FRB、ハト派急旋回のドタバタ劇。「鏡に映った自分」に怒るトランプ大統領

パウエルFRB議長

市場関係者に注目された6月18~19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の終了後、記者会見する米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長。

REUTERS/Kevin Lamarque

注目された6月18~19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、アメリカの政策金利である「フェデラルファンド(FF)金利」の誘導目標を2.25~2.50%に据え置くことを決定した。

FOMCの会合後に公表された声明文の修正ポイントは2点。

(1)利上げに「忍耐強く(patient)」あるとの文言を削除したこと、その代わりに(2)「適切に行動する(act as appropriate)」との文言を加えたことである。

さらに「見通しに対する不透明感が高まった(uncertainties about this outlook have increased)」との記載も加わったことを踏まえれば、利下げの"露払い"という整理で良さそうだ。

焦点は利下げの「有無」から「幅」へ

ニューヨーク証券取引所のトレーダー。

6月19日、パウエルFRB議長の記者会見のニュースが流れるなか、ニューヨーク証券取引所で働くトレーダー。FRBがハト派に急旋回し、「ドル全面安の下でユーロ高、円高が進む」という見方は市場関係者の間でさらに強まっている。

REUTERS/Lucas Jackson

今回はセントルイス連銀のブラード総裁が0.25%の利下げを主張して却下されているが、FOMCメンバーの金利見通し(ドットチャート)では2019年末までに0.25%か0.5%の利下げを見込むメンバーが17人中8人と半数近くに達している。年内の焦点は利下げの「有無」ではなく「幅」(0.25%なのか、0.5%なのか)に移ったと考えて良いだろう。

ドットチャートを詳しく見ていくと、前回公表された3月時点では17人中11人が現状維持、4人が1回利上げ、2人が2回利上げを想定していた。つまり、利下げを視野に入れていたメンバーはいなかった。

だが、今回は17人中1人が1回利上げ、8人が現状維持、1人が1回利下げ、7人が2回利下げとかなり大きく変わっている。

2回利下げの7人は「0.25%×2回」か「0.5%×1回」を意味しているため、「7月に0.5%」という腹積もりのメンバーも含むかもしれない。

【図表】

【図表】

【図表】は、年4回目の利上げを決断した直後となる2018年12月と今回について、ドットチャートを比較したものである。もはや想定している政策金利の軌道は半年前と別物であり、2020年末などは1%も齟齬が出ている。

2019年末は中央値・最頻値ともに2.375%なので2018年末から0.5%程度の下方修正にとどまっているように見えるが、上述したようにこれは8人が現状維持を予想した結果である。半数近いメンバーは利下げを予想している実情があるため、図が示すイメージ以上にドットチャートは下方修正されていると考えて良い。

FRBの「のりしろ論」が招いた混乱

アメリカの工場で働く人たち。

アメリカの工場で働く人たち。FRBスタッフによる失業率の見通しは低下し、実質GDP成長率の見通しもやや上方修正された。そのようなタイミングで、FRBがハト派色を強めることの正当性は分かりにくい。

REUTERS/Timothy Aeppel

それにしてもここまで性急な修正が許されてしまうと、ドットチャートはかえって混乱を招くだけにも思える。

確かに、この半年間で米中貿易戦争の激化やイギリスのEU離脱(ブレグジット)を巡る混乱が不透明感を強めたという事実はある。とはいえ、「年4回利上げからの年2回利下げ」という急旋回を要するほど経済・金融環境が激変したかと言われると疑問だ。

例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)スタッフ見通し(SEP、予想中央値)に目をやれば、実質国内総生産(GDP)成長率見通しはやや上方修正され、失業率も低下している。

失業率については「自然失業率」と同一視される長期見通しも下がっているため、今回の失業率低下は需給ギャップの縮小をもたらすものではない(つまり物価も押し上げない)という整理なのだろう。

しかし、それでも成長率見通しが引き上げられていることは事実である。そのようなタイミングで金融政策運営が顕著にハト派(金融緩和に積極的)色を強めることの正当性は分かりにくいものがあると言わざるを得ない。

トランプ政権の保護主義は確かに不透明感を強めているが、それ自体は2018年からリスク視されていたことであり、その不規則な言動も常態と言えば常態であった。インフレ基調も元々さほど強くはなかった。

