職場でハイヒールやパンプスを強制されることへの異議を唱える「#KuToo 」。
Business Insider Japan 編集部が行ったアンケートでは、回答者205人中、6割を超える140人が「職場や就活などでハイヒール・パンプスを強制された、もしくは強制されているのを見たことがある」と回答。
そのうち「就業規則などに明記されていた」「上司などから口頭で指示された」のは約4割の69人。多くの人が靴ずれ、出血、外反母趾などの健康被害に苦しんでおり、中にはこうした身だしなみに関するルールがきっかけで転職した人もいた。
さらに靴だけでなく、社員が「ブラック校則」と言うようなメイク、髪の色、メガネ、スカート、爪の長さなど服装や外見に関する細かな規定を設ける会社もある。
6割が強制「ある」、マナー講座や慣習も背景に
SNSでは「本当にパンプスやヒールを強制している会社はあるのか」疑問の声が上がっているが……。
shutterstock/Inspiration GP
俳優・ライターの石川優実さんが立ち上げた署名「#KuToo 職場でのヒール・パンプスの強制をなくしたい!」は2万7000人を超える賛同者が集まるなど、女性を中心に大きな共感を集めている。
一方で、高階恵美子厚労副大臣が「職場で(ハイヒールやパンプスなどの)義務づけをしているところがどの程度あるのか、私も承知していない」と国会で答弁したり、SNSでは「本当に強制している会社があるのか」など疑問の声も飛び交った。
Business Insider Japan 編集部が6月6日〜11日にかけてインターネットを通じて行った「職場のハイヒール・パンプス着用、緊急アンケート」には207人の回答が集まった。回答者は女性184人、男性16人、その他7人。
「#KuToo 職場でのヒール・パンプスの強制をなくしたい!」を立ち上げた石川優実さん。
撮影:竹下郁子
「職場や就活などでハイヒール・パンプスを強制された、もしくは強制されているのを見たことがありますか」という質問には、205人中6割を超える140人が「ある」と回答。「ない」は58人で、「その他」を選択した7人も「レストランのアルバイトで持参するものとして入っていた」「就活のときに洋服店のスタッフから『ヒール3〜4センチはマナー』と言われた」など、指示に近い回答が多かった。
上記で「ある」と回答した人の中で最も多かったのは(複数回答可)、「マナー講座などで指導を受け、それに従っていた」が50人、次いで「慣習になっていた」が44人。一方で、「就業規則などに明記されていた」33人、「上司などから口頭で指示を受けた」36人と、雇用主から明確に強制されていた人も4割近くを占めた。
なぜ女性だけ?の疑問と災害時の不安
男女の違いに「モヤモヤする」という女性たち。
shutterstock/Spica_pic
職場でヒールやパンプスを強制されることについて、118人が「ネガティブ」だと感じていると回答した。
「足に合うパンプスに出合ったことがなかったから。それにお金をかけるのはつらい」(女性、30-34歳、生活関連サービス業・娯楽業)
「就活中にマナー講師から指示され、パンプスを買い、足に合わないと思いながら使い続けた経験があります。フィッティングの時点ではいけると思うけど、実際1日中履き続けたら痛くなるのがパンプスの厄介なところだと思います。道中で履き替えろと言う人もいますが、それだけで荷物は増えるし、なぜ女性だけがそんな苦労をしなくてはいけないのか」(女性、25-29歳、情報通信業)
「男性はヒールなしでも何も失礼ではないのに、女性にはヒールを履かないと失礼というのは何だかモヤモヤを感じます。災害時にヒールで避難や移動をするのは不安でもあります」(女性、20-24歳、学生)
「フォーマルに合いそうな靴なら他にもあるのに、なぜ『女性はヒールを』と言うのか疑問だった。女性差別では」(女性、25-29歳、その他サービス業)
「接客業・営業職だったのだが、歩き回る仕事なのにヒールを実質強制する合理性を感じなかった。きつい言い方をすると普段ヒールを履かない、履いたことのない人間による女らしさの押し付けじゃないかと思った」(女性、30-34歳、卸売業・小売業)
「通っていた美容院で、女性だけネイルとミュールが社長から義務づけられていると言っていた。ひどい話だ。私は店員を眺めに行っているのではなく、自分の髪スタイルを整えるために行っている。気の毒だと思った」(女性、40代以上、教育・学習支援業)
一方で「どちらでもない」と回答したのは28人。「ヒール着用は女性にとってマナーのひとつだと刷り込まれていたから」「制服の一部くらいにしか考えていなかった」など、疑問の持ちようもないほど「社会通念」になっていた様子も伺える。
出血、外反母趾など健康被害を経験
健康被害も多い(写真はイメージです)。
shutterstock/vasara
また、174人がハイヒールやパンプスを着用することで健康被害が生じたと回答。「靴擦れ」やそれによる「出血」、「巻爪」「外反母趾」などが多かった。
「靴擦れや締めつけが原因で痺れが取れなくなった。2年ほど痺れ続けている」(女性、20-24歳、その他サービス業)
「指先に負荷が掛かり爪の内部が出血したり、長時間着用後は裸足でも歩行が困難なほどに足裏に激痛が走る。ひどい時は痛みによる寒気や吐き気も覚える」(女性、25-29歳、教育、学習支援業)
「ハイヒールですべって、階段から落ちた」(女性、40代以上、その他サービス業)
「湿気で足の裏の皮が捲れ、かかとの靴と接する部分からは流血。それを庇うためにおかしな歩き方になった」(女性、20-24歳、金融業・保険業)
