世代間格差は「1億円」。シルバー民主主義による「若者へのツケ回し」を止める方法とは

年金手帳。

深刻な少子高齢化によって社会保障につぎ込まれる公費が膨らみ続けるなか、将来も制度を持続させていくためにはサービスの効率化や負担増は避けられません。こうした対策がなかなか進まないのはなぜでしょうか?

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年金支給額の伸びを抑え、必要性の低い医療費の自己負担は増やし、消費税率はさらにアップ。深刻な少子高齢化によって、社会保障サービスにつぎ込まれる公費が膨らみ続ける現実を踏まえれば、将来も制度を持続させていくためにこうした対策は必要です。でも、簡単には進みません。

今の高齢者には不利かもしれないけど、若い世代や、これから生まれてくる「将来世代」の利益になる。そうした政策の具体化が進まないのは、高齢者の政治的な影響力が強く、どの政党も高齢者に配慮した政策ばかりを掲げる「シルバー民主主義」が原因では? 現状を変えるにはどうすれば良いのか?

そのような問題意識から世代間格差を主な研究テーマの一つにする、法政大学教授の小黒一正さん(公共経済学)に聞きました。

「財政的幼児虐待」の実態

親子。

歴代の政権は、借金を雪ダルマ式に膨らませながら若い世代や将来世代にツケを回してきました。そうした実態を「財政的幼児虐待」と呼ぶ学者もいます(写真はイメージです)。

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まず、本当に今の高齢者はトクをしていて、若者は損をしているのでしょうか?

「各世代の個々人が生涯を通じて、政府に対して税や保険料といった形でどれだけの負担をし、年金、医療、介護といった公共サービスからどれだけの受益を得るかを推計する手法を『世代会計』と言います。

私が関わった共同研究では、今の政策がそのまま続くとすると、この生涯負担から生涯受益を差し引いた『純負担』は、90歳の世代でマイナス2604万円(受益が負担を上回る)だったのに対し、0歳は2662万円(負担が受益を上回る)、将来世代は7540万円(同)。

つまり『孫は祖父母より1億円も損をする』という世代間格差があります。このような実態を『財政的幼児虐待』と呼ぶ学者もいます」(小黒さん)

法政大学教授の小黒一正さん。

法政大学教授の小黒一正さん。

撮影:庄司将晃

同じような試算はいくつも公表されています。公共サービスの大きな部分を占める社会保障制度の支え手は少子高齢化で減っていき、現役世代1人あたりの負担は確実に増えていきます。

いますぐ「本当に必要な人だけに」といった形でサービスを効率化して全体の費用を抑えたり、増税や保険料アップによる負担増といった対策を取れば、より幅広い世代が将来にわたって負担を分かち合うことになります。

しかし、歴代の政権はそうした対策の実施をためらいがちで、借金を雪ダルマ式に膨らませながら若い世代や将来世代にツケを回してきました。

若者に負担押し付ける「民主主義の失敗」

お年寄り。

少子高齢化によって高齢者の政治的な影響力が強まり、どの政党も高齢者に配慮した政策ばかりを掲げるようになった——。そんな「シルバー民主主義」仮説が浮上しています(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

なぜこのようなことが続くのか。その理由を説明する有力な仮説の一つが、「シルバー民主主義」仮説です。

1960年代初めに5%台だった、日本の人口に占める65歳以上の比率は右肩上がりが続き、今では3割弱。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年には35%を超えます。有権者に占める高齢者の割合も伸びており、今後もその傾向が続きます。

若い世代は数が少ないうえに、選挙での投票率も低め。直近の国政選挙だった2017年の衆院選でも、全体の平均が53%だった投票率を年代別に見ると、20代が33%、30代が44%だったのに対し、60代は全年代で最高の72%、70歳以上は60%と大きな差があります。

こうしたデータだけを見れば、どの政党も「選挙に勝つためには高齢者に有利な政策を訴える必要がある」と考えても不思議ではありません。

「シルバー民主主義が本当に存在しているかどうかは、学会ではまだ結論が出ていません。

ただ、私が関わった実証研究では、相対的に強い政治力を持つ高齢者が、意識的か無意識的かに関わらず、若い世代や選挙権を持たない将来世代に過重な負担を押し付ける現象が生じている可能性を示唆する結果が出ました。

具体的には、47都道府県の2000~2010年のデータを用い、高齢化と高齢者関連支出の間の関係を分析したところ、有権者の高齢化は高齢者一人当たり老人福祉費の増加と強い相関があることが確認されました」(小黒さん)

社会保障制度を有効に機能させていくためには、その元手となる「富」を生む一定の経済成長が必要です。しかし、国や地方の財政は高齢者向けを中心とする社会保障費と借金返済の負担に圧迫され、子育て支援や都市部のインフラ整備といった将来の成長に向けた投資にお金が回りにくくなっています。

