マイクロソフトがチラ見せ、Officeを「天才」にするAI機能

マイクロソフト

アメリカ・ワシントン州レドモンドのマイクロソフト本社。

マイクロソフトは現在、クラウドとAIに注力したビジネスを展開している。一方で「AIといっても我々の仕事には縁遠い」と思っている人もいるのではないだろうか。

アメリカ・ワシントン州レドモンドにあるマイクロソフト本社を訪れ、同社製品の現状について聞く機会を得られた。その中から特に、「毎日我々が使っているオフィス製品などにどのような変化が起きるか」をまとめた。

なお、本記事内で紹介しているデモンストレーションは基本的に英語のものだが、日本語版にも搭載の予定がある。ただし、その時期は明確に示されてはいない。

メールを書かずにWordから「指示」、パワポのデザインも自動化

仕事柄、文章を書いていて、「ここになにかを入れなければいけない」と思いつくことは多い。そういう「ToDo」的な内容は、制作中の文書にメモとして書いておくのが一般的だ。

ただし、文章にメモを残したからといって、それを忘れてしまっては意味がない。

そのため今後のWordでは、文章の中に「やるべきこと」を書き込むと、それが自動的に「ToDoリスト」として認識されるようになる。文章を解析し、それが本文ではなく「自分や誰かに対しての作業の指示である」と認識し、ToDo化するのだ。

Todoリスト

Word内に書いた「やるべきこと」が自動的にToDoリストに。冒頭にチェックボタン(○)がついているところに注目。

 同様に、部下や誰かに指示を送る場合、@以下に相手の名前を入れれば、それが指示になる機能も新たに入る。この場合、メールで相手に文書と共に送信される。メールアプリを開いて書き直す必要がない、というのが「効率化」の部分だ。

メール

冒頭に@を付けて相手の名前などを記載すると、相手へのフォローアップコメントとして、指示などが送れる。

ただしこうした機能は、Microsoft Office+Windows+セキュリティソリューションの組み合わせの「Microsoft 365」で、メール機能などをあわせて利用している際に有効なものだ。

パワポ資料制作にもAI活用機能が入ってくる

プレゼン資料制作でのAI活用はもっとわかりやすい。プレゼン資料作りの面倒なところは、ビジュアル要素を考えることだ。プレゼン資料を作っている人は必ずしもデザイナーではなく、こうした作業が得意とは限らない。そこで、資料内に地名などが含まれていると、デザインを提案する機能が、自動的にその地域にあった写真を選び、挿入してデザインを作ってくれる。

パワーポイント

プレゼン

プレゼン資料の中の地域名などを分析し、必要なビジュアル素材を含めてデザインを提示。これなら、デザインが苦手な人でも容易に資料作成が行える。

流れ図などのデザインについて、現在もPowerPointはデザインを提案してくれるが、今後それはより高度で、バリエーションに富んだものになる。

また、PowerPointの中に、自分の会話をリアルタイムで認識し、翻訳してくれる「ライブキャプション」の機能も盛り込まれる。他国の言葉を話す人々とのやりとりがある方にはとても有用なものだ。

自動翻訳

プレゼン中の言葉を、自動翻訳してキャプションにして表示。マイクロソフトが提供している自動翻訳機能を活用している。

こうした機能を見て、若干の不安を感じる人もいるのではないだろうか。過去にもマイクロソフトは、WordやExcelの中に、多数の「自動的に適用される機能」を追加してきた。

そうした機能は、思ってもいない時に自動的な変換を行ってしまうことから、人々に邪魔者扱いされることも少なくない。

今回の機能群がそうした「余計なお世話」になる可能性も、現状否定はできない。ただ、過去と違う点があるとすれば、背後に言語を分析したAIが動いている、ということだろうか。

その信頼性や精度は、どうしても言語に依存する部分がある。今回のデモは英語だったが、日本語だとどうなるのか。その辺は、日本語版の登場を待たなければわからない。

現在のMicrosoft Officeでは、新機能は一度に搭載されるのではなく、利用可能になり次第、逐次搭載され、アップデートされる。PowerPointでの翻訳を含むキャプション機能は、すでに今年1月から利用可能になっている。まだ使ったことがない人もいるだろうが、ぜひ試してみていただきたい。

MSのSlack対抗「Teams」が目指す未来のビデオ会議

現在、マイクロソフトが開発とプロモーションに力を入れているのが、チームコミュニケーションツールである「Microsoft Teams」(以下Teams)だ。

Slackの対抗馬といえるツールは、前述の「Microsoft 365」に含まれており、導入企業にはハードルが小さいこと、2018年8月より無償版アカウントの提供が開始されたことなどから、利用者が増えている。

