ライザップグループの取締役を退任し、中国系企業ラディクールジャパンCEOに就任する松本晃氏=2017年10月撮影。
撮影:竹井俊晴
個別指導のトレーニングジムなどを展開するRIZAP(ライザップ)グループで取締役(構造改革担当)を務める松本晃氏(71)が、6月22日の株主総会で退任する。
松本氏は2018年6月、ライザップの瀬戸健社長の要請を受け、2人目の代表取締役としてCOO(最高執行責任者)に就いた。
しかし、同グループが買収を重ねた赤字企業の経営再建に手間どり、グループ全体が193億円の大幅な赤字に転落するなど、同社の経営陣は混乱が続き、松本氏は1年でライザップの経営から離れることとなった。今後は、同社の特別顧問となる。
カルビーやジョンソン・エンド・ジョンソンを成長軌道に乗せるなど、「プロ経営者」としての実績を重ねてきた松本氏が次に選んだのは、中国系研究者らが創業したラディクールの日本法人、ラディクールジャパンのCEOだ。
同社は、コロラド大学ボルダー校の研究者らが開発した、建物などの物体を冷却する素材を販売する。
夏場には大量の電力を消費して建物を冷却するが、同社の「放射冷却シート」を建物の屋根や外壁に貼ると、室内の熱を放射し、温度を下げることができるという。
同社がウェブサイトで公表している中国・寧波市での試験データによれば、シートを貼った仮設の建物と貼っていない建物を比較したところ、シートを貼った建物の室内の温度が15.4度、屋根の温度が29.4度低い結果になった(いずれも最大時の温度差)とされる。
松本氏は、6月11日午後にラディクールジャパンの設立会見を開く。
縁はカルビーの「フルグラ」
ラディクール社を紹介してくれたのは、フルグラを中国の販売するきっかけを作ってくれた人物だった。
撮影:竹井俊晴
松本氏は6月上旬、Business Insider Japanの取材に応じた。
松本氏が同社への参加を決めたきっかけは、カルビーのCEOを務めていた時期にさかのぼるという。
2017年夏、カルビーは、シリアル「フルグラ」を中国向けにネット通販することを発表。東京で日中貿易の会社を経営する何軍氏が、フルグラを日本で「爆買い」する中国人観光客に目をつけ、松本氏に中国向けの販売を提案したという。
その何氏が再び松本氏に声をかけたのが約1年前。「おもしろい素材がある」。
そして実際、松本氏は寧波市を訪れ、放射冷却シートを貼った試験用の仮設建物に入った。
「温度が違うのを実感して、ビジネスのカンとしては、相当うまくできるんじゃなかろうか」
と、ビジネスへの参画を決めた。
ビジネスとしてはまだ未知数
毎年のように猛暑が社会問題化するなか、放射冷却シートの用途は広がりそうだ。
REUTERS/Issei Kato
この放射冷却シートは、コロラド大学ボルダー校の研究者チームが開発した素材だ。2017年3月には、科学誌『サイエンス』にも論文が掲載されている。
開発チームの中核を担ったのは、同大の教授を務める楊栄貴氏。楊氏は、中国で素材の事業化を進め、日本法人の取締役にも就任している。
シートを建物に貼るだけで高い冷却効果が得られるのであれば、建物の屋根や外壁、窓などに貼ることで、冷房のコストも大幅に低減できる。日本でも毎年のように猛暑が社会問題化するなか、用途は広がりそうだ。
同様の効果が得られる塗料や繊維の開発も進めている。
液体を貯蔵するタンク、倉庫、夏場の犬の散歩や、部活動などさまざまな場面への応用が期待されるが、松本氏は冷静だ。
「中国でビジネスを始めているが、本当に効果があって、まだ『これはすごいぞ』というところまでいっていない。どこに使ったら、ビジネスとして成功できるのか。これからというところだ」
(取材・文:浜田敬子、小島寛明)