいえ金銭的な被害に加えて、返金などの事務手続き、そもそも何の非がないにも関わらず騒動に巻き込まれる精神的な苦痛 ——。
プラットフォーマーがどう説明するにせよ、結局は何の非もない被害者が振り回されていることだけは、間違いない。
(文・大塚淳史)