ウーバーイーツの配達員が労働組合の結成に向けて動き出している。
後述する配達員と弁護士らの集会では、事故にあったときの補償がないことなど、多くの課題が明らかになった。一方、最近話題になることも多い「女性の配達員」ならではの苦労はないだろうか。サービスのあり方も含めて見直していく必要があるのでは、と考えさせられる声も聞こえてきた。
問題をシェアして会社と交渉できるように
ウーバーイーツユニオンの準備会。中央が川上資人弁護士。
撮影:竹下郁子
6月12日、弁護士や労働組合の関係者と配達員らが集まり、「ウーバーイーツユニオン設立に向けた準備会」が開催された。
かねてより配達員らと連絡を取り合ってきたという川上資人(よしひと)弁護士は、
「『距離を短く計算されて支払われた』『事故にあっても補償がない』という声が増えています。職場がないので、こうした問題意識を配達員同士が共有することも難しいのが現状です。
労働組合の目的は会社と対立することではありません。少しでも働きやすい環境をつくるために何ができるのか、配達員同士で話し合いながら、会社と交渉できるようにしていきましょう」(川上さん)
と呼びかけた。
参加した約20人の配達員からは「自転車と原付バイクの報酬体系に格差がある」「評価制度が不透明だ」「距離の集計ミスで、直近1カ月分だけでも1万円近くの払い戻しがあった。おそらくすべての期間でやったらもっと高額だろうが、どのくらいまでさかのぼってやってくれるのか」など、疑問や不満の声が上がった。
交通事故の加害者になったら……
イギリス・ロンドンで賃金と労働条件の改善を訴えるデモ。こうした動きは世界各地で広がっている。
Reuters/Peter Nicholls
ウーバーイーツの配達員は「個人事業主」のため、労災や雇用保険の対象にならず、配達中の事故などがかねてより心配されていた。
「配達パートナー向け保険」はあるものの、配達中の対人と物が対象で、配達員本人への補償はない。
準備会に参加していた東京都内で配達員をする41歳の女性も、事故の対応に悩む1人だ。
6月に入ってすぐ自転車で配達中に自動車と事故を起こし、自動車の運転手から「事故の後遺症が出ている」と連絡があった。近々、今後の要求などについて詳しい話をすると言われているという。
女性は今回の事故は「自身の過失」だと語る。このように、配達員側に過失があった場合はどうなるのか。
女性がウーバーイーツの担当部署に連絡すると、女性の「登録を削除する可能性がある」こと、そして「配達員が個人で加入している保険が適用できなかった場合は(配達パートナー向け保険を)申請できる」と言われたそうだ。
女性はこうしたことを危惧し、個人賠償責任補償特約による補償が高額で、示談交渉代行サービスも付いた自転車保険にあらかじめ加入していた。
ところが今回の事故を受けて保険会社に問い合わせたところ、実は業務中の事故には対応していないことが分かったのだ。そのことを前出のウーバーイーツ担当部署に伝えると、はじめは「適用できるか分からない」という返事だったという。
その後「事故対応します」と回答があったが、示談交渉は含まれないため相手とのやり取りはすべて女性が行うことになるそうだ。
こうした一連のやり取りに関して女性は電話での会話を求めたが、連絡はすべてメールで行われ、「聞きたいことがうまく聞けない状態」だったという。
「今もまだ生きた心地がしません。ウーバーイーツの配達員が『事故を起こして会社に補償してもらえず、借金を背負った』とツイートしているのを見ました。ユニオンなんて正直どうでもいいと思っていましたが、今回のことでその大切さが分かりました。私も力になってほしいし、私も同じような状況で苦しむ人を助けたい」(女性)
注文者に顔を知らせる必要があるのか
街中でも増えてきた印象がある、女性の配達員。やりがいがあるという一方、危険を危惧す声も(写真はイメージです)。
shutterstock/MAHATHIR MOHD YASIN
テレビや女性誌が特集を組むなど、注目が集まるウーバーイーツの「女性配達員」。12日の準備会にも2人の当事者が参加していた。
前出の女性は「運動不足の解消に」、もう1人の22歳女性も「ジムに行くのはお金がかかるので、運動がてら」に始めたそうだ。空き時間に手軽にできることもあり、主婦にも人気だという。
前出の女性も「当初の目的だった運動になったのはもちろん、届けたときのユーザーの笑顔や反応などが嬉しく、やりがいもある」と語る。
一方で、不安な声も聞こえてきた。
ウーバーイーツは注文して配達員が決まると、配達員本人の顔社員と名前(ニックネームも可)、さらには今どこを移動しているかが注文相手に表示される仕組みになっている。
現役の配達員が女性配達員たちに対し、注文者に顔を知られていることの危険性を注意喚起するネットブログもあり、川上弁護士は「配達先の人にいきなり『◯◯ちゃん』と呼ばれてこわかった、という趣旨のツイートを見たことがあります」という。
準備会に参加していた男性配達員もこの仕組みに疑問を覚え、改善するよう会社に訴えたが変わらなかったそうだ。
一方で、ツイッターには注文者とみられる投稿者とウーバーイーツのアカウントで、こんなやり取りもあった。
「初めてウーバーイーツでマック頼んじゃった。配達料金380円。早かった。すごい。でも配達員の顔写真は女性だったのに来たのはゴリゴリの男性だったよ」
「この度はUberEATSをご利用いただきまして有難うございます。差し支えなければ、当該配達パートナーの情報を以下リンクよりお知らせいただけますでしょうか。突然のご連絡となり誠に恐縮でございますが、ご協力のほど宜しくお願い致します」
ウーバーイーツの配達員は、顔写真や位置情報に加え、注文者からの評価も表示されるようになっている。注文者側の安全や利便性だけでなく、配達員側の安全やプライバシーにも、もっと目が向けられるべきではないだろうか。
(文・竹下郁子)