クルマなし自炊なし、東京感覚を捨てられない20代だといくら?地方移住のお値段

五島

観光気分でやっていけるほど、移住は甘くない。

近年、注目を集めている「地方への移住」。リモートワークやテレワークといったオフィスに通わずに仕事ができる制度を整える会社も増え、これからもその波は強まっていくことが予想されています。

Business Insider Japan編集部では、東京から1240km離れた長崎・五島列島で1カ月間のリモートワークを実施。参加してわかった「移住のリアル」をまとめてみました。

1. 地方移住ならいま離島が「お買い得」

じつは離島移住はいま政府によって振興されていて、かなり“お買い得”になっていると言えます。

きっかけは2017年に施行した「有人国境離島法」という法律。これを機に政府は毎年40億円から50億円の予算をかけて、離島への移住や観光を促進しているのです。

例えば筆者が滞在した五島列島は、以下のような移住支援制度があり(特に若い世代にとっては)まさに至れり尽くせり。

  • 家賃無料(最大半年まで)
  • 起業の経費の一部を助成
  • 奨学金の返済を一部負担
  • 面接時の交通費を一部負担
  • 空き家のリフォームを一部助成
  • 子育て世帯のための引っ越し補助金(上限15万円)

実際に、2018年に五島市に移住したのは202人で、その7割が20代から30代の若者世代。多くが上記の移住支援制度を活用しています。

ちなみに、交付金の対象となっているのは以下の地域・島。それぞれ移住支援制度の内容は違うので、興味のある人はそれぞれ調べてみることをオススメします。

特定有人国境離島地域

交付金の対象となっている、特定有人国境離島地域の一覧。

出典:内閣府

2. 1カ月でかかる生活コストは?

五島

おいしいご飯屋さんがたくさんあるので、意外と食費がかさむ。

では、20代の筆者が単身で1カ月、五島で暮らすとしたらどれくらいかかるのか?概算してみました(なお、五島市役所などがある福江町に住むと仮定します)。ただし、筆者は「カフェに毎週通いたい」「自炊はあまりしたくない」「新しめの物件に住みたい」「毎週、飲みに行って地元の人と触れ合いたい」といった希望があります。

  • 家賃……6万円(1Rで築浅)
  • 食費……3万2000円(毎日食費に1000円を使い、500円のコーヒーを週に1回飲むとする)
  • 交際費(外食代など)……2万4000円(毎週2回、3000円の飲み会などに参加するとする)
  • アクティビティなど……1万円
  • 交通費(ガソリン代など)……5000円
  • 水道・光熱費・Wi-Fiなど……1万5000円
  • 消費材など雑貨……5000円

あくまでざっくりした数字ですが、そこまで節約せずに希望のまま生活した筆者の場合、1カ月で15万円くらいになるかと思います。生活スタイルによっては、島暮らしだからものすごく生活費が安い……というわけでもないことがわかります。

しかしこれはあくまで「東京感覚」を捨てられない筆者ゆえかもしれません。中心部でも探せば3万円くらいの物件もあり、島の平均的な生活コストは10〜11万円程度に抑えられるという試算もあります

ひとつポイントは、この記事でも書いた通り、筆者はクルマの免許を持っていません。必然的に移動の際はバスを使うか、誰かのクルマに乗せて行ってもらわないといけません。人とのネットワークは生きる上の死活問題。交際費を多めに見積もったのはそのためです。

ただ、この状況もドライバーとマッチングできるアプリ「crew」などが進出すれば、変わっていく可能性もあります。

3. 仕事は「さがす」から「つくる」に

五島

博報堂が出資している古民家風のカフェ・ベーカリー「wondertrunk&co. travel・bakery」。

滞在中、離島暮らしの人の悩みとして多く聞いたのが「給料が安い」こと。給与額面で10万円代の仕事も少なくないといいます。

その一方で、東京からの移住者が立ち上げた新しいビジネスが生まれている様子もみることができました。

例えば写真の「wondertrunk&co.」は博報堂系列の旅行会社が運営するカフェ・ベーカリー。現在は現地の人々の憩いの場となっていますが、今後はインバウンドに力を入れ、海外旅行者のための情報拠点にしていく予定だそうです。

他にも、アジア初のスカンジナビア風グランピング施設「Nordisk Village Goto Islands」や、クラウドファンデイングによって実現した私設図書館「さんごさん」など、離島を新たなビジネスの“挑戦の場”として活用する動きも盛んです。

4. 「離島移住に失敗する人」の特徴は?

五島

観光気分の移住者は失敗しがち?(写真は五島)

リモートワークの拠点ができ始めているなど、働きやすい・暮らしやすい制度も整いつつある離島。その一方で、離島出身者が語る“リアル”もあります。

奄美大島で高校卒業まで暮らし、今は東京に暮らすユリさん(24、仮名)は「観光気分のまま移住してしまう人」は移住に失敗しやすい、と指摘します。

「市内で一人暮らしする場合、家賃は5万円から6万円ほどで、意外とそんなに下がらない。マリンアクティビティが好きで移住する方も多いですが、シーズン中は値段が上がったりして毎日気軽に、とはいかないことも多いです」

また、価値観や考え方の違いも考慮に入れた方がいい、とユリさんは言います。良くも悪くも、ご近所さんとの助け合いによって成り立っている田舎暮らし。

一度仲良くなれば「家に勝手に人が入ってくる」こともよくあり、プライバシーのなさに息苦しさを感じる移住者も多いそうです。

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離島にもリモートワーク環境が整いつつある(写真は福江町にあるセレンディップホテル)。

“お買い得”とはいえ、当然ながらメリット・デメリットは一長一短な離島での移住。

ただ、1週間暮らしてみて思ったのは「離島移住は考えるよりも、意外と近いところにある」ということ。まず1カ月お試しで踏み出してみて、それから考えてみるのも悪くないなあと思いました。その際には、「観光気分のまま移住してしまう人」に、まさに筆者自身が当てはまることも肝に銘じておきたいです。

その前に、クルマの免許を取得すること……はマスト条件になりそうですが。

(文・写真、西山里緒)

※編集部注:生活コスト算出の詳細などを追記しました。2019年6月25日12:10

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