ブランドバッグもサブスク(定額制)サービスで。着実に、ユーザーを増やしているサービスがある。
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毎月定額で「〜し放題」のサブスクリプション(定額制)サービスは、音楽や映像ばかりではない。毎月6800円の高級ブランドバッグのサブスク「Laxus(ラクサス)」を展開する、ラクサス・テクノロジーズは、有料会員2万人、30〜40代女性を中心に支持を集めているという。
高級ブランドバッグも「所有」から、「利用」の時代なのか。ユーザーのリアルな生活を聞いてみた。
資産価値が目減りしないものにお金使いたい
独立して金融の仕事を続けている、溝井英子さんも、ラクサスユーザーだ。かつてはバッグをたくさん持っていたという。
撮影:滝川麻衣子
【溝井さんの場合】
ラクサスで借りるブランド:FENDI、エルメス、ヴィトンのTAIGA、仕事外ならジミー・チュウ、クリスチャン・ルブタンなど
お金をかけていること:金融資産、健康
自分のバッグ:洋服、バッグ含めて500点ほど断捨離して、メルカリで売った
「もともとバッグは好きで、たくさん持っていたのですが、転職の時に断捨離したんです。古くなったら資産価値が落ちていくバッグにお金をかけるより、不動産や金融資産に投資したいと考えるようになりました」
溝井英子さん(39)は、金融、人材サービスの管理職を経て、2017年に独立。今は個人事業主となって、日本を拠点に、海外の金融機関とダイレクトにやりとり。日本の顧客に海外の金融機関が提供する商品を紹介する仕事をしている。半年前から、ラクサスを定期的に利用し、主に仕事用のバッグとして使っているという。
ラクサスで新たにバッグを借りる頻度は2カ月に1回程度で、交換のタイミングは「これいい」というものが出た時。
「信用が何より大切な仕事で、お客様の質問にはすぐに応える必要があります。あらゆる質問を想定して資料を用意していると、荷物が本当に多くなる。丈夫でちゃんとしたものをと考えると、やはりブランドバッグになるんですよね」
金融の世界は「信用第一」。質のいいバッグを持つことは「ビジネスマナー」と溝井さんはいう。
撮影:滝川麻衣子
この日、溝井さんが持っていたのは、イヴ・サンローランの黒い革の大ぶりなハンドバッグ。ノートパソコンに紙の資料までたっぷり入ること、高級感はあっても目立ちすぎず地味なこと。普段、白、黒、ネイビーあるいはベージュの上下スーツに、ラクサスのバッグで仕事をする。
「ブランドバッグは安いものとやはり、製法が違う。しっかりしたものを使うことは、ビジネスマナーにもなると思っているので」
もともと、ブランドもののバッグも好きで、いくつも買っていたという溝井さんが変わったのは、働き方を大きく見直したことに大きく関わっている。
営業職が長く、大手企業で管理職を務めて来た溝井さん。不動産業界でも仕入れに回り、マンションを数棟売って、テレアポや飛び込み営業を続けてきたという。
「この先、ずっとこういう生活を続けることはできないと考えて、働き方を自分で選べる独立を決めました。その時に、バッグや洋服など、500個ほど断捨離をしたのです」
ブランドバッグは買わなくなるの?
出典:ラクサスのホームページ
高級ブランドバッグのサブスクと言われるラクサスは、2015年にサービスをスタート。月額6800円で、約3万3千個のバッグから、どれでも1つだけ借りたいバッグを借り放題だ。
数日で送り返してもいいし、同じバッグを数カ月借りていてもいい。一つのバッグの平均利用期間は1カ月半程度で、9カ月以上の利用継続率は98%以上という高い定着率を達成しているという。
さらに、2017年1月からは、ラクサス・テクノロジーズが仕入れたバッグ以外に、ユーザーがバッグを貸し出しできるサービス「ラクサスX」をスタートさせた。預けたバッグがユーザーによって借りられると、1カ月あたり2000円が入金される方式だ。全バッグのうち、3割強をユーザーの預けたバッグが占めている。
ルイ・ヴィトンの店舗を訪れる中国人女性たち。ブランドバッグのサブスクは、ブランドの市場を食わないのか?
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こうした、サブスク式の高級ブランドバッグが定着するほど、ブランドバッグは売れなくならないのか?
