「難民をエンジニア人材に育てる」就労“伴走”NPOが始めた日本初のプロジェクト。楽天らも強力支援

難民 アフガニスタン

母国を逃れ、日本で難民になった男性が、路上生活を抜け出し、正社員プログラマーになった。

提供:NPO法人WELgee

米軍と反政府武装勢力タリバン、テロ組織IS(イスラム国)が入り混じった泥沼の戦いが続くアフガニスタンを逃れ、日本で難民になった28歳の男性が、路上生活から一転、正社員のプログラマーになった。

この男性をロールモデルに、難民支援を手がけるNPO法人WELgee(ウェルジー)が、難民をプログラマーに育てる「Tech-Up(テックアップ)」を始める。アフリカやアジアに進出したい企業にとって、難民は貴重な人材になり得るという。

「ITを通じて、母国の子どもや女性に貢献したい」

それがアフガン難民の男性の夢だった。母国の戦乱を逃れて2017年2月に日本に渡り、待っていたのは路上生活。男性を救ったのは、ITベンチャーのアダワープジャパン(東京・千代田)だった。結びつけたのはWELgeeの渡部清花代表。同社は男性に住居と食事を提供し、ゼロからプログラミングのトレーニングを行った。

男性は数カ月後、アダワープに正社員として採用され、いまはITを通じて母国に貢献する夢の実現を目指している。

プログラミング教育、PC、住居を無償提供

難民 プログラム

提供:WELgee

WELgeeは、このアフガン難民の男性をロールモデルとして、Tech-Upを企画した。

日本に逃れてきた難民に対し、オンライン学習を中心としたプログラミング教育を4カ月間無料で行い、日本での就職を目指す。WELgeeが難民を集め(選抜を行う)、オンライン学習の実地支援(教育係)はボランティアを募る。

なお、 Tech-Upプログラムの対象者となるのは、「特定活動」(法務省HP参照)の在留資格を持ち、就労が認められている難民認定申請者のみとなる。

難民認定:「難民の地位に関する条約(難民条約)」の規定を実施するため、国民年金の受給資格や旅行証明証の交付など保護を受けられる「難民」の地位について、入国管理法に基づき、法務省が審査決定を行っている。不認定の場合でも、人道上の配慮を理由に在留特別許可が出るケースもある。

WELgeeは楽天が提供する社会課題解決支援プログラム「Rakuten Social Accelerator(楽天ソーシャル・アクセラレーター)」の採択を受けており、楽天の社員もプロボノ(=専門知識や技能を活かして参加するボランティア)でTech-Upのプログラム設計・企画立案をサポートする。

また、協働する日本福音ルーテル社団(JELA)は、住まいとしてシェアハウス「TOKIWA(トキワ)」を提供し、プログラミング学習に使うパソコンも貸与する。いずれも無償。学習カリキュラムは、同じく協働団体のDIVE INTO CODE(ダイブ・イントゥ・コード)が寄付講座として提供する。

Tech-Upプログラムは2019年9月上旬から開始し、まずは難民6人を対象にする。

シェアハウス 難民

難民たちのシェルターとなるシェアハウス「TOKIWA(トキワ)」。

出典:WELgee 公式Facebookページ

WELgeeによると、Tech-Upのトライアルとして、2018年11月から4カ月間、難民6人にプログラミング教育を行い、そのうち1人の就職(現在は試用期間中)が決まったという。冒頭のアフガン難民の男性と同じく、プログラミングはまったくの初心者だったが、Tech-Upでの学習を経てウェブエンジニアとして採用された。

WELgeeの林将平さんは、「海外進出を考えている企業をはじめ、社会全体にTech-Upを知ってほしい」と話す。アフリカやアジア、中東など未開市場の開拓に、難民たちが言語や文化に関する知見を活かして貢献できるからだ。もちろん難民側にとっても、日本から母国に貢献する道が開ける。

ドイツではグーグルやマイクロソフトが難民就労支援

ドイツ 難民 学校

グーグルやマイクロソフトが支援するドイツの難民向けテクノロジースクール「ReDI School」はすでに1000人以上の人材を輩出している。

出典:ReDI School HPより編集部がキャプチャ

WELgeeがTech-Upの立ち上げにあたって参考にしたのが、ドイツの難民向けのテクノロジースクール「ReDI School」。グーグルやマイクロソフト、フェイスブックなどが資金や機材、コンテンツなどをサポート。150人の難民に対し、200人超のボランティアが講師を務める。

すでに1000人以上の難民が同スクールを卒業し、起業家も輩出した。

Tech-Upは「ReDI Schoolの日本版のような存在を目指す」(WELgeeの林さん)としており、自らの存在を「日本初の難民向けプログラミング道場」と位置づけている。

日々生きるためだけの単純労働を強いられる難民が数多くいる現状を踏まえ、WELgeeの渡部代表はTech-Upへの思いをこう語る。

「(難民たちが)昼も夜もほとんどやることがないなかで、故郷の紛争のネガティブなニュースを見て悲しくなるか、YouTubeで気を紛らせるかの毎日を送っている。パソコンさえあれば学べるプログラミング技術を、未来を生き抜く武器にする方法を真剣に考えたい」

難民認定率で先進国中「最下位」の日本

日本の法務省によると、2018年の難民認定申請者は1万493人(認定者は42人)、2017年は1万9629人(同20人)、2016年は1万901人(同28人)と、3年連続で1万人を超えた。

ところが、認定NPO法人難民支援協会によると、先進7カ国(G7)の難民認定率(難民認定申請者に対する認定数、2016年)は、アメリカ62%、ドイツ41%、フランス21%に対し、日本は0.3%と最下位にある。

難民の就労をめぐって、WELgeeは「難民認定申請者が就労できる在留資格を得られても、日本語能力や社会からの孤立、企業からのイメージなどが影響し、就労を困難にしている」と指摘している。

(取材・文:今井はる)

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