LINE CONFERENCE 2019に登壇したLINEの主要役員たち。
LINEは6月27日、事業戦略発表会「LINE CONFERENCE 2019」(以下、カンファレンス)を千葉県の舞浜アンフィシアターで開催した。
カンファレンスでは例年、同社の事業方針などが披露される。今回も多くの新しいサービスやパートナーが明らかにされた。
筆者は2018年のカンファレンスも取材しているが、今回はとくに「LINEの今後の命運を左右する」と言っても過言ではない発表が多かったように思える。5つのポイントにしぼって発表内容を振り返ってみよう。
1. LINEサービスの個人化に必須な「LINE Score」
発表と同時にローンチとなったスコアリングサービス「LINE Score」。
最も印象的なのはやはりスコアリングサービス「LINE Score」のスタート。LINE上のサービスやコンテンツの利用傾向データから算出される新しい信用情報の形だ。
日本でのスコアリングは、ローンを組むなどといった金融分野での活用例がメインに取り上げられがちで、LINE自身も今までFinTech事業の1つとしてLINE Scoreを紹介する機会が多かった。
LINEの社長を務める出澤剛氏。
しかし、今回のカンファレンスではあえてLINE Payや金融事業とは別枠でScoreの正式リリースがお披露目された。
Scoreの紹介セッションに登壇した社長の出澤剛氏は「パーソナライゼーション、テイラーメイドなサービスを提供するため」とScoreの存在意義を説明。今後も幅広く展開するLINE関連サービスの根幹を握るサービスと位置づけているようだ。
ただし、スコアリングサービスには非常にセンシティブな側面がある。代表的な例だと、LINEより早い6月3日にスコアリングを始めたヤフーには、サービス内容の説明不足を指摘する声がユーザーから噴出。同社は21日に謝罪文を公開し、個人ユーザー向けの詳細説明ページを設置する事態になっている。
LINEは通話やメッセージのデータに基本的にアクセスできない。それはLINE Scoreでも同じだ。
ヤフーとLINEのスコアリングの性質はやや異なり、LINE側もそれを意識してか、LINE Scoreのプライバシー性について以下のように強調した。
- ユーザーの同意(サービスの開始手続き)がない限り、スコアの算出は始まらない
- LINE通話やメッセージは暗号化されており、LINEでは内容まで把握できないため、スコア計算の対象外
- ユーザーが逐次同意しない限り、外部企業へのスコアのシェアは行わない
- スコア化に必要な「行動傾向データ」は、LINE Payで購入した内容や閲覧したコンテンツの内容などの個人データをそのまま使うのではなく、ある程度抽象化して処理される
出澤剛氏は実際に自身のLINEアカウントでスコア化を発表会中に実施。初期の質問に答えたあとのスコアは「555」だったと話した。
また、出澤氏自身がカンファレンスの中で、スコアリング機能をオンにし、自らのスコアを公表しながらそのスキームを解説しているのも印象的だった。月間8000万人超とされるLINEの国内アクティブユーザーにどのように受け入れられるか、注目したい。
2. 友だち以外とつながる「OpenChat」
「友だち」以外と共通のテーマ、集まりでグループチャットが可能になる。
次に大きな変更と筆者が感じたのが、メッセンジャーとしてのLINEの新機能である「OpenChat」。友だちではない複数人で共通の話題を話すのに便利なグループチャット機能だ。2019年夏に提供開始予定で、現在は先行してサービスを利用できる一般のテストユーザーを募集している。
LINEにはグループチャット機能がすでに搭載されているが、グループ内の少なくとも1人と友だちにならないと参加できなかったり、管理者権限の概念がないために参加ユーザーの追加・削除を誰でもできてしまったり、問題が指摘されていた。
OpenChatは「招待/参加」「プロフィール」「管理者権限」3つのポイントに注力して企画された。
それを踏まえ、今回発表されたOpenChatには、3段階のユーザー追加方法や管理者機能、そしてトークルームごとのプロフィール設定機能が実装される。例えば、保育園や学校などのPTA(保護者の会)、アーティストやゲームなどのファンコミュニティーでの利用を想定している。
LINEとその周辺サービスの強みは、「友だち」という密接なつながりを前提としたコミュニケーションをアプリを通じて行えることだが、OpenChatではそうしたコミュニケーションの濃さのようなものは若干薄れるとも言える。
LINEの上級執行役員でLINEプラットフォーム企画統括を担当する稲垣あゆみ氏。
なぜLINEはわざわざ自身のアイデンティティーとも言える部分にメスを入れるのか。
今回のカンファレンスの中で、複数の登壇者が「LINEはメッセンジャーを超えていく」という言葉を口にした。LINEの生みの親とも言われる稲垣あゆみ氏は、さらにそれを補足するかたちで「メッセンジャーを超える、と言っても、メッセンジャーの重要性が弱くなるわけではない」と語った。
LINEは今回のカンファレンスで「Life on LINE」というテーマを掲げ、ユーザーの生活を24時間365日、サポートできる存在を目指すとしている。友だち以外とつながる機能であるOpenChatは、そんなLINEのテーマに沿ったものだと言えるだろう。
3. Visaとのオリンピック施策も明らかになった「LINE Pay」
握手をするLINE Pay取締役 COOの長福久弘氏(左)と、Visaのアジアパシフィック地域最高責任者を務めるFrederique Covington(フレデリック・コヴィントン)氏。
もう1つ、Life on LINEという大きなテーマに沿った象徴的な施策と言えるのは、近年注目が集まるキャッシュレス決済「LINE Pay」だ。今回、6月6日に発表になっていたVisaとのパートナーシップ提携の詳細が明らかになった。
- 初年度3%の還元率となる「LINE Pay Visa Credit Card」はオリコが発行を担当し、8月に先行予約開始
- 2020年の東京オリンピックでのVisa・LINEの共同プロモーションとして、限定スタンプと限定デザインのLINE Pay Visa Credit Cardを発行
- その他にも、LINEはVisaのアジア地域の注力パートナーとして、国際間決済、B2Bなどの次世代FinTechサービスの開発に取り組む
アスリートがあしらわれた限定LINEスタンプや、日の丸をイメージした赤いLINE Pay Visa Credit Cardは、LINE Payからの限定配信・提供となる予定。
ユーザーの生活を変えるLife on LINEの施策にとって、このLINE Payと前述のLINE Scoreはとても重要な意味をもつ事業であり、その文脈では、世界最大級の決済ブランドであるVisaとの提携は大きな意味をもつと言えるだろう。
4. レストラン予約の電話応対AIも実現できる「LINE BRAIN」
LINEのAI技術を外販する「LINE BRAIN」。
LINEサービスの多くで活用されており、LINE Scoreとともにサービスの個人化に寄与する技術と言えるのがAIだ。LINEは個人向けAIアシスタント「Clova」や、画像認識技術を活用した「SHOPPING LENS」など、これまでもさまざまなAI機能を提供してきた。
その同社が培ってきたAI機能を外販する取り組みとして「LINE BRAIN」が公表された。日本語に特化したチャットボットや文字認識(OCR)、音声のテキスト化(Speech to Text)などの技術をソリューション化し、提供する見通し。
LINEの取締役 CSMOを務める舛田淳氏。
カンファレンスでAI事業を担当したLINEの取締役CSMOの舛田淳氏は「まだ開発中」としながらも、これらのソリューションを複合的に活用した電話でのレストラン予約に特化したAI「Duet」のライブデモを披露。
舛田氏が電話でレストランの空き状況確認や予約を行うなか、Duetが途中停止するハプニングがあったものの、違和感の少ない自動生成された音声でスピーディーに返答をする性能を見せ、同社のAI技術の完成度の高さをアピールした。
5. 検索事業のリベンジマッチとなる「LINE Search」
NAVER Japan時代に苦戦を強いられた検索事業にLINEとして再参入する。
カンファレンスの最後に「and more」として発表されたLINEの新しい検索サービス「LINE Search」も、同社にとってとても意味のある内容だった。
LINE SearchはLINE上のトーク内容だけではなく、LINE NEWSやLINEマンガなどのコンテンツを統合的に検索できるツール。7月より順次提供が開始され、独自性のある機能としてはTwitterやYouTube、Instagram上で活躍するインフルエンサーを検索できる機能が挙げられる。
オンライン法律相談事業では、弁護士ドットコムとパートナーシップを組む。
また、検索を単にデータベースから条件に合致する情報を取り出す機能としてではなく、日常の問題を解決するツールとしても開発する。
その取り組みの1つとして、検索後にその分野の専門家などに相談や依頼などのアクションを行えるプラットフォーム「LINE Ask me」を発表。同社が提供してきた占いサービスなどに加え、9月以降に弁護士ドットコムと提携して提供する法律相談機能や、1月8日に発表したエムスリーとの医療事業「LINE ヘルスケア」の遠隔健康医療相談サービスを提供する。
LINEの代表取締役 CWOを務める慎ジュンホ氏は、初めてLINE CONFERENCEに登壇し、プレゼンテーションを行った。
過去に、LINEの前身の1つと言えるNAVER Japanでは、韓国検索大手のNAVER(現在のLINEの親会社)の検索機能の日本展開を行っていたが、すでに普及していたグーグルなどの勢いには勝てず、2013年に検索サービスの提供を終了、撤退した過去がある。
当時、LINEの現・代表取締役 CWOを務める慎ジュンホ氏とともにNAVERで検索事業を担当していた舛田氏は「検索の夢は常に頭の片隅にあった」と撤退当時の悔しさを振り返った。
舛田氏はLINE Searchを「約10年ぶりの再挑戦」と語っており、現在のLINEの持つユーザー、コンテンツ、AI技術の総力を結集したリベンジマッチをしかける姿勢だ。
(文、撮影・小林優多郎)