カネカ炎上で注目される「男性育休の義務化」議論、阻むものは何?【後編】

手をつなぐ父と子

男性が子育てに積極的になるには……?(写真はイメージです)

Getty Images / Yagi Studio

「男性の育休取得義務化」に向けた議論が急速に盛り上がっている。一方で、一部上場企業のカネカの元社員の家族がSNS上でパタハラを訴えて炎上するなど、働く現場とのギャップも浮き彫りになっている。

子育て中の本音を探るべく、30代を中心とするパパコミュニティ、一般社団法人Papa to Children(以下、PtoC)を通じてアンケートを実施(※)。さらに育休取得経験者も交えて座談会で語ってもらった。

後編では、制度だけでは足りない、男性が子育てに積極的になるための職場の風土づくりについての議論をお届けする。

※2019年4〜5月にかけて、男性対象にインターネット調査を実施。回答数123人。うち35〜39歳が37.4%、 30〜34歳が35.8%。子あり72.4%、育休取得経験あり35.8%。パートナーの就労は 56.5%が正社員(時短勤務含む)。

杉谷さん、平野さん、川元さん、高橋さんが横に並んでいる。

左から、杉谷さん、平野さん、川元さん、高橋さん。

川元浩嗣さん(36歳)

Mi6代表取締役(前職はメガバンク勤務) / 一般社団法人Papa to Children代表理事 妻・長女5歳・次女2歳の4人暮らし 育休取得経験 なし

高橋俊晃さん(36歳)

フリーランス(前職はワークスアプリケーションズ ) /一般社団法人Papa to Children理事 妻・長男3歳・次男7カ月の4人暮らし 育休取得経験 あり(会社員時代の長男誕生時に9カ月間)

平野 謙さん(35歳)

株式会社アントレ 企画統括(前職はリクルートキャリア)/一般社団法人Papa to Children理事 妻・長男6歳・次男2歳の4人暮らし 育休取得経験 あり(次男誕生時に生後3カ月目に1カ月間)

杉谷昌彦さん(35歳)

富士ゼロックス エンタープライズドキュメントソリューション事業本部 EDS 営業部 海外マーケティング担当/一般社団法人Papa to Childrenメンバー 妻・長男3カ月の3人暮らし 現在、育休取得中(妻の職場復帰と交代で4月〜9月末まで予定)

この記事で読める論点

・男性の育休促進、「義務化」のほかに何が必要?

・育休と出世、両立するには?

・「俺が抜けたら皆が困る」はどう解決する?

男性の子育て参加を促進するための動きとして、急速に現実味を帯びてきたのが「男性育休義務化」。では、当の男性たちは、何を求めているのか。アンケートで聞いた結果がこちらだ。

2019-06-12

「男性が育休を取りやすくなるために必要なこと」(複数回答)として、上位を占めたのは「上司からの促進とサポート」(43%)「将来のキャリアに支障がないという保証」(30.7%)「収入の担保」(同)。「義務化」(26.3%)よりも「上司の理解」や「キャリアとの両立」を求める声が多くなった。さらに「同僚の理解」(25.4%)が続く。

「育児は仕事を犠牲にする」の逆転を

杉谷さんと高橋さん。


高橋

高橋さん

この結果にはとても納得。僕が育休を取ったときも、職場の雰囲気がポジティブだったことに後押しされた。ルールの有無以上に、空気がものを言うと思う。


平野

平野さん

結局のところ、「育休は仕事を犠牲にする」というネガティブな状況が職場に残っている限り、本当の意味での取りやすさは改善しない。育休を取ることで上司からの覚えが悪くなるんじゃないか、出世に響くんじゃないか。そういうネガティブイメージが根強いまま義務化されても、「デメリットの多い選択を押し付けられる」と拒否感が生まれるだけ。


川元

川元さん

僕は銀行員時代にはまったく発想すら持てなかった。5年前の当時の部署では、家庭の事情で早退しようものなら飛ばされるんじゃないかという空気を僕は感じていたから。平野君は実際に育休取った後に昇格した成功体験を持っているよね。詳しく話してもらえる?