「高齢者のなかには『本当に困っている人』も少なくありません。そうした人たちにきちんと届く支援策が必要なのは当然です。

ただ、相対的に強い政治力を持つ高齢世代が全体として、若い世代や選挙権を持たない将来世代に過重な負担を押し付ければ、国が衰退していくのは当たり前です。これは『民主主義の失敗』といっても過言ではありません」(小黒さん)

世代別選挙区、子どもの分まで親が代理投票……改革への提言

選挙ポスターの掲示板。

シルバー民主主義を変えるにはどうすれば? 民主主義の基礎となる選挙制度について、さまざまな専門家が改革に向けた提言をしています(写真はイメージです)。

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では、どうすればいいのでしょうか? 民主主義の基礎となる選挙制度について、さまざまな専門家が改革に向けた提言をしています。小黒さんによると、代表例は次の通りです。

(1)世代別選挙区制

選挙区を地域ではなく、例えば「30代までの青年区」「40~50代の中年区」「60代以上の老年区」といった年代別に分け、議席数は各年代の有権者数が全体に占める割合に応じて配分し、各世代の代表を選ぶものです。

各世代の代表が議員になれば、当然「世代間格差」が論戦のメーンテーマの一つになり得ます。

「実現した場合、世代間対立が顕在化するおそれはあります。ただ、日本の場合は『(一般に高福祉高負担の)大きな政府か、小さな政府か』を巡る政党間の違いは諸外国ほど大きくないため、それほど対立は先鋭化しないのではないかと予想しています。高齢世代にも次世代の状況を心配する人も多くいるので、必要な議論が表で行われるようになることは、むしろプラスだと考えます」(小黒さん)

(2)ドメイン投票法

選挙権年齢に達しない子どもにも選挙権を与え、その親が代理として投票する方法。例えば親子3人の家族なら、父母がそれぞれ「1.5票」を投票します。

わが子の行く末を考えて投票する親は、将来世代の利益を代弁するという考え方に基づく仕組みです。ハンガリーで導入が検討されたこともあるといいます。ただし「1人1票」の大原則との関係をどう整理するかは、慎重に検討する必要がありそうです。

「今の選挙権年齢は18歳ですが、例えば中卒で働いて納税している人などもいます。なぜ『子ども』は投票できないのか、という問題はもっと議論されるべきだと思います。

日本の選挙制度の歴史を振り返っても、資産家の成人男性に限られていた選挙権が段階的に拡大されてきました。ドメイン投票法導入の是非については、選挙権年齢のいっそうの引き下げとセットで議論すべきだと思います」(小黒さん)

(3)余命投票方式

世代別選挙区のいわば「拡張版」で、平均余命に応じて議席数を配分する方式。例えば平均寿命が80歳とすれば、「青年区」に属する30歳の人の平均余命は50年、「老年区」に属する70歳の人なら10年。この時、青年区の議席数が老年区の5倍になるように議席数を配分します。

「より長い視野のもとで意思決定する可能性が高い、若い世代の投票力のウエートを高めることができます。見かけ上『1票の格差』が生じますが、実は寿命が同じならどの人も生涯を通じた投票力の合計は変わりません」(小黒さん)

「世代間問題」解決には民主主義のアップデートが必要

何世代かにわたる家族。

現在の豊かな日本社会は、いまを生きる私たちだけで築いたものではありません。「自分たちの世代までいい目を見られればいい。後のことは知らない」という理屈は通用しません。

Instants/Getty Images

国や自治体の借金の膨張や地球温暖化といった「世代間問題」には、「いま解決しなくても自分たちの世代には深刻な被害が生じないかもしれない」一方で、「解決しようとすればすぐにコストを負担しなければならず、その恩恵を主に受けそうなのは将来世代」という特徴があります。

こうした問題への対処は、とりわけシルバー民主主義のもとでは「先送り」が多数意見になりがちです。しかし放っておけば、いつか誰かがたまったツケを払うことになります。それはあなたや友人の子どもや孫たちかもしれません。

現在の豊かな日本社会は、いまを生きる私たちだけで築いたものではありません。「自分たちの世代までいい目を見られればいい。後のことは知らない」という理屈は通用しません。

7月21日に投開票される参院選の選挙戦が、事実上始まりました。残念ながら、この記事で紹介したような選挙制度改革を強く訴える主要政党はありません。このままでは何も変わらないのです。

うまく機能しなくなってきた日本の民主主義をどうアップデートするか。若い世代はもちろん、深刻な世代間格差の原因をつくったその上の世代も真剣にこのテーマに向き合い、声を上げるべき時です。

(文・庄司将晃)

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