アップルのプライバシー重視、むしろ広告業界への関与を深めるか?

アップルCEO、ティム・クック氏。

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  • アップルは、WWDC2019でシングルサインオン機能「Sign in With Apple」を発表し、広告業界に波紋を呼んだ。
  • アップルはプライバシーを優先した機能とアピール、フェイスブックとグーグルのプライバシー重視の動きに続いた。

アップルは最近、プライバシーに関する一連の動きを発表し、以前のフェイスブックグーグルと同様、広告業界に波紋を呼んだ。

6月3日(現地時間)、開発者向け会議WWDCで、シングルサインオン機能「Sign in With Apple」が発表された。この機能を使うとユーザーは、フェイスブックやグーグルと同じように、安全な方法でアップル製デバイスからサードパーティーのサービスにサインインできるようになる。だがアップルは、プライバシーに配慮し、広告のために個人情報を使わないと述べてプライバシー優先の特徴をアピールし、フェイスブックやグーグルとの違いを見せつけた。

この機能はユーザーのプライバシーを尊重する企業としてアップルのブランド力を高めることに役立つと広告業界関係者は述べた。

「アップルはユーザーのデータを厳重に保護しており、フェイスブックのような問題に巻き込まれたくない」とある大口の広告主は述べた。同氏はアップルについて話す立場にないとして匿名を希望した。

「一度アップルのエコシステムに入れば、離れたくなくなる。そこでアップルはあなたに提供できるものが多ければ多いほどよいと考えている」

もちろん、新機能はまさに広告主を惑わせるもの。なぜなら、アップルのサインオン機能は、ユーザーにリターゲティング広告を配信することを困難にする。

時代の終わり

フォレスター(Forrester)のアナリスト、ジェイ・パティサール(Jay Pattisall)氏にとって、アップル、フェイスブック、グーグルが消費者のプライバシーをより重視するようになったことは、広告主が最適化戦略として大量の安価なデジタル広告を用いることの終えんを表している。何千もの広告を消費者に届けるために安価なデジタル広告、特にディスプレイ広告、検索連動広告、SNS広告を利用してきたマーケティング担当者は、もはやそれができなくなるだろうと同氏は語った。

「比較的安価に実際の市場でテストすることができなくなった今、クリエイティビティーへの揺り戻しが起こるだろう」とパティサール氏は述べた。

アップルがシングルサインオンを導入し、位置データを追跡するアプリへのアクセスが「1回限り」しか認められないことになると、マーケティング担当者の効果測定はさらに複雑になるとデジタルエージェンシー、360iの有料ソーシャル担当バイスプレジデント、フィリップ・フィン(Phillip Huynh)氏は述べた。

アップル製デバイスでフェイスブックとYouTubeにまたがって広告キャンペーンを展開しているブランドは、それぞれのエコシステムに対応する異なる測定データを取得することになる。

「そのデータを細かく見て、バラバラのデータを1人の同じ人物と判断することは難しくなる」とフィン氏。

「それぞれが壁に囲まれた庭で、情報を共有していない」

アップルのシングルサインオンによってブランド自身が持つ一次データは危ういものになるとフィン氏は付け加えた。より多くの人がおそらく、この機能を使うようになるだろう。ブランドが入手できるデータが減るのみならず、消費者とのコミュニケーションを妨げることにもなる。

「ブランドが持っているデータの量と種類を弱体化し、効果測定をさらに困難にする」とフィン氏は述べた。

そしてアップルがプライバシーを保護し、広告主が得るデータを制限すると、最終的にはパブリッシャーや中小企業に悪影響を与えると、広告代理店Engineのプログラマティック広告の責任者、ミッチェル・ザハルスキ(Michael Zacharski)氏は述べた。

「デジタルエコノミーとつながるために広告プラットフォームを活用しているのは、大手企業だけではない」

アップルの広告戦略は?

どれほど深刻な影響を与えるのか、よく分からないという人もいる。The Media Kitchenのメディア入札担当ディレクター、アンドリュー・サンドバル(Andrew Sandoval)氏によると、アップルはすでに同社のブラウザ「Safari」に広告トラッキングを制限するITP(Intelligent Tracking Prevention)を導入し、第三者によるトラッキングやCookieの使用を制限している。

「モバイルアプリの動作によるものか、SafariのITPによるものか、いずれにせよアップル製デバイスのトラッキングはすでに難しくなっている」と同氏は述べた。

「現時点では、アップルがSign In With Appleを追加しても、さほど大きなインパクトを与えるとは思わない」

さらに、アップルはこれまで広告業界で大きな役割を果たしたことはなく、ハードウエアの販売が売り上げの大部分を占める企業。そのため、広告主にとって不利益なポリシーを採用する余裕がある。しかし、大口の広告主は、このプライバシー優先の動きが、アップルを広告業界により深く関与させる可能性があると考えている。

「アップルはそう望めば、広告業界での地位を向上させることができる」と同氏。

「アップルは、アップルのエコシステムを通してしか買えない、すべてのデータにアクセスできる」

[原文(BI Prime):Apple's new single-sign-on feature has advertisers quaking over the marketing implications

(翻訳:Toshihiko Inoue、編集:増田隆幸)

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