欧米メディアのアメリカ批判が鮮明に。米中対立も「対中攻撃は正当化できない」

中国とアメリカの対立図

アメリカのファーウェイ排除がさらなる米中対立を引き起こしている。

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米中対立が激化する中、欧米主要メディアが、トランプ大統領の対中姿勢を批判する論調を出し始めた。

根底にはトランプ政権の強引な手法が、グローバルな部品供給網を破壊し、同盟国関係にひび割れを生じさせるなど、資本主義システム自体をマヒさせかねないという懸念がある。

争点は「中国の発展モデル」

合意寸前とみられていた米中通商協議が5月初めに物別れに終わり、トランプ政権は中国の通信機器最大手ファーウェイ(華為技術)の全面排除を狙った禁輸措置を発動。米中対立は新たなステージに入った。

トランプ政権による対中国への高関税の制裁とファーウェイ排除の目的はどこにあるのだろう。

莫大な貿易赤字は、アメリカの対中輸出増加によって段階的な解決は可能である。だがファーウェイ排除は違う。

中国は21世紀半ばに、「世界トップレベルの総合国力と国際的影響力を持つ強国」へと成長する戦略を掲げている。この「中国の発展モデル」自体が争点にされている。それを「米中新冷戦」と呼ぶのが妥当かはともかく、アメリカが中国を安全保障上の「敵」とみなす限り、対立は解けないだろう。

「非白人国家と競う初経験」と国務省幹部

ファーウェイ

アメリカから厳しい圧力を受けるファーウェイ。

REUTERS/Jorge Silva

「全く異なる文明、異なるイデオロギーとの戦いであり、アメリカが過去に経験したことのない戦い」

「非白人国家と競う初めての経験」

米中対立をこう表現したのは、米国務省のキロン・スキナー政策企画局長。4月29日にワシントンDCで開かれたフォーラム で、こんな差別的な発言をした。

非白人国家と競う初めての経験?第二次世界大戦で日本と戦ったのを忘れたのだろうか。

それはともかく、この発言については、中国などアジアのメディアだけでなく、欧米メディアからも一斉に批判が巻き起こった。

「異なるイデオロギーとの戦い」という観点は、米国防総省も共有している。

パトリック・シャナハン米国防長官代行は6月1日、シンガポールの「アジア安全保障会議」で、2019年版「インド太平洋戦略報告」を発表した。報告は「自由な世界秩序を求める」理念と「抑圧的な世界秩序を求める」理念との「地政学的競合」と書いた。

まさに「イデオロギーの戦い」という意味である。

もしそうなら、米中対立は終わりのない戦いになる。勝つか負けるか、という冷戦時代の典型的「ゼロサム思考」。対中交渉を「取引」と考えるトランプ氏と異なり、議会や情報機関の安保・情報チームの間には、こうした対中観が広がっている。

「破滅的な結果をもたらす恐れ」

サプライチェーン

ファーウェイ弾圧は中国サプライチェーンにどのような影響を与えるのか

humphery/shutterstock.com

ファーウェイ排除に戸惑いを見せていた欧米メディアも、こうした「冷戦思考」に批判的な論調を掲載し始めた。潮目が変わったようにすら見える。

ブルームバーグは5月22日、「単なるお粗末な計算ミス」と題した社説を発表し、「ファーウェイを破綻にまで追いやろうとするのは行き過ぎであり、極めて愚か」と書いた。

次の3点がその理由だ。

  1. 全世界の企業が契約を失って混乱に陥り、大幅なコスト増を強いられる
  2. ファーウェイ排除を求めるアメリカの圧力に抵抗する同盟国に困惑をもたらした
  3. 中国は対応策を加速させ、国内で先端技術を生産できるようになる

社説は最後に、必要なのは「中国との共存を探る大きな計画」とし、規律を乱すような行為を抑制できる新ルール作りが必要と説き、「ファーウェイつぶしは戦略的な計算ミスのようにしか見えない。それは破滅的な結果をもたらす恐れがある」と結論している。

「対中攻撃は正当化できない」

マーティン・ウルフ氏

「フィナンシャル・タイムズ」のコメンテーター、マーティン・ウルフ氏はトランプ氏の対中政策を痛烈に批判する。

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極めつけは、フィナンシャルタイムズ(FT)のコメンテーター、マーティン・ウルフ氏の「米『対中100年戦争』の愚」(6月7日付「日本経済新聞」掲載)。同氏は、世界銀行を経て1987年にFT入りしたエコノミストで、その論評は各国の財務相や中央銀行総裁も注目すると言われる。

ウルフ氏は、トランプ大統領の対中政策の狙いを「アメリカの覇権の維持だ。その手段は、中国を支配するか、中国との関係をすべて断つかだ」とし、先のスキナー国務省政策企画局長の発言を批判しながら、米中対立をイデオロギーや覇権争いとみなせば、「米中摩擦の着地点は見えない」と疑問符をつける。

その主張を要約すると、

  • 知的財産の盗用が、アメリカに“多大な”損害をもたらしているという見解は疑問
  • トランプ政権の貿易政策上の行為のほぼすべてが世界貿易機関(WTO)ルール違反で、中国を不正と非難するのは欺瞞
  • 中国のイデオロギーはソ連のイデオロギーと違い、自由民主主義の脅威になるようなものではない。右翼のデマゴーグの方がはるかに危険
  • 中国の経済的、技術的な台頭を抑えようとしても確実に失敗する

そして結論として「現在起きていることの悲劇は(中略)トランプ政権が同盟諸国を攻撃し、アメリカが主導して築いてきた戦後の体制を破壊していることだ。アメリカの今の中国への攻撃は、正当化もできなければ、やり方も間違っている」と結んだ。

どうだろう。まるで「人民日報」の論評のようではないか。欧米資本主義を代表する経済紙のコラムニストが、ここまで対米批判を鮮明にするのは極めて珍しい。

G20で問われる発言力

G20 2018

2018年アルゼンチンで行われたG20の様子。

Matias Lynch/shutterstock.com

ブルームバーグもFTも、決して中国にシンパシーを持っているわけではない。ファーウェイ排除がグローバルな部品供給網を破断し、同盟国間に軋みを生んでいること、対中制裁がWTOの紛争解決システムの破壊につながり、引いては資本主義システム自体を傷つけていることに警鐘を発しているのである。

安倍政権は6月末、大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議で初めて議長国を務める。先んじて6月8、9日に福岡市で開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議は、米中貿易摩擦が世界経済の下振れリスクを生んでいるのに、アメリカへの配慮から「保護主義に対抗」という文言を共同声明に盛り込めなかった。

欧米メディアの論調変化は、「日米基軸」となると思考停止のまま受け入れる安倍政権の姿勢を浮き彫りにしてみせる。その姿勢を続ければ、新興国だけでなく欧州先進国からも、思わぬしっぺ返しを受けるかもしれない。

岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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