“その気になれば手が届くテスラ”「モデル3」の実力。試乗300kmレビュー

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テスラ「モデル3」。広報車は左ハンドル仕様だが、十分、路上での実力の高さは感じることができた。

5月に新しいサービス拠点「テスラ サービスセンター 東京ベイ」の記者公開、7月3日には関西でも初の在阪メディア向けにテスラのEVモデル3試乗会を実施するなど、テスラはいま「モデル3を売っていく」モードを全面に押し出している。

日本仕様のベース車両は、スタンダードレンジプラス(511万円)と、パフォーマンス(655万2000円)の2種類。デリバリー開始は2019年8月末以降だから、意外とスグだ。

約500万円〜の購入価格は、絶対値として決して安くはないが、セダン型の「モデルS」や流行のSUV型の「モデルX」では約1000万円が普通だったことを思うと、「普及価格モデル」といううたい文句は確かに言葉通り。

モデル3

個人的に一番気に入っているのがこの角度からのカット。流れるようなルーフラインの美しさはモデル3の特徴の1つ。

しかも、自慢の先進運転支援機能「オートパイロット」関連装備(センサー類)は、テスラの上位車種と比べても一切妥協のない最新仕様だ。つまり、装備自体は全然「低コスト感はない」ところが、モデル3の大きな魅力といえる。

モデル3はどういう実用性をもったEVなのか、東京〜御殿場まで、丸1日、約300km乗った印象をレポートする。

試乗の印象、電費、オートパイロットの挙動なども実機テストしてみました。

普及モデル=小さい「ではない」を実感

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出典:テスラ

今回試乗したモデル3の広報車は、左ハンドル仕様で、厳密には中身も日本仕様にはないモデルだ。ざっくり言うと、日本仕様の“安い方”「スタンダードレンジプラス」に近いが、

  • バッテリー容量が上位の「パフォーマンス」相当(公称航続距離は500km超)
  • モーターはリア駆動(つまりAWD=四輪駆動ではない)
  • 加速性能もスタンダードレンジプラス相当(スタンダードの0-100km加速は5.6秒)
  • 左ハンドル

という仕様。スペック上の航続可能距離は日本のスタンダードレンジプラスより約100km長いので、その点は差っ引いて読んでもらいたい。


モデル3

音楽再生からエアコンの設定、ロックの解除まで。ほぼすべての操作を行う15インチのディスプレイ。

青山のショールームで車両を受け取って、まずは撮影のためにお台場を目指した。

ハンドルを握って最初に感じたのは、「結構大きいな」ということ。

左ハンドルということもあって、乗り始めは車幅に気を使う。ただ、全幅1849mm(海外版のスペックより)という大きさは、最近では価格帯によらず大きめの国産車はこのくらいある(例:RAV4は1865mm)。慣れの問題ではある。

後席はちょっと座面が立っているが、十分に広い。天井がガラスルーフということもあって、開放感も抜群。十分、ファミリーカーにも使える。

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天井は全面ガラスルーフ。後席の人の開放感は抜群。

モデル3といえば、ボタン1つないインパネも特徴の1つ。試乗前は「運転していてインパネが殺風景に感じないかな」と少し心配していたが、走り出してみると、そんなことはまったく気にならなかった。一般的なクルマと違ってタッチ対応ディスプレイが15インチと非常に大きく、液晶の自己主張が強いので、むしろこれくらいのシンプルさがちょうどいい。

大型ディスプレイは、現在のスピードの表示から、ナビ、エアコンの操作まで、ほぼすべての操作をここから行う。テスラに慣れていない人にとっては、操作を見ているだけでワクワクするはずだ。

オートパイロットは「極楽」としか言いようがない

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撮影のあと、今回のメインの試乗に向かった。ドライブ時の実効電費と、乗車感をたしかめるためだ。東名高速で、まずは箱根を目指す。

出発したのは平日の午前8時前。出発時のバッテリー残量は約389km。数値上は余裕で箱根往復は可能だ。

平日とはいえ下り方向は渋滞していないが、交通量は多めで、巡航速度は80km/h〜100km/hというところ。

東京インターから高速に上る時の加速は、さすがのEV。“安い方”に近いモデルとはいっても、低速から法定速度までの加速は十分パワフル。ゼロスタートから最大トルクが出るEVならではの特性で、グッとシートに押し付けられるような加速感がある。これは楽しい!

東名高速のつなぎ目の段差の揺れ方にちょっと硬い印象はあるが、不快なほどではないし、(当たり前だが)インパネやピラー周辺がガタピシいうようなことはない。イイ車だ。

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オートパイロットでの高速走行は非常に快適(車内カメラで撮影)。

高速で流れにのったのを確認したら、早速オートパイロットに入れる。

オートパイロットは、右手のレバーを2回、すばやく引き下げることで作動する。

独特のポポンというサウンドとともに、速度表示の左下に青いハンドルマークが点灯する。

海外では、「オートパイロットに入れたまま居眠りして50km近くフリーウェイを走っていた」という驚きのニュースが話題になっている。こういう不注意運転はテスラにとっても頭の痛いところだが、実車に乗ってみて感じたのは、実際はなかなかそういう状況にはなりにくい、というのが第一印象だった。

何しろ、オートパイロット中はハンドルを軽く握っている程度では「ハンドルを回す力をわずかにかけてください」という表示が出て、何度か意識的にハンドルに反力を加えないといけないほどだ。

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自動車専用道路でオートパイロットの警告を意図的に無視して表示を確認しているところ。速度表示部分が青く点滅し、さらにハンドルに力をかけずに放置すると、このような最終警告表示に。その後、オートステアリングが使えなくなる(車内カメラで撮影)。

これを無視していると、警告ののち、オートパイロット(オートステアリング)が使えなくなる。しかもその後、しばらくオートパイロットが無効になる「お仕置き」がある。だから、ドライバーはラクをするためにハンドルを握って(いつもどおり)集中力を途切れさせないように務めることになる。

とはいえ、オートパイロットのドライビングは極楽そのものだ。特に渋滞や低速走行があるときは絶大な楽チンさ。完全停止からの再スタートもオートパイロット任せで走れるし、ウィンカー操作で自動的に車線変更もする。

未来の自動車のあるべき姿はこれだよ!と思わずニヤニヤしてしまう。たぶん初めて乗った人はみんなこうなるんじゃないか。

モデル3

箱根・大観山展望台のパーキングにて。箱根新道の回り込んだ道でも、オートパイロットがちゃんと効いていたのには驚いた(ただ、いつ解除されても良いように身構える必要があるのでオススメはしない)。

そうこうしているうちに、1時間ほどで箱根ターンパイクの頂上、大観山に到着した。電費はどうだろうか。

これは平地区間と小田原〜箱根新道の登り区間でだいぶ「成績」が違った。平地区間を走っているうちは、ほぼほぼ走行距離に応じた残距離。優秀だ。

一方、箱根新道の登り区間に入ると、速度は出ていなくても、電費は悪化する。結果的に、箱根新道経由で大観山に到着したときには残り256km。実走行距離は約90kmだから、少なくともキツめの登りを含むこのルートでは、実走行距離の1.48倍の電力を使った、という計算になる。

一方、「山越え」は意外や好電費。その理由は……

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大観山からは、今度は芦ノ湖スカイラインで山越え〜細かい峠道を通って御殿場のスーパーチャージャー(急速充電設備)を目指す。ここからは、アップダウン、回り込む低速コーナーがいくつもあるルートだ。

当日は小雨が降るあいにくの天気だったが、それでもモデル3で走る山道は、とても楽しい。

ハンドルのインフォメーションがいいし、EVだからアクセルの反応が鋭い。雨天の路面コンディションでも、背中から押し出されるような後輪駆動の感覚を楽しみながら軽快に走れる。

ただ、この「軽快」というのはあくまで感覚の話。テスラ車のなかでは軽量とはいえ、モデル3のシングルモーター(スタンダード)タイプは重量1.6トン。決して軽いクルマではない。それでいて操る楽しさがあるのは、よく言われるようにバッテリーを床に敷き詰める構造からくる低重心のおかげだろう。

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御殿場のスーパーチャージャー。見ての通り、コメダ珈琲の駐車場に隣接して設置してある。

山道をくだり約30km走って、御殿場方面へ。

御殿場スーパーチャージャーに到着すると、走行距離残は222km。山道をあれだけ走ってもほぼ実走行距離程度の減り(距離30kmに対して、残距離34km減)だった。下りでは積極的に回生ブレーキを使っていたので、その分のチャージで結構稼いだ、ということなんだろう。

ここまでの片道走行距離を計算すると、

  • 実走行距離:東京・世田谷〜大観山〜御殿場スーパーチャージャー=約120km
  • 電力消費:約167km分
  • 実走行に対する電力消費:1.39倍

御殿場スーパーチャージャーは御殿場インターに近く、しかもコメダ珈琲の駐車場に隣接して設置されている。

急速充電中はモーニングでも食べて待っていればよく、退屈しない。今回は55分充電して、走行可能距離は463kmまで回復。余裕をもって東京への帰路についた。

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50分の充電でここまで回復。バッテリー保護のために満充電にはならない設定にしてある。リミッターを外して満充電にすれば、この車種の場合、500km以上の走行距離になることは確認済み。

誰でも「その気になれば買える」ハイテクEVの価値

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丸1日、最新のモデル3を借り出して感じたのは、日常生活で使うEVとしての完成度と趣味性の高さだ。

都市圏在住ということもあって、個人的にはクルマにはリフレッシュのための「非日常性」も求めている。

これまで、この手の役割はスポーツカーやこだわりの輸入車だったわけだけど、テクノロジー的にも、モデル3は十分刺激的で非日常成分もあった。1〜2年では古びそうもないことを考えると、物好きには結構魅力的に映る気がする。

シングルモーターの“安い方”だとパワーが足りない、という贅沢な人には、AWD仕様の「パフォーマンス」モデルがある。フルオプションにすれば加速は0〜100km3.4秒(!)、なんとポルシェ911カレラGTS(1788万円)より速い加速性能だ。価格は当然上がるが、それでも703万円……こういう比較で見ると、加速性能と価格がデフレ化してる気すらする(もちろん、冷静に考えたらそれなりの価格なのですが)。

また非常に気に入ったのは、オートパイロットの持つ運転時の安心感だ。

たまたま試乗した日は、午後が酷い土砂降りで、ワイパーが追いつかないほどの雨の中、東名高速で東京を目指すことになった。

オートパイロットは高速移動の運転の「楽さ」ばかりクローズアップされるが、視界の悪い天候には別の良さがある。自分の目視+オートパイロットで前方を見張れるので、不意の障害物や事故に対しても、普段とは違う安心感がある。

モデル3の後部座席

モデル3の後部座席。背もたれを倒すとほぼフラットに。後部座席は3人がけだ。

別の下道のシチュエーションでは、運転席の死角に障害物があったのを、「警告」で助けられるという経験もした。なんというか、常に2人でハンドルを握っているような感覚がある。

正直なところ、オートパイロットを含むADAS(先進運転支援)系の安全装備は、自分がテクノロジーの編集者というせいもあって、かなり気に入ってしまった。

これが上位クラスのモデルXなら、たとえ気に入ったとしても「とはいえ車両1000万円は無理だろう」となる人は多い。

それがモデル3だと「車両500万〜600万円ってことは、節約できる税金と5年間のガソリン代、メンテナンス代の圧縮で実質所有コストは……」と、考え始める人はがぜん増える。多くの人に検討できる余地があるわけだ。

これこそが、モデル3が「普及価格車」であることの価値なんだと思う。

(文、写真・伊藤有)

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