中国の自動車消費市場は2018年大幅に下落し、過去28年で初めてマイナス成長を記録した。
中国自動車工業協会が6月12日に発表したデータによると、2019年に入ってこの状況はさらに悪化している。5月の生産台数と販売台数はそれぞれ184.8万台と191.3万台で、4月比で9.9%減と3.4%減。2018年5月と比べると、それぞれ21.3%減と16.4%減。非常に厳しい状況となっている。
しかし、販売台数マイナスランキングのなかで日本車は目立たない。むしろ販売台数を伸ばす車種が目立っている。
レクサスは150%増
レクサスは中国で、2018年比150%増と驚異的に販売台数を伸ばしている。
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5月の日系自動車メーカーの販売台数を見ると、現地企業との合併企業である東風本田は6万7844台で、2018年同期比で40.9%増。シビック、CR-VとXR-Vはいずれも1万台を超えている。
広汽本田も負けていない。5月の販売台数は6万5215台で、2018年比で25.1%増となった。
日産は、東風日産がSUVのX-TRAILを1万8365台売り、2.5%増。同じくQashqaiは1万3839台売り、20.5%増と売り上げを伸ばしている。
トヨタは中国では一汽豊田と広汽豊田の2社があるが、本田2社ほどの伸び率ではない。それでも10%増(一汽豊田)と1%増(広汽豊田)を達成した。
一方、海外から中国に輸入しているレクサスの5月の販売台数は約1万7000万台。2018年比で150%増という驚異的な増加を見せている。1月から5月までレクサスの販売台数は計約7万6000万台。2019年5月までで27%増を実現している。
マツダとスズキはプラス成長を達成できなかった。
白いTシャツ効果
日系自動車メーカーは、なぜ販売台数を伸ばすことができたのか。
中国の主要な経済メディア『経済観察網』で、「白Tシャツ効果」という言葉が登場したのは2016年。ファッションとして汎用性が高く、コストパフォーマンスの高い白Tシャツが経済の低迷期には流行する、と伝えている。
日本車の販売台数と中国GDPの推移との間には反比例の関係を見てとることができる。
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その上で、同サイトでは「日本車も(白いTシャツと)同様の特性を備えている」と分析している。過去10数年間、中国での日本車の販売台数と中国のGDPの推移の間には、反比例の関係を見て取れるという。
『経済観察網』は2006年以来のGDPを振り返り、日系自動車企業が生産した車種の販売台数と市場占有率(シェア)についてまとめている。GDP成長率がマイナスになった2008年、2011年、2012年、2015年、2017年には、日本車は2012年を除いて販売台数を伸ばしている。ただ、2012年に尖閣諸島(釣魚島)問題が起き、日中の緊張が高まった時期には販売台数とシェアを落とした。
例えば2008年はリーマン・ショックの影響を受けて中国のGDPも4.5ポイント下落したが、同年の日本車の中国における販売台数は174万台に達して、前年同期比15.23%増、シェアも25%上昇し、史上最高を記録した。
日本車はそれまで先行していたドイツ、アメリカ勢を引き離した。
この3年間ひとり勝ち状態
不景気になると売れる白いTシャツ効果、これが日本車にも言えるという。
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その後、世界経済が回復し、尖閣諸島問題が起こると、日本車のシェアは2012年から下落に転じたが、2015年になって再び上向いた。その年、中国のGDPが0.4ポイント下落すると日本車の販売台数は341万台に達して前年同期比8.25%増え、シェアも0.14ポイント上がって16.13%になった。
この年、自動車市場では価格競争が熾烈になり、各自動車メーカーは値下げに踏み切らざるを得なかったが、日系自動車メーカーだけは価格を引き下げなかったにもかかわらず、販売台数、シェアともに増やしている。
そして2017年から中国経済が高度成長から成熟へと向かい、さまざまなリスクに晒されて不調に転じると、日本車はまたその勢力を盛り返してきた。ここ3年間、日本車のシェアは大幅に上昇し、2016年の16.61%から2019年4月には22.52%までシェアを増やした。とくに2018年から、日本車はひとり勝ち状態を維持している。
不景気に強い日本車の「三大特徴」
日本車の三大特徴が、まさに消費者が日本車を選ぶことにつながっている。
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2008年、世界金融危機の「震源地」だったアメリカで、日本車は初めて米国ブランドを追い抜いて第1位に躍り出た。その年、トヨタはアメリカのゼネラルモーターズをおさえて世界最多の販売台数を実現したのだ。
この現象について上記の経済メディアは、大半のユーザーが乗用車の購入に際して「リスク回避」に動いた結果だとしている。
不景気になると消費者は可処分所得の減少を考慮し、自動車の購入予算を節約して、燃費性能にすぐれ、安定・安心な日本車を選ぶ傾向がある。周知のように、日本車がアメリカでよく売れた理由は、まさに品質への安心感と低価格にある。
燃費の良さ、低い故障率、中古車でも比較的高い価値を残せるという日本車の三大特徴は、経済が低迷し、将来への不安が募る時代に、消費者が重視する要素だ。不景気時には女性の家庭内における発言権が増し、優しい外観デザイン、性能と価格のバランス、快適性などから自動車を選択する傾向も拍車をかけている。
さらに米中貿易戦争で米国車離れも日本車には追い風となっている。
中国経済の減速、米中貿易戦争……日本経済にとっての“逆風”がむしろ日本車にとってはプラスに働いているということは皮肉なことだ。
陳言:在北京ジャーナリスト。1982年南京大学卒。経済新聞に勤務後、1989年から2003年まで日本でジャーナリズム、経済学を学び、2003年に中国に帰国。経済雑誌の主筆を務めた後、2010年からフリージャーナリストに。