「1社で定年まで」終身雇用消滅時代に求められるキャリア自律

経団連の中西会長。

「経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っている」と発言した経団連の中西宏明会長(撮影は経団連会長就任前の2017年1月)。「一つの会社が定年まで雇用を保障する」終身雇用は、もはやフィクションとなりつつある。

REUTERS/Ruben Sprich

正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです」(経団連の中西宏明会長)

終身雇用を守っていくというのは難しい局面に入ってきた」(トヨタ自動車の豊田章男社長)

経済界の首脳からこんな発言が飛び出す一方、「深刻な人手不足」のなかでも富士通といった大企業が相次ぎ大規模な希望退職募集に踏み切ったことが話題になった。

崩れかかっていた終身雇用はついに消滅するのか?今の時代にふさわしい新しい働き方とは?日本総研理事の山田久さんに聞いた。

右肩上がりの経済成長が前提の仕組みだった

日本総研の山田久理事。

日本総研の山田久理事。

撮影:庄司将晃

「終身雇用・年功賃金の正社員」を柱とする日本型雇用は、そもそも右肩上がりの経済成長を前提とする仕組みだった。当然、バブル崩壊後の長期低迷のなかでだんだん崩れていく。

企業は非正規の働き手の比率を大きく高め、「派遣切り」や「ワーキングプア」が社会問題に。正社員の解雇は簡単でない場合も多いため、大規模な希望退職募集の動きが広がり、陰湿な手段で「自主退職」に追い込む有名企業の「追い出し部屋」の実態も次々に明るみに出た。そうした問題への関心が一気に高まったのが、2008年のリーマン・ショック後の不況期だった。

それでも大企業を中心に、日本型雇用の大枠は根強く残った。第2次安倍政権が発足した2012年末ごろから景気は緩やかに回復し、少子高齢化の深刻化や団塊世代の退職による人手不足も手伝って雇用情勢は大きく改善。企業の業績もおおむね好調さを保っていた。

しかし、また状況は変わりつつある。

「米中両国の覇権争いが長引くとの見方が強まるなど、ここにきて経済や企業業績の先行きに対する懸念が強まっています。自動車業界が象徴的ですが、どの分野でもデジタル化が進んで産業間の垣根が崩れ、『このままで大丈夫か』という危機感もさらに高まっています。

企業が生き残っていくためには何か新しいもの、新しい事業を生み出さなければならない。そのためには柔軟な発想を持つ若手や、自社の人材にはない専門性を持つ中途採用者に活躍してもらう必要があります。

若手の活躍に報いたり、優秀な人材を中途採用したりするには『実力』に見合った賃金を提示する必要があるので、(若いころの賃金水準を抑える代わりに中高年になると上げて、定年までのトータルでもとを取らせる)年功賃金や、その前提となる終身雇用の維持が難しくなるのは当然です」(山田さん)

会社にしがみつくシニアの雇用維持が重荷に

シニア社員。

一般的な日本企業の人材育成の仕組みのもとでは、中高年になっても特定の専門性が身につかず、今の勤務先にしがみつくしかなくなる人が多くなりがちだ(写真はイメージです)。

Ryouchin/Getty Images

少子高齢化によってシニア社員の割合が高まっていることも、終身雇用の維持が難しくなっている一因だ。

「一般に日本企業における職業能力の育成は、若手時代を中心とするOJT(職場での訓練)による部分が大きく、会社の都合で職種が変わることも多い。中高年になっても特定の専門性が身につかず、今の勤務先にしがみつくしかなくなる人が多くなりがちです。そうしたシニア社員の雇用維持は、企業にとって負担となる面があることは事実です」(山田さん)

今の法律では企業は65歳までの雇用確保の義務を負うが、政府はさらに「70歳まで」の努力義務を課す方針だ。多くの人にできるだけ長く働いてもらい、年金、医療、介護といった公的サービスの元手となる税金や社会保険料を払って制度を支える働き手を増やしたいからだ。今後も社会保障サービスの抑制傾向は続き、より長く働き続けなければならない人が増えていく。

一方、「会社が必要とするスキルを持たないベテランには用はない」というのが経営者たちのホンネだ。終身雇用の約束と引き換えに、会社の言いなりの長時間労働や異動・転勤といった滅私奉公に耐えてきた中高年の正社員にはたまらないが、企業としても背に腹は代えられない。

個々の働き手が年齢にかかわらず能力を存分に発揮し、会社にきちんと貢献する。働き手と企業の間でそんな「ウィン・ウィン」の関係を成立させるにはどうすれば良いのだろうか?

