G20・米中首脳会談の着地は「前向きなサプライズ」。それでも円高圧力は変わらない

握手する安倍晋三首相とアメリカのトランプ大統領。

6月29日、G20大阪サミットのクロージング・セッションで握手する安倍晋三首相とアメリカのトランプ大統領。事前の市場予想からすると、かなり前向きな結果に着地したと言える。

Handout via Reuters

20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)が閉幕した。もとよりG20は何かを決める場所ではなく、あくまで首脳同士で問題意識のすり合わせを行う場所という性格が色濃いものであり、金融市場の取引材料を期待するイベントではない。

だが、今回は通商協議の行方が注目される米中首脳会談が重ねて行われるということもあり、トランプ米大統領および習近平・中国国家主席の言動を中心として、その行方が平時以上に注目されていた。

結論から言えば、「どうせ何も材料は出ない」という市場予想を前提とすれば、かなり前向きな結果に着地したと言える。

得るものが多かったのは中国

米中首脳会談。

6月29日に開かれた米中首脳会談。今回は中国側が得るものが多かったように見受けられる。

REUTERS/Kevin Lamarque

閉幕後に開催されたトランプ大統領の記者会見のポイントを金融市場の観点からまとめると、主に4つある。

(1)中国への追加関税(3000億ドル分の中国製品に対する25%)を当座は見送り、協議を再開

(2)米企業と中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)との取引を再開(同社に対する禁輸措置の解除)

(3)日米安保条約の破棄は考えていないが不公平

(4)G20終了後に北朝鮮の金正恩委員長と面会する予定(そして実際に面会)

このうち(1)は想定通り、(3)も事前報道と大きく乖離するものではない。サプライズは(2)と(4)であり、どちらも市場心理の改善に寄与している。

とりわけ(2)については、ファーウェイに対するアメリカ側の厳しい対応が米中貿易戦争のバロメーターのように解釈されてきたことを思えば、トランプ大統領が「安全保障上の問題がなければ米企業と同社の取引を容認する」と述べたことは大きな材料と言える。

(1)と(2)を見る限り、今回の会談は中国側が得るものが多かったように見受けられる。

対米貿易交渉の「大義名分」を手に入れた日本

アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長。

G20 大阪サミット閉幕の翌日である6月30日、韓国と北朝鮮を隔てる非武装地帯にある南北軍事境界線の間近に立つアメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長。今回の米朝首脳会談は市場心理の改善に寄与するサプライズだった。

REUTERS/Kevin Lamarque

議長国の日本については総じて「上手くやった」との評価が目立つが、今後を見据えた上で目を引く課題も残った。

もちろん、シンボリックには上述した(3)であり、参院選(7月21日投開票)を前に日米同盟の見直しを提起されたことは、政府・与党にとって想定外だったかもしれない。金融市場の観点からすれば、今後、日