6月18日に開催された「モバイル市場の競争環境に関する研究会」と「ICTサービス安心・安全研究会 消費者保護ルールの検証に関するWG」の合同会合。
撮影:石川温
「完全な楽天シフトだね」
6月18日、携帯電話料金に関する総務省の有識者会議が開催された。各メディアで報じられた通り、2年契約を解約する際の違約金の上限を1000円とすることや、端末の割引が上限2万円になることがほぼ決定した。
違約金が1000円に設定されたのは、利用者アンケート(6000人)で他事業者への乗り換え意向がある人(2847人)のうち、違約金支払い意思がある人(1758人)について、8割を超える人が許容できる違約金レベルが「1000円だった」という結果から来ている。
この「アンケートで政策を決める」という安直さに有識者からは 「違約金の条件が1000円、端末割引の2万円という(アンケートによる)決定プロセスには疑問がある」 「アンケートは標準的な手法が取られていない。それのみを根拠とした政策化は容認できない」と異論が相次いだ。
撮影:今村拓馬
だが、結局は「総務省がどのように意思表明をしていくかが重要だが、今回、事務局がきちんと意思を表明したことに敬意を表したい」として、賛同が得られる事となった。
前回の有識者会議が非公開による密室の議論で、しかも、アンケートをもとにした金額設定であったが、最終的には丸く収まった格好だ。
そんな中、ある有識者が会議終了後につぶやいたのが「完全な楽天シフトだね」という発言だ。
やめやすい環境は楽天にとって好都合
2019年10月に第4のキャリアとしてのサービスを始める楽天。
撮影:小林優多郎
2019年秋以降、違約金が1000円以下になることで、当然のことながら、ユーザーにとってみれば、今契約しているキャリアをやめやすくなる環境が整う。
「2年縛り」の更新期間であっても、違約金が1000円であれば好きなときにやめられる。実際はMNP手数料などもかかるため、1000円だけではやめられないが、それでも負担は大きく減り、やめやすくなるのは間違いない。
そんな中で、10月に第4のキャリアとして参入するのが楽天だ。
楽天は、かなりの低料金プランで大手3社に対抗してくると見られている。しかし、どんなに安い料金プランでも大手3社がユーザーを囲い込んでいては、楽天としても太刀打ちできない。
今回、総務省としてはなんとか楽天の新規参入を成功させようと、大手3キャリアからやめやすい環境をゴリ押しで整備したと見られている。
「割引やポイント還元も規制」は逆風か
楽天が得意としている、ポイントサービスには暗雲が?
撮影:小林優多郎
一方で、大手3社を苦しめるはずの政策が逆に楽天の首を絞める可能性も出ている。
例えば、端末の割引に関しては「通信契約の継続を条件とするものは一律禁止」「条件のない端末販売における端末代金の割引は上限2万円」と決められた。
つまり、これまで楽天モバイルを代表する売り方であった、端末代金への大きな割り引き(筆者は「三木谷割」と呼んでいる)に大きな規制がかかってしまうことになるのだ。
また、総務省では端末割引のことを「利益の提供」と言っているのだが、この利益にはポイントの付与なども含まれている。つまり、楽天が得意としている、ポイントサービスに関しても、端末購入時などには付与できない可能性も出てきた。
楽天はユーザーと総務省の双方の期待に応えられるか
楽天の三木谷浩史社長。
撮影:小林優多郎
第4のキャリアとなる楽天に求められるのは「安くて、どこででもつながるネットワーク」だ。
東京23区、名古屋市、大阪市以外は当面、KDDIのネットワークを間借りするので問題ないが、それら主要都市以外の地域は自社でエリアを構築しなくてはならない。
楽天社長の三木谷浩史氏は「我々は携帯電話の民主化を掲げる。2年縛りのようなことはしない」と公言しており、契約してもすぐにやめられる契約にするようだ。
そうなると「安さが魅力で楽天に加入したが、つながらないのでやめたい」という声が出るようなことがあったとしても、真摯に応じなくてはならなくなる。
総務省が、ゴリ押ししてまで実現させた「違約金1000円」。
総務省にここまでお膳立てしてもらっただけに、楽天としても10月までになんとしてでも「安くて快適なネットワーク」を実現し、安価な料金プランを求めるユーザーと総務省の期待に応える必要があるだろう。
(文・石川温)
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。