平野

平野さん

うちの場合、第二子の時に“夫婦共にキャリアを持続するための戦術”として育休を計画したんだよね。それは失敗からの学びで、第一子の時は妻が時短勤務で復帰した結果、降格し、元の等級に戻すのに2年もかかった。振り返ると本当にひどい夫なのですが、2人目ができた時に妻から「私だけがまた同じことを繰り返さないといけないのか? 」と質問されるまでそんな事を考えもしなかったんです。それから話し合いが始まって、「子どもを産み育てる=キャリアダウンになる」の構造を変えるにはどうしたらいいかを夫婦で考えた。


川元

川元さん

その構造を変えない限り、積極的になれないよね。


平野

平野さん

妻の希望は「産前に担当していたプロジェクトのリーダー業を継続した形で復職したい。そのために出来るだけ早く復職したいし、復職直後は全力で立ち上がりたい。フルタイムでの復職になるので、復職後も継続的に育児に取り組んで欲しい」。そこで、僕が妻とバトンタッチする形で産後3カ月目に1カ月間の育休を取って、その時期は妻に100%仕事に集中してもらいました。復職後も保育園の呼び出しを分担したりと、妻にまかせっぱなしの状態をできるだけ改善していった。結果、妻は復帰半年後に役職が上がってマネジャーに。僕も上司から「仕事の成果物が良くなったし、短時間で結果を出せるようになった」と評価されて、その後昇格しました。


川元

川元さん

凄い!カッコいい。理想的だよね。


平野

平野さん

育休を取ることで不当な扱いを受けるなんてもってのほかだけれど、ポジティブな事例があればどんどん発信して、「育休を取らせた方が、会社の利益に貢献する」と上司に思わせるくらいのポジティブ転換が進めばいいなと。


育休中の学びを早く職場に生かしたい

赤ちゃんを抱く杉谷さんの手元

実際に育休中の杉谷さん。


高橋

高橋さん

今の話が「いい会社ですね。すごいね。えらいですね」で終わってしまうのはおかしい。本来は、昇格するかしないかは個人のスキルや実績に基づくべきであって、育休取得の有無とは無関係なはず。本来は。成功事例を持ち上げる時に付いてくる「(うちは無理ですけどね)」を早くなくしたい。


川元

川元さん

子育てに関わることで、仕事の効率がよくなることは間違いないと思う。1分も無駄にできないから、取りかかる業務の優先順位が明確になって、成果も早く出せるようになった。長時間労働神話は、令和の時代に完全に脱却したいね。


杉谷

杉谷さん

僕は今まさに育休中だけれど、複合機メーカーのマーケティングの仕事に没頭している日常とはまったく違う世界を見られて、ものすごくインプットがある。これまで知らなかった地域のママコミュニティの構造も面白いし、「全然イノベーションが起きていない!」と驚く新たな市場に気づけたり。子どもができたことで、より長期的に目標を考えるようにもなった。


川元

川元さん

アイディアが湧いて止まらない、って言っていたよね。


杉谷

杉谷さん

最高の研修ですね。スキル面でも、「次のミルクタイムまでの時間に、どの家事をどの順番でやるか?」とスケジュールを効率的に回すクセが磨かれて、夫婦間での指示も「いつまでに、何を、どこまでやってほしい」と明確に伝えられるようになった。職場復帰したら、確実にチームコミュニケーションも変わると思う。


平野

平野さん

育休を取る時もハードルはなかった?


杉谷

杉谷さん

うちは男性の先輩たちも結構、育休を取っていたから、心理的なハードルはほとんどなかった。報告した時に「キャリア大丈夫?」と言ってきたのは一握りくらいで、大半は「頑張れよ。子育てって大変だぞ」というエールをもらえたのはありがたかったですね。あと、会社の取り組みとしていいなと思ったのは、人事がマネジャー向けに育休対応マニュアルを渡して、制度の仕組みやマタハラ・パタハラ防止の教育に積極的だったこと。上司はサポート側に回るから相談もしやすくなった。


高橋

高橋さん

すごく大事!


杉谷

杉谷さん

一つ、ハードルがあったとすれば、業務の回し方。プロジェクトやお客さんを自分で担当していたので、「自分が抜けたら回らないかも」という不安がどうしてもあった。2人1組とかチーム体制で回すスタイルが全社的に促進されたり、そういうチームマネジメントを評価される仕組みが整っていったりすれば、もっと育休は取りやすくなると感じた。


「抜けられない」と「すみません」をなくす

川元さん

時間はかかっても、一人一人の対話から広げていかなければならない。


川元

川元さん

そっか。今の話で気づいたんだけど、僕が「育休取れる雰囲気じゃなかった」と感じた前職の銀行は、実は、業務カルチャーとしては育休取得に向くのかも。コンプライアンス上の理由で、数年おきに担当が交代する決まりがあるから、業務が非属人的ですぐに引き継ぎができる仕組みが確立されているから。実は大きな可能性を秘めていたのだと気づいたぞ!(笑)


平野

平野さん

おー、たしかに。


高橋

高橋

育休取得を阻むハードルとして、もう一つ変えていきたいと思うのは、子育てが理由で同僚の助けを借りるたびに「ご迷惑をおかけしてすみません」と言ったり言われたりすることに慣れ過ぎている文化。よく考えたら、子どものお世話をすることは決して悪いことではないのだから、謝るのは変。


川元

川元さん

なるほど。つい謝ってしまうけれどね。


高橋

高橋さん

「自分が抜けてすみません」は裏を返せば、自分の力量に対するおごりや相手を信頼していないという意味としても伝わるんじゃないか。正解は多分、「ありがとう」。あなたが代わってくれて本当に助かった、頼りになる、ありがとうと伝えるほうが、ずっと健全だし、子育てを助け合う文化をつくれると思う。普段使う言葉を変えることで、意識は変わる。メールのテンプレから変えましょう!