通勤時は履き替え、それでも注意
shutterstock/jakapan Chumchuen
しかし会社に抗議した人はほとんどおらず、それぞれが工夫をしているのが現状だ。
「そこで働き続ける必要があったため、何もしなかった」(女性、20-24歳、その他サービス業)
「我慢して履いている」(女性、40代以上、運輸業・郵便業)
「慣習を変える気力もなく、なるべく足が痛くならない靴を探した。足の踵に靴擦れの跡がたくさんあり、見るたびに悲しくなる」(女性、25-29歳、その他サービス業)
「移動時間はスニーカーを履きました」(女性、30-34歳、製造業)
「仕事中はパンプスを強制され続けて対応もできず、通勤のときだけは歩きやすいものを履いている。同期の男性からは『それもやめたほうがいいよ』と言われた」(女性、20-24歳、金融業・保険業)
「中敷を入れたり絆創膏をたくさん貼るなどして履き続けた」(女性、25-29歳、金融業・保険業)
声上げても変わらない現実
撮影:今村拓馬
ごくわずかだが、声を上げた人もいた。だが、聞き入れてもらえなかった人がほとんどだった。
「本部にパンプスの強制をやめるように投書したが、変わらなかった」(女性、25-29歳、卸売業・小売業)
「『ハイヒールは慣れてないし持ってない』と伝えたが、『安いのでいいし買ってください。みんな履くものだから』との返答で、言い返せなかった」(女性、40代以上、宿泊業・飲食サービス業)
「ソーセージやレトルト食品の試食販売にヒールが要りますか?と思った。ローヒールではダメですかと掛け合ったが『最低5cmのヒールで』と指定。なるべく負担にならないようヒールが太いパンプスを買い足した」(女性、35-39歳、卸売業・小売業)
苦痛で仕事を辞める人も
服装規定が職業選択の基準や、その幅を狭めることにもなっている(写真はイメージです)。
GettyImages/monzenmachi
仕事を変えたり、こうしたルールを基準に仕事を選ぶ人もいた。
「ヒールの高さなどまで細かく指示された。毎日足が痛く骨盤にも異常が出てきて苦痛だったので、その仕事をやめた」(女性、35-39歳、学術研究/専門・技術サービス業)
「マナーと言われれば何も言えなかった。つらいことが分かっていて選択することはできなかったので、ヒールやパンプスを履かなくていい仕事に就いた」(女性、25-29歳、教育・学習支援業)
「もともと乗り気ではない仕事だったので、そこに就職しなかった」(女性、25-29歳、その他サービス業)
靴だけじゃない、謎の身だしなみのルール
GettyImages/kumacore
靴以外にも、見出しなみに関するさまざまな職場のルールがあることが分かった。
「メイクを強制されており、敏感肌やアトピー肌の人に配慮がないと思う」(女性、30-34歳、医療・福祉)
「髪色の規定がある」(女性、20-24歳、卸売業・小売業)
「メガネ禁止。視力が悪いとコンタクトを毎日するしかなく、ドライアイになった。コンタクトの方が売り上げが取れるとなると仕方ない気もするが、やはり強制はされたくない」(女性、30-34歳、情報通信業)
「役員が出席する研修では、女性はベージュのスーツで絶対にスカート、ブラウスは白やパステルカラーで統一させられていた」(女性、35-39歳、その他サービス業)
「サンダル通勤不可。社内で履き替えればいいのに、会社のビルに(サンダル履きのまま)入られるところを見られるのが嫌という理由で禁止する意味がわからない」(女性、25-29歳、金融業・保険業)
「前髪を分けておでこを見せる髪型を指定されているが、ぱっつん前髪の何がいけないのかが分からない」(女性、30-34歳、宿泊業・飲食サービス業)
「ノースリーブ、5cm以上のヒール、つっかけタイプのサンダルなどが禁止されている」(女性、40代以上、教育・学習支援業)
「ピンクベージュの口紅をつけなくてはならず、グロスはNGなど厳しい。意味が分からない」(30-34歳、その他サービス業)
「明るい色の服や、花柄などが禁止され、黒・グレー・ベージュがふさわしいとされている」(40代以上、金融業・保険業)
「シャツは白無地、パンツは十分丈でプレスラインが必須。秘書部門は指定上着の下も必ず指定のブラウスか白シャツでなければいけない」(女性、25-29歳、製造業)
「書ききれないほどドレスコードがある。総じて華美、派手、奇抜なものは不可だが、レギンス等も不可と指定されており、基準がよく分からない」(女性、30-34歳、情報通信業)
「特定の売場の女性担当だけ膝丈スカートの制服(通常は男女ともズボン)にヒールを指定。研修の資料ではチークの色すらピンクとされており、嫌悪を抱いた」(女性、35-39歳、卸売業・小売業)
次回、服装のルールで社員を縛る企業の実態を、詳しく報告する。
「職場のハイヒール・パンプス着用、緊急アンケート」
年齢は40代以上が81人、30-34歳が39人、25-29歳が34人、20-24歳が28人、35-39歳が24人。会社員・団体職員が101人と最も多く、パートタイムワーカー、契約・派遣社員など37人、自営業・自由業が21人、学生15人と続く。
職種は情報通信業21人、学術研究、専門・技術サービス業17人、卸売業・小売業16人、医療・福祉15人、金融業・保険業14人、その他サービス業26人、製造業13人、宿泊業・飲食サービス業12人などだった。
(文・竹下郁子)
引き続きアンケートへのご協力をお願いします。
アンケートが表示されない方はこちら