「ファーウェイショック」漁夫の利得るのは? 世界ではサムスン、日本ではシャープか

ファーウェイ端末

REUTERS/Marko Djurica/Illustration

ファーウェイ問題における解決の糸口は見えそうにない。

5月15日、米商務省産業安全保障局(BIS)のエンティティリスト(Entity List)」に掲載され、ファーウェイ製スマートフォンや通信設備の存続が危うくなった。

ファーウェイとグーグルは即座に、既存のスマホに対してはアップデートを続けていくと宣言。日本では5月20日に日本市場向けSIMフリーの「HUAWEI P30」「HUAWEI P30 lite」の新製品発表会が行われた

しかし、5月24日発売を前にした22日、KDDIとソフトバンクが当該製品の発売延期を発表。NTTドコモも「P30 Pro」の予約受付を停止した。SIMフリー版を取り扱う格安SIM事業者(MVNO)も相次いで発売延期を決めた。

一方で、一部のMVNOとビックカメラ、ヨドバシカメラなどの家電量販店では5月24日から販売されている。

スマホ世界トップのサムスン、日本では……?

ファーウェイのビルのロゴ

REUTERS/Aly Song

ここで気になるのが、「ファーウェイショック」で漁夫の利を得るのはどの会社か、という点だ。

ファーウェイは、2018年通年のスマホ出荷台数において、日本で第5位のシェアを誇る(MM総研調べ、キャリア向けとSIMフリー市場の合計)。また、BCNの調べでは、2019年第1四半期のシェアは第3位となっている。

これだけ大きなシェアを誇っていた会社の製品が売りにくくなると、当然、それに応じて、別の会社の製品が売れるようになる。

サムスン

AP

世界的には、Galaxyブランドを展開するサムスン電子が恩恵を受けるのではないかと言われている。ハイエンドモデルである「Galaxy S10」から、エントリーモデルまで幅広いラインナップがあるからだ。

サムスン電子は、ファーウェイが進出できてないアメリカ市場だけでなく、ヨーロッパ市場においても人気を維持している。ファーウェイもヨーロッパ市場でシェアを高めていただけに、サムスン電子が盛り返すことも考えられる。

しかし、日本においては、少々事情が異なるようだ。

サムスン電子関係者は、

「日本でファーウェイが強いのはSIMフリー市場。うちはSIMフリーはやっていないので、ほとんど恩恵は受けられないのではないか

と言う。

Galaxy S10+

サムスンの最新機種「Galaxy S10+」。

撮影:小林優多郎

確かに日本のサムスン電子はNTTドコモやKDDIなどのキャリア向けが中心で、SIMフリー市場は手付かずの状態だ。ファーウェイはNTTドコモ向けにP30 Proを用意していたが、予約停止となってしまったため、その需要を取り込めるかが勝負となる。

では、SIMフリー市場のライバル会社はどう見ているか。

「ファーウェイショックを、追い風と感じるか」という質問に対して、SIMフリースマホを手がけるメーカー関係者は、

「ファーウェイがいたからこそ、SIMフリー市場に注目が集まり、活性化していた。その巨人に元気がなくなるということは、SIMフリー市場全体にとっても大きな損失だ

と話している。

日本ではシャープが“ポスト・ファーウェイ”の位置を狙うか

sharp4

撮影:小林優多郎

そんななか、国内の業界内においては「シャープがファーウェイショックで最も恩恵を受けるのではないか」と言われている。

今回、NTTドコモの夏商戦ラインナップにはモバイルWi-Fiルーターがあるのだが、これが実はシャープ製となっている。これまで、シャープがモバイルWi-Fiルーターを手がけたことはほとんどないに等しい。

Wi-Fi STATION SH-05L

ドコモから今秋発売される、シャープの「Wi-Fi STATION SH-05L」。

ドコモ

通常、モバイルWi-Fiルーターはその時の最先端の無線技術を搭載し、スマホよりも高速な通信環境を提供するという意味合いで製品化されてきた。しかし、今回のシャープの新製品の最高速度は988Mbpsにすぎず、スマホの1576Mbpsに大きく負けているのだ。

日本におけるモバイルWi-Fiルーター市場でも、ファーウェイが強い。

ファーウェイはNTTドコモ向け製品も手がけていたが、「米国企業と取引のある法人顧客は、ファーウェイ製品を選びづらい。選択肢として日本メーカー製品があるほうが好ましい」(NTTドコモ関係者)

と言うのだ。

これまでNTTドコモ向けのモバイルWi-Fiルーターを手がけていた日本メーカーもあったが、今回はシャープに白羽の矢が立ったようだ。

ちなみに、ファーウェイはNTTドコモ向けに「dtab」というタブレットやキッズケータイも手がけている。もしかすると、こちらも将来的にシャープが製造を担当する可能性もありそうだ。

AQUOS R3

シャープの最新機種「AQUOS R3」。ハイエンドからエントリー機まで幅広く取揃えるのがシャープの特徴だ。

撮影:小林優多郎

シャープは、ハイエンドモデル「AQUOS Rシリーズ」だけではなく、ここ数年は、MVNO向けやSIMフリー、キャリアのエントリーモデルとして「AQUOS senseシリーズ」が好調だ。

つまり、こうして見るとハイエンドからエントリー、さらにはモバイルWi-Fiルーター、タブレットなど、ファーウェイが得意としていた分野を、シャープはすべて網羅することができるのだ。ファーウェイとコストパフォーマンスで互角に勝負できる理由として、シャープが鴻海(ホンハイ)精密工業傘下であるという点も大きいだろう。

2018年、日本でAndroidスマホでのシェアトップを握ったシャープだが、今回の一件でそのシェアをさらに拡大することになりそうだ。

(文・石川温)


石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。

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