求められる「キャリア自律」

働く人たち。

日本の強みは「ふつうの労働者」のレベルの高さだ。これは終身雇用を前提に、企業が人材育成にしっかり取り組んできたことによる(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

「働き手が特定分野のプロとして、スキルを磨きながらキャリアを積んでいく『キャリア自律』が求められています。

今の若い世代には、すでにそうした意識を持っている人が多いと思います。もちろん働き手の意識だけではなく、企業が人事制度や人材育成のあり方を変えたり、産官学が連携して現場で実際に役立つスキルが身につく新しい職業教育制度をつくったりといったインフラ整備も必要です」(山田さん)

自ら選んだ分野の専門性を高めながらキャリアを積み、場合によっては副業も手がけつつ、その時々の職務に見合った賃金をもらう。キャリアパスの見通しや待遇、働き方といった面で今のライフステージによりふさわしい職場が見つかれば、転職したり独立開業したりする。学び直しを経て別の専門分野にシフトしてもいい。それがキャリア自律のイメージだ。

終身雇用は転職市場の拡大を妨げており、新卒時の一発勝負で正社員の職を得られないと再チャレンジは簡単ではない仕組みのため、格差の固定化にもつながっている。落ち目の企業・産業から成長分野に働き手がスムーズに移れれば、日本企業や経済全体が強くなり、賃金アップにもつながる。子育てや介護といったその時々の事情に応じた働き方を選びやすくもなる。

それなら終身雇用はなくし解雇も簡単にして、「誰もがいつでもクビになり得る」アメリカのような国にすべきなのか。

「日本の強みは『ふつうの労働者』のレベルの高さです。これは終身雇用を前提に、企業が人材育成にしっかり取り組んできたことによります。

この長所は、すでにあるものを『カイゼン』し、より良いものにしていくことには適していて、日本製品の品質の高さにつながっています。日本型雇用をすべて否定すれば、そうした強みまで失うことになります」(山田さん)

キャリア自律が重視される欧米では、新卒やそれに近い若者でも、長期インターンシップなどで一定の実務能力・経験がある人を職種限定の欠員補充型で通年採用するのが一般的だ。優秀な人材は最初から高給をもらう半面、「その他大勢」の就職はハードルが高く、若い世代の失業率は高めになりがちだ。

とくにアメリカでは若者に限らず働き手の「二極化」が激しく、所得格差が極端に大きな社会になっている。

日本型雇用の良さは残す「ハイブリッド型」へ

オフィス街。

「キャリア自律」は働き手にとって楽な道ではない。しかし、もはやフィクションになりつつある終身雇用と、どちらに希望を持てるだろうか(写真はイメージです)?

撮影:今村拓馬

では、どうすれば良いのだろうか?

山田さんが提案するのが、日本型雇用の良さは残しつつ、アメリカ型や欧州型の良い部分を採り入れる「ハイブリッド型」の雇用システムだ。

大卒なら、入社して最初の3~5年は自身が専門としたい分野以外も含めた複数の仕事を経験しながら、基礎的な職業能力や「変化への対応力」を身につける。その後10年ほどは、腰を落ち着けて自身の専門分野でキャリアを重ね、スキルを高めていく。30代半ばから後半以降は、自立したプロ人材として社内外でのキャリアパスを自主的に選び取っていく——。

「入口」はあまり変えずに若者の失業率が上がらないようにし、「ふつうの労働者」のスキルの底上げをはかったうえで、独り立ちしてもらうというわけだ。

「時代に合わなくなった日本型雇用をハイブリッド型にアップグレードし、雇用の流動化を進めることは必要です。その一方で、もちろん雇用の安定も大切です。これからは一つの企業ではなく、社会全体で雇用安定をはかっていくことが求められます」(山田さん)

例えばスウェーデンでは、労働組合は赤字事業の整理に伴う人員削減を受け入れる一方、職業訓練や再就職支援の仕組みといったセーフティーネットを政労使が協力して充実させている。雇用の流動化を進めるにあたり、働く意欲がある人なら安心して人生設計できるような条件整備が大前提になるのは当たり前だ。

キャリア自律は働き手にとって楽な道ではない。しかし、「失敗を恐れずに跳べる」世の中になるとしたら?もはやフィクションになりつつある終身雇用と、どちらに希望を持てるだろうか。

(文・庄司将晃)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み