アマゾンにヤラレっぱなしじゃいられない。アメリカで進む「小売店舗の逆襲」

小売り

カリフォルニア州サニーベールにあるグローサリーアウトレットの店舗。

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6月20日にナスダックで、日本人はおそらく誰も知らない、アメリカに住んでいる人でも特定の地域に住む人以外聞いたことがない、スーパーマーケットチェーンが上場しました。

「グローサリーアウトレット」という小売企業で、アメリカ西海外を中心に320店舗展開しているチェーンです。売上は23億ドル(約2469億円)で、IPO初日の終値で株価が30%アップし投資家の期待値の高さが伺えます。

アメリカではアマゾンをはじめとするECが破竹の勢いで成長しています。

一方、小売店舗はやられっぱなし、成長余地が少ない業界と思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。

2018年の米国国勢調査の統計では、小売売上全体の約10%がオンラインでした。

米国国勢調査のEC利用比率

出典:米国国勢調査より

オンライン購入の比率は年々伸びてはいるものの、まだ全体的には店舗購入の方が大きく、また、オンラインショッパーの半数以上(56%)が、オンライン購入はしているものの店舗購入の方が好ましいと答えたデータもあります。

この、店舗購入の方が本当は好きだけど利便性を考えてオンライン購入をしているという層に対して、いかに訴求するかが小売店舗戦略で重要になってくるのではないでしょうか。その鍵は、(1)顧客層を絞ることと、(2)体験ショッピングを提供することにあります。

上記のグローサリーアウトレットのビジネスモデルは単純明快。

  • 有名ブランドの使用期限が近づいてきた商品
  • パッケージ変更を行なった商品
  • 過剰生産だった商品

などをサプライヤーから超低価格で買取り、消費者に定価の40〜70%オフの価格で販売するというもの。

結果的に消費者に圧倒的な価格優位性を提供すると同時に、業界平均よりも高い利益率で商品を販売するできているといいます。ECやPB(プライベートブランド)などにも一切手を出さず、小売店舗拡大とそれによって手に入る「強力な購買力」をサプライヤー(ブランドやメーカー側)に対して築き、「低価格」という価値を消費者に提供することにのみ注力している会社です。

「賢い買い物」体験はブランド価値。「実感」の作り方が鍵

格差が広がる米国では、低価格を打ち出し、その約束を守るお店に顧客が集まります。

また、消費者に対して「賢い買い物をした」と思ってもらう体験を提供するため、レシートの最後に「今日あなたは$68.99ドル節約しました」と、定価との差額をわかりやすく記載し、レジ打ちの人がその箇所に必ずボールペンで丸をつけて消費者の満足度を高めるパーソナライズした体験を提供しています。

この、「顧客体験を重視した買い物」(体験ショッピング)は小売店舗経営を成功させる上で大事な要素の1つとなっています。例えば、マットレスの製造と販売に特化したD2Cモデル(オンライン直販)の、いわゆるユニコーン企業(2019年3月時点で11億ドルの企業価値)のキャスパーでは、オンラインからビジネスを始め顧客データを収集した後で、あえて小売店舗に展開をしています。

キャスパーのマットレスを体験できる店舗では、マットレスがガラス張り店内にただ並べられたものではなく、消費者に実際に昼寝をしてもらう場所、ヌック(隠れ場所の意味)を提供しています。

キャスパー

キャスパーの仮眠体験個室「ヌック」。

Casper

完全個室のヌックを予約制(45分で25ドル)で提供、ヌックの中にはキャスパーのベッドと読書用ライト、オートフェードライトとパジャマ、歯ブラシなどがついています。顧客が使用するたびに新しいリネンに取り替えられるので安心。昼寝体験を消費者に提供することで、マットレスの良さをわかってもらうという戦略です。

ウォルマート vs. アマゾン、AI店舗戦略は対照的

ウォルマートのIRLの天井カメラ

ウォルマートの実験店舗「インテリジェントリテールラボ(IRL)」店内。天井には無数のカメラがあり、購買の様子をデータ化している。

IRL

オンラインと店舗戦略、両方を攻めて成長を続けるウォルマートの株価は、アマゾンの株価や他のテック業界の株価が規制強化などの影響を受け不安定な状況なのと比べると、上昇傾向にあります。貿易摩擦などで経済が混乱、減退するにつれ生活必需品を生産する会社やそれを販売する小売に投資家の目が向いているとWall Street Journalは報じました。

そんなウォルマートが注力しているのがAIです。店内のセルフチェックアウトマシンにコンピュータービジョン(画像認識)センサーをつけて万引き防止をしているだけではなく、ニューヨーク州にある4645平方メートルの実店舗をインテリジェントリテールラボ(IRL)と名付けて在庫管理、物流、支払い、カスタマーサービスなどあらゆる角度からAI活用の実験場として使っています。

店舗内には3万品のアイテムが揃い100人の店員を抱えており、実店舗でのAI活用を進めることで、実証実験を多角的かつ実践的に行い、その後の他店舗展開を可能にするための布石だと考えられます。

IRLで店員の端末に商品アラートが届くイメージ

生鮮商品の売れ行きもモニターしており、店員の手元の端末には在庫追加のアラートも出る。

IRL

Amazon Goのように「小さい店舗」で「シミュレーションされ尽くしたAIドリブンな棚設計」と「現場オペレーション」で行うのではなく、あくまでウォルマート流にこだわり、大きな店舗をたくさん持つ強みを生かしています。

IRLのCEOには、Jet.comのCTOを務めていたMike Hanrahan氏を起用し、その本気度が伺えます。

消費者の特性や好み、購買などの貴重なデータが手に入り、かつ店内での行動データも活用できる大きなチャンスに溢れた「小売店舗」。

AIを活用してアマゾンとの直接対決に挑むウォルマートのような大手もあれば、グローサリーアウトレットのような実店舗にこだわり、顧客層のターゲティングと価格戦略で成長する企業もあります。

また、キャスパーのように体験ショッピングを重視して顧客との接点強化のために小売店舗を使うケースも増えました。今後も、小売店舗がデータ活用や顧客の体験場所としてどのように使われていくか、注目しています。

(文・石角友愛)


石角友愛:2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのGoogle本社で多数のAIプロジェクトをリードする。後にHRテックベンチャーの立ち上げや流通系AIベンチャーを経て2017年パロアルトインサイトを起業。日本企業に対してシリコンバレー発のAI戦略提案からAI実装まで一貫した支援を提供する。新著に「いまこそ知りたいAIビジネス」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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