川元

川元さん

子育てをポジティブに語る言葉は、職場では全然足りていない。時間はかかっても、一人一人の会話から広げていくしかないんだろうね。僕自身も、子育てに向き合った期間は、人生を俯瞰して見つめ直す転機になった。大変な時期を一緒に乗り越えたことで、妻とは男女を超えた同志になれた気がする。


杉谷

杉谷

僕らより若い層はもっと子育てに積極的だと言われているから、職場も変わらないと良い人材が来てくれなくなるでしょう。


川元

川元さん

ネックはやはり子育てに関わらなかった上司世代をいかに巻き込むか。大企業の一部門でリモートワークを推進している僕の妻が、「介護の時にも役立つ、と話すと前向きになる人が多い」と言っていた。子育ても介護も、抱える課題はかなり近いはずだから、上司世代と対立せずに、もっと一緒に話し合っていきたい。


「仕事に役立つ」だけでは寂しい

シャボン玉で遊ぶ父と娘

子育ての幸せを公然と言える世の中が理想だ。(写真はイメージです)

Getty Images / eli_asenova


杉谷

杉谷さん

トヨタも「終身雇用できません」と白旗を振る時代なんだから、どの会社も危機感を持っているはず。育休義務化のワンポイントだけじゃなくて、企業の人材育成のあり方や国家としてどう発展していくかという広い視野で議論しないと、意味がないと思う。


川元

川元さん

PtoC代表理事の柴田雄平は飲食系を中心に4社経営しているんだけれど、「育休義務化は中小殺しになりかねない」と言っていた。個人の人生や成長を応援する仕組みと、企業の成長をどう両立させていくかをセットで考えないと、経済は鈍化するだろうと。


高橋

高橋さん

そうだね。個人はもちろん企業にとっても利になる、という構造をつくらなければ進まない。一方で、「仕事に役立たなければ、子育てをする意味がない」とする論調にも違和感がある。子育ての喜びって、そもそも人間にとって根源的な喜びという一面もあるのでは?と思う。仕事に役立つから、だけが動機になるのは寂しい。


杉谷

杉谷さん

共感する。経済合理性だけじゃなく、職場の中でも外でも、子育ての幸せを公然と言える世の中にしたい。


川元

川元さん

単純に、「僕たち全員、赤ちゃんでしたよね」という前提に立ちたい。お互いに助け助けられる循環が生まれたらいいなぁ。


平野

平野さん

ただし、家族の形はこうあるべきと、押し付けるのも間違っている。結婚する・しない、子どもを持つ・持たないは自由で、それぞれを尊重し合えるのが理想。


高橋

高橋

あとは、やっぱり、こういうふうに本音で話せる場づくりは大事。職場でもなく、家庭でもなく、サードプレイスとして、父親同士がつながって子育てを等身大で語れる場。「育児休“暇”と勘違いしてたわ〜」とか「ヤバイ、妻がなぜか無言で怒っている」とか、カッコつけずに弱みをさらけ出せる仲間がいるだけで救われる。


平野

平野さん

まだまだ世の中的には少数派だから、孤独を感じがちだよね。


高橋

高橋さん

「育休取った男性なんて周りに1人もいません」という人のほうがまだ多いでしょ。でもね、ツイッターで育休取った男性をサーチしてリスト化してみたら、ざっと600人くらいになったのよ。これまで見えづらかった存在が、ポツポツと見える化してきたのも事実。


川元

川元さん

その点、今回の義務化の流れは、点と点を面にする可能性を期待したいね。


杉谷

杉谷さん

やる気はそこそこにあってもスキルが追いついていなかった多数派の層が子育てに参加するきっかけになるはず。すると一気に、空気が変わる。


川元

川元さん

そのためには、職場の業務を属人的にしない体制や、上司をサポーターにしていく取り組みが欠かせないことが再確認できた。名実共に安心して子育てできる環境が整って、自分自身の子育てスキルも確実に伸びる機会を持てたら、自然と子育てに向く男性は増えると思う。


(取材構成・宮本恵理子、撮影・今村拓馬)

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