開発者向けの年次イベント「WWDC19」は、例年になく開発者にとっては注目度の高い濃密な内容だった。
ハードウェア的に新型「Mac Pro」や「Pro Display XDR」(両方まとめ買いすると120万円〜だ)が発表されたことも一因だが、iPadOSやiOS13(特にマインドクラフトでデモをしたARKit3。AR対応でiOSはかなりの水準まで到達した)などにも、注目点が多かった。
そんななかで、いまひとつ話題になっていないが「良い仕事」をしていたものがある。アップルウォッチ(Apple Watch)の「watchOS 6」だ。
文字通り「身につけるアップル」のApple Watchの進化
アップルがこれまでwatchOSでやってきた改善は、正直なところ結構地味なものが少なくない。だが、その地味な改善が、世界で一番売れている、快適で実用的なスマートウォッチをつくったことはまぎれもない事実だ。
watchOS 6では、AppleWatchの体験という点で、大きく変化するポイントがいくつかある。その5つをまとめた。
1.初の24時間GMT表示ウォッチフェイス(文字盤)の追加
watchOS 6のアップデートで、文字盤がさらに追加される。watchOS 5では、新しいAppleWatch Series4に合わせてモジュラー文字盤が追加された。
watchOS 6での追加文字盤は、
- 初の24時間表示の「ソーラーフェイス」
- 単色を上手く使った「インフォグラフ」系文字盤の新デザイン
- これまでにないレイアウトと情報量の「インフォグラフモジュラー」系
- 新デザインの数字系文字盤
といったものになっている。
このうち、ソーラーフェイスはAppleWatchではじめての24時間表示の文字盤だ。機械式時計では、24時間表示はきわめてポピュラーで、海外旅行や出張をよくする人に重宝される。
2つの時針で表示することで(GMT機能などと呼ばれる)、デジタル表示より直感的に時間を把握できることがメリット。ただ真似るだけではなく、日の出日没といった太陽の状態まで分かるようにしたところがスマートウォッチらしい。
ちなみに、従来のwatchOS 5でも、文字盤に地域ごとの時間を別途表示させることで似たことはできたが、もちろん、使った体験は異なるものになるはず。
ウォッチフェイスを変えるだけで、新型を買ったような気分になれるのはAppleWatchならではの特権といえる。
2.AppleWatchに、ついに「AppStore」とネイティブアプリがくる
watchOS 6の発表のなかで、もっとも可能性を感じる発表がAppStoreの誕生、これに尽きる。
AppleWatch単体でアプリを探すのは煩雑そうな気もするが、音声認識や、画面に文字を書くなどで検索できるようにすると説明している。また、アプリジャンル別の推薦もするようだ。
単体のAppStoreがくる、ということはiPhoneからのいっそうの独立を意味する。
AppStoreの登場に合わせて、iPhone側のコンパニオンアプリを必要としない、完全にAppleWatch単独で動くアプリもつくれるようになる。
3.ストリーミング音楽の単体アプリを配信可能に
新たなStreaming APIによって、Spotifyやスポーツ中継などのアプリがサードパーティーでもつくれるようになった。これは特に、AppleWatchのセルラー版を使っている人に、大きな意味がありそうだ。
Radikoのようなアプリもつくれそうだし、ひょっとすると英語学習アプリに使おうという人たちも出てくるかもしれない。
これはある意味、AppStoreの登場による「iPhoneのコンパニオンからの独立」という流れを象徴する機能追加の1つともいえる。
4.サードパーティーアプリで心拍などセンサー情報を取得可能に
また、アプリ開発の自由度も広がる。watchOS 6から、アプリがとれるセンサーのデータについても、心拍数、位置情報、加速度(Motion)もとれるようになる、とアップルはアナウンスしている。
プライバシー保護の観点から読み取れる時間には制限があり、最大で1時間までになっている(アプリの用途によってセンサーを読める制限時間を変える、というアプローチをとっている)
これもアプリ開発者にとっては大きな変化になるはずだ。
5.サイクルトラッキング機能
最後に女性向けの、いわゆる生理周期の表示機能。これまで心拍センサーをつけたり、転倒検知(転倒したら緊急電話に自動ダイヤルする機能)などを搭載してきた流れからすると、こうした人の体にまつわる機能追加はきわめて納得がいく。AppleWatchのヘルスケアデバイス的な側面を強化する機能だ。
Apple Watchといえば、「最強の通知デバイス」であり「高機能なスポーツトラッカー」。僕も毎日肌身離さず装着しているデバイスだ。
あやうく飛ばしそうになった大事なスケジュールを通知機能で何度か命拾いして以来、左手に時計をしているときは右手につける、というくらい欠かせない。
この記事を書いたときの両腕はこの状態。
撮影:伊藤有
肌身につけるようなデバイスは、派手なアップデートよりも空気のように溶け込んで、そっとサポートしてくれるような体験をつくるハードでなくてはいけない。
watchOS 6のアップデートに加えて、次のAppleWatch(Series5なのか別の名前なのかはわからないが)でどんな新しい体験があるのか、少し楽しみだ。
(文・伊藤有、写真出典・アップル)