Teams

Slack的なビジネスチャットの会話のなかにExcelのファイルが連動している画面。

特にTeamsが重視しているのが「ビデオでのミーティング」体験の洗練化だ。

Teamsの場合、TeamsそのものにチャットやMicrosoft Office文書の編集・管理が統合されているのが特徴だ。その企業の基幹システムと組み合わせると、売り上げなどを常に表示しつつ、その内容を元にチャットで打ち合わせ……といったこともできる。ビールメーカーのCarlsbergはTeamsを導入しており、契約しているパブでのビールの売り上げなどをチェックしつつビジネスを展開している。Microsoft Office文書などの併用ももちろん可能だ。ウェブブラウザーからも使えるし、アプリも用意されている。OSも、WindowsからMac、iOSにAndroidと環境を選ばない。

ビジネス管理

CarlsbergはTeamsを導入しており、店舗からヘッドクオーターまでのビジネス管理とコミュニケーションをTeams上で実現しているという。

そんなTeamsのビデオミーティング機能には、AIがかなり幅広く使われている。一番シンプルなところでは「背景ぼかし」「背景入れ替え」機能が挙げられる。

どこでも参加できてしまうビデオ会議では、背後に見られてはいけないものがあったり、見られたくない場所だったりすることもある。

そこで、人のシルエットを認識し、それ以外をぼかしたり、別の画像に入れ替えたりする。人のシルエット認識にAIを使っているわけだ。背景ぼかしの機能は、すでに導入済みだ。

ビデオ会議

こんな風に無地の背景だと殺風景だが、どちらかというとちらかっている部屋を見られたくない、というような需要もあるはず。

ビデオ会議

Teamsのビデオ会議機能には、「背景ぼかし」や「背景入れ替え」の機能が。ビデオ会議中の背景を気にせずに済む。こんな風に南の島風の背景にもできる。

さらに、2019年中に導入が予定されているのが、外付けのカメラを併用し、「ホワイトボードを会議で活用する」機能だ。ホワイトボードを撮影するのは難しくないが、正面からちゃんと撮るのは面倒なものだ。そこで、傾きを簡単に補正し、ホワイトボードを「白く」、文字をはっきりと見せることができるようになっている。

ビデオ会議

ビデオ会議でホワイトボードを撮影したところ。これをAIで補正すると……。

自動化

こうなる。ホワイトボードの撮影位置合わせは難しいが、それも自動化。傾きなく補正して表示する。

これだけなら珍しくないが、次が面白い。ホワイトボードの前に人が立つと、どうしても書いてあるものが見えなくなる。

そこで、さきほどの「人のシルエットを認識する」機能を使い、ホワイトボードの前から人を一旦消し、さらに半透明にして重ねるのだ。これは、実際に映像を見るとなかなかインパクトがある。

ウェブカメラ

ホワイトボードの前にいる人のシルエットを「半透明」にする。これで、表示が見にくくなることもない。これが、PC+2万円の、普通のウェブカメラで実現できるというのもすごいところだ。

半透明化

このように半透明化される。ある意味、現場で顔を見ながら会議をするよりもわかりやすいかもしれない。

しかも、こうした機能を使うために、特別なカメラは必要ない。「Skype for Businessでの動作検証がなされたウェブカメラならどれでもいい」とマイクロソフトの担当者は言う。

量販店では2万円程度で売られているもので十分で、圧倒的にコストパフォーマンスがいいのが特徴だ。

さらに、こうしたビデオミーティングの内容には、音声認識を使ってキャプションを付けたり、内容を記録しておく、といったことが可能になる。

ということは、「ミーティングの内容を、議事録を起こすことなく検索可能になる」ということである。例えば、自分の名前でミーティングを検索し、自分に関連する部分だけをチェックしたり、特定の案件についての話題を改めてチェックしたり……といったことが可能になるわけだ。

技術としては、PowerPointの「ライブ翻訳キャプション」でやっていることと同じだ。それをビデオミーティング機能にも取り入れることで、日常的に行っている「議事の確認」という要素を大幅に簡素化し、効率アップを図ることが可能なのだ。

ミーティングのテキスト化と検索については、現状英語での対応がアナウンスされている段階だ。だが、マイクロソフトのコグニティブAIサービス(AI認識サービス)は日本語にも対応しており、すでに「ビデオや音声からのテキスト起こしとインデックス化」は可能になっている。

あとは、英語で実現されている精度を、いかに日本語で実現するか、という点だけだ。

日本マイクロソフト

文字起こし機能が動作しているところ。話者が一人、かつピンマイクで鮮明な声が取れているという条件の良さはあるものの、十分な精度で文字起こしできているようにみえる。

こうした部分でAIが仕事のツールとして入っていくことで、我々の仕事の進め方からは、どんどん無駄な作業が減っていく。

「人間がいないと検索できなかった」「人間がいないと絵や文章にならなかった」ものが、「音声認識」「自動翻訳」といったAIの力を借りることで、とるに足らない作業になっていく。マイクロソフトは、オフィスツールのなかで、まずAIをそういう形で活かそうとしている。

(文、写真・西田宗千佳)


西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。

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