ラクサス・テクノロジーズの児玉昇司社長は、その疑問についてこう答える。
「ブランドバッグのファン層はむしろ、広がると確信しています。今の若年層は、ブランドものに興味がないと言われますが、本当にそうでしょうか。世界有数のデザイナーと熟練した技術者の手により作り上げられたアイテムは、本質的に誰もが欲しいものであるはずです」
ラグジュアリーブランドは、高価ゆえに「不要」と思い込まれているに過ぎないと、児玉社長は指摘。
「大切なのは買うことではなく、使うことです。ラクサスで買わなくても使えるという新しい選択肢を提供することで、ブランド自体のファンや需要も増やしていけると考えています」
使って見て、いいと思えば自分で買う
パラレルワークで働く井関さん。この日、ラクサスで借りていたのはロエベの黒のハンドバッグだった。
撮影:滝川麻衣子
【井関さんの場合】
ラクサスで借りるバッグ:グッチ、ロエベ、ゴヤール、シャネル
お金をかけていること:夫婦で一戸建てを買ったばかり、ビジネス資金
自分のバッグ:セリーヌ、イヴ・サンローラン、エルメス
「ブランドバッグはもういらないとは、なっていませんね。むしろ逆です。ラクサスで使ってみて、いいと思ったら買うので」
そう話すのは、貿易会社で人事総務の管理職をしている、井関聡美さん(32)。2018年秋頃からラクサスを使い始めた。目的は、「ふだん使わないブランドのバッグを借りること」だったという。もともと、高級ブランドバッグは好きで、自分でも持っている。
好きなものを長く使いたい
若い世代にも人気の高いラグジュアリーブランド、グッチのハンドバッグ。
Juan Naharro Gimenez /GettyImages
「ハイブランドのバッグはレザーの質感が好きなのですが、重いので。実際にパソコンを入れて使ってみて、使用感を確認します。その上で、機能的でおしゃれだなと思ったら買います。でも、実際に使ってみないと分からない」
井関さんはパラレルワークで、ヨーロッパ高級ブランド品の並行輸入も手がけている。ファッション関係のイベントやパーティーによばれる時に使うバッグを借りる事も多いという。
例えば2018年に流行ったメタリックバッグなど「流行ではあるけれど一生使うものではない」ものは、ラクサスで借りている。
「バッグはやはり消耗品。私は好きなものをお手入れしながら長く使いたいのです。自分のバッグを休ませたい時に、ラクサスを使ったりします。そうして使ってみて、欲しくなったら買う感じです」
何にお金をかけているのか?を聞くと、井関さんは「最近、一戸建てを買いました。それに今は、ビジネス資金やプライベートのために貯金することを意識しています」。
冒頭の溝井さんは「健康」だという。「健康でさえあれば、なんでも始められる。この世で『自分』という資産より優れた金融資産はないと思っています。自分資産に8割、金融資産に2割ですね」(溝井さん)。
所有よりも、使うという消費へ
「バッグも補完されるより使われたいはず」という言葉は、ユーザーの話にも度々登場。
出典:ラクサスのホームページ
ラクサスユーザー、溝井さんや井関さんの「ラクサスを使う理由」から見えてくるのは、質の良いものを「所有にこだわるより、使う」に重点を置いた消費行動と、目減りするものより、健康や金融資産、不動産、ビジネス資金など「増やすための投資」にお金を使うという価値観だ。
こうした価値観や消費の気分を、ラクサスはうまくすくい取っていると言えるかもしれない。
これまで4つの会社を立ち上げたシリアル(連続)起業家である児玉社長が、ラクサスのサービスを思いついたのは、2000年代半ばにアメリカを訪れたときのこと。大量生産、大量消費型社会に懐疑的な風潮が生まれる中、インターネットの普及に伴い、洋服のシェアビジネスが盛り上がっているのを目の当たりにしたことが原点だ。
「大量に作って大量に捨てる」という消費構造に違和感をもっていた児玉社長は「かっこよく美しく、”持続可能な社会”をつくりたい」と、シェアビジネスへの参入を決意したという。
こうした価値観が日本でも広まりつつあることは、昨今のシェアリングエコノミーサービスの普及が裏付けている。
ラクサスサービスにはアプリのGPS機能によるユーザーの位置情報や(オンオフは選択可能)、レンタル実績などによるユーザーの行動データ、形状や素材による劣化の具合などバッグそのもののデータなど、日々、データが蓄積されている。サービス普及と共に、こうしたビッグデータの活用が、時代の気分やユーザーの心理をどうつかみ取って行くのか。
ブランドバッグのサブスクが拓く、今後の展開に注目だ。
(文・滝川麻衣子)