働き方改革でこぼれる仕事は誰がするべき?「私、定時で帰ります」部下と付き合うには

働き方改革、ハラスメント対策……職場が“民主化”する令和時代、現場マネジメントのあり方も変わりつつある。働く時間はより効率的に短く、でも業務は減らず、人も増えない。そして経営層からは厳しい業績の要求。無理ゲーなミッションを達成しなければならない上司(中間管理職)と部下は、どんな関係を築いて行けばいいのか。

悩める上司

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令和時代の上司の心得その2「諦観から始めよう」


浜田さん

Business Insider Japan浜田敬子統括編集長(以下、浜田)

令和時代の上司の心得として、他に覚えておくべきことは?




大室さん

大室正志さん(以下、大室)

職場が民主化され、同調圧力から解放された結果、価値観・感性の多様化が進んでいます。「僕と君は違う人」という当たり前の事実を胸に留めて、違いを認め合う。そういう姿勢が、マネジャーに求められていると思います。

そういう環境の中で大事になるのが、「部下は自分と同じ考えや行動をしない」というある種の諦め。“諦観”から始めることが、令和時代のマネジメントのベースになるのではないでしょうか。


浜田さん

浜田

諦観!


大室さん

大室

最近はスポーツの世界でも、「気合いと根性で俺に付いて来い!」タイプの監督より、駅伝の原晋監督(青山学院大)のように「一人ひとりの性格に合わせて指導を変えていく」と、メンバーに寄り添ってカスタマイズマネジメントをするリーダーが結果を出していますよね。ダイバーシティは諦観とセットで成立するものなんです。

ただし、「うちはここを大事にしていこう」と核となる方針は全員で握っておく必要がある。


浜田さん

浜田

雇用が流動化する時代、職場には違うバックグラウンドを持ったメンバーがそろうケースも増えています。その多様性を維持するためには常に自分の考えを口に出して伝えなければ分かり合えないんだ、ということも実感してます。ダイバーシティは手間暇がかかると。


大室さん

大室

マクドナルドのバイトマニュアルって、ものすごい厚さですよ。要するに、コンテクストを共有していない相手に仕事を教えるには、膨大な言葉が必要になるということ。寿司職人にはそんなに分厚いマニュアル、要らないでしょう。


浜田さん

浜田

徒弟制度があってコンテクストを叩き込むからですね。でも今後多くの企業でダイバーシティが進み、マクドナルド的な環境が増えていくはずですよね。とはいえ、そんな分厚いマニュアルを作るわけにはいかない。


大室さん

大室

マネジメントコストは急速に上がっていますし、マネジメントリスクも上がっています。

一方で、多くの会社で上司は現場で結果を出すプレイングマネジャーであることも求められる。マネジャーが最も“無理ゲー”なんです。

とはいえ、その流れは変わらないと思います。多くの業種・職種において、「部下との認識合わせやモチベーション管理により手間暇をかけたほうが、長期的な利益につながるだろう」という方向づけがすでにされているので。

令和時代の上司の心得その3はじめが肝心! 「期待値ギャップを埋めよ」

日本の職場

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浜田さん

浜田

4月からの働き方改革で、部下の労働時間の管理がより厳しくなり、残業はさせにくくなってます。でも、業務の全体量は変わらないから、ポロポロこぼれる仕事がある。「あれ? 誰が拾うの? 私?」という話はよく聞きます。


大室さん

大室

いや、事実キツイですよ。「金稼げ」と言われながら「時間守れ」ですから。本来の働き方改革の意図としては、「全体の仕事の棚卸しをして、アクセルとブレーキをうまく使い分けろ」ということなのだと思いますが、実際の現場では「アクセルとブレーキを同時に踏めと言われても」と、戸惑う声多数ですね。


浜田さん

浜田

マネジメントが以前よりも複雑化して質的にも量的にも負担が増していることを、会社側がどれほど理解しているのか。今の若い世代は管理職を元々敬遠しがちですが、ますます“割りに合わない仕事”だという認識が広まるのではと心配です。


大室さん

大室

マネジメントの負担を軽減するために、上司側ができる方法は二つあるかなと思います。一つは、マクドナルド的に徹底して合理化してコンテクストを排除する方法。もう一つは、徹底してはじめにコンテクストを覚え込んでもらう方法。

「うちの職場はこういうところで、私はあなたにこういう役割を期待している」と丁寧に説明する。部下が職場に抱く期待が過剰と感じたら、「うちではそれは実現できない。なぜならこういう状況だから」と早めにすり合わせる。


浜田さん

浜田

たしかに、その説明が不足すると、後々すれ違いが生じやすいですね。


大室さん

大室

人は「思っていたのと違う!」と期待値ギャップを感じた時にストレスを抱くんですね。昭和時代、「親方からゲンコツもらうかも」と予め言われていた板前さんは、ゲンコツもらっても今ほどは傷つかなかったでしょう。


浜田さん

浜田

大室さんに寄せられる上司からの相談で、他に目立つものは?


大室さん

大室

やはり「仕事が多過ぎる」という悲鳴はよく聞きます。やらなきゃいけない業務を部下に振ろうとしても「私はできません」とたらい回しにされて、結局、自分がやるしかない。業務管理がメンバーシップ型からジョブ型へ移行する過渡期に起こる典型的な問題ですね。

公平な評価制度をつくる上でもジョブ型へと進む流れは良いことだは思うのですが、過渡期においては「そうはいっても、割り切れない仕事もあるよね」と歪みが出るのが現実のようで。


浜田さん

浜田

「私、定時で帰ります」と、部下が帰った後の仕事を、部長が残業してやらざるを得ない。


大室さん

大室

かつては“修行”と美化された雑用の担い手がいなくなっている。実際のところ、球拾いをより早く実戦でボールを打ったほうがテニスは上達するし、それを新人もよく分かっているから誰も率先して球拾いをしない。「じゃ、球拾いを誰がやるの問題」があちこちで勃発していますね。


浜田さん

浜田

いま若い人に無理やり球拾いをさせたら辞めちゃう。かといって、上司が全部拾っていたら、本来やるべき仕事に注力できない。


大室さん

大室

この球拾い問題は、上司部下の関係におけるルールが大きく変わったから出てきた問題の一つですね。


浜田さん

浜田

上司の役割がこれだけ複雑化してくると、上司の分業化は避けられないのではないかと思っています。プレイヤーとして稼ぎ続けたい人と、部下マネジメントを緻密にやっていく人。1人何役も担うのは無理ゲーなので、複数の人が得意分野に特化するチーム制のマネジメントが合理的ではと。


大室さん

大室

たしかに、ありですね。今の日本の管理職は、もともとはプレイヤーとして実績を積んできた人が多い。ダイバーシティ・マネジメントを求められて苦手意識を抱いている人にとっては、分業制は救いになるでしょう。

一方で、マネジメントの専門スキルを磨く教育も必要。上司と部下がフラットに意見を言い合える関係性を築くには、相当のトレーニングを要する。すぐにはうまくいかないものだと、長い目で見ていただきたいですね。




(構成・宮本恵理子)

大室正志:大室産業医事務所代表。産業医科大学医学部医学科卒業。ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医、医療法人社団同友会産業医室を経て現職。メンタルヘルス対策、生活習慣病対策等、企業における健康リスク低減に従事。現在約30社の産業医。社会医学系専門医・指導医。著書『産業医が見る過労自殺企業の内側』

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