結局、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)よりも「将来の利下げ余地」を作るための「のりしろ論」を主軸としてきた政策運営が、このドタバタ感につながっているということではないのか。

トランプ大統領の二枚舌

トランプ米大統領。

金融市場では、トランプ米大統領が追加金融緩和の可能性を示唆した欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁に「口撃」を放ったことが注目された。

REUTERS/Kevin Lamarque

金融市場では6月18日、トランプ米大統領が追加緩和の可能性を示唆した欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁に「口撃」を放ったことが注目された。

ドラギ総裁がECB年次総会でインフレ率の鈍化が続く状況に対し「追加の景気刺激が必要」と述べ、利下げや資産購入の再開について言及した。これを受けてユーロ相場が対ドルで一時下落するという場面があった。

トランプ大統領はこれに噛み付き、自身のツイッターで「対ドルでのユーロ下落を引き起こしており、アメリカと競争しやすくしている」と反撃し、市場で「ドラギ vs. トランプ」の構図がはやし立てられるようになった。

利下げや量的緩和(QE)の再開などの潜在的な実施可能性は6月6日のECB政策理事会でも言われていたことであり、ドラギ総裁としてはその確認をしただけだったと思われる。トランプ大統領の攻撃的な反応でかえって事が大きくなった感じがある。

しかし、である。FRBがこれだけハト派色を強め、そうした方向転換を大統領自身が扇動してきた経緯を思えば、二枚舌も甚だしいと言わざるを得ない。

わざわざトランプ大統領が騒いだことでECBはもちろん、日本銀行も今後の言動に気をつけなければならない雰囲気が出てしまっている。

6月19日、浅川雅嗣財務官が「緩和的金融政策を取ることは、自国通貨安への誘導ではないのであれば、お互いに許容しようというのがG7、G20での合意」とメッセージを発しているのは正しい動きであり、国際的な紳士協定をツイッター1つで反故にするような動きには看過できないものがある。

これまで国内の金融政策運営や海外との通商関係など、ことごとく口を出してきたトランプ大統領だが、他国政府ですら介入をちゅうちょする他国中央銀行の政策領域に踏み込むことは異常であり、ますます孤立を招く契機になるかもしれない。

打つ手限られる日銀、ドル全面安・円高へ

日銀の黒田総裁。

FRBがハト派色を強めるほど円高圧力がかかる。黒田東彦総裁率いる日本銀行は「次の一手」を検討せざるを得なくなるが、打つ手は限られる。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

そもそも変動為替相場制の世界において通貨の方向感を思い通りに設定でき、しかもその動きに継続性をもたせる能力がある中央銀行はFRBくらいであり、本来ならば最も政治的介入を排除しなければならない存在と考えられる。

ドラギ総裁の発言は確かにユーロ安を誘う内容ではあったが、結局、FOMC後の動きを見ると対ドルで上昇している。FRBや米金利、ドルこそが為替市場の潮流を作るということが良く現れた地合いになっている。

いずれにせよ6月のFOMCを境にFRBは利下げ局面に入ることになる。だが、FRBがハト派色を強めるほどに円やユーロに上昇圧力がかかり、日銀やECBが「次の一手」を検討せざるを得ない状況になる。

上述したように、基本的に為替市場の潮流はアメリカの通貨・金融政策によって規定される部分が大きく、「次の一手」は無為に終わる可能性が高い。しかし、だからと言って「何もしない」わけにはいかないのが中央銀行の辛いところである。日銀もECBもなけなしの金融政策の「カード」から、何らかの妙手を検討せざるを得ない。

そうして通貨高に対応しようとする海外中銀にいきり立つトランプ大統領は、まるで「鏡に映った自分に怒る」という不毛な行為にいそしんでいるようにも見える。

円やユーロが騰勢を強め、日銀やECBが動きを強いられているのはFRBのハト派傾斜によるところが大きく、そうしたFRBの動きを政治的に要求してきたのがトランプ大統領自身である。

筆者は過去2年ほど、FRBの金融政策の正常化プロセスは物価・賃金情勢に照らせば過剰と考え、FRBがハト派に急旋回する結果、「ドル全面安の下でユーロ高、円高が進む」という展開を警戒してきた。ここにきてそのシナリオの確度は急速に高まっているように思える。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔:慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)国際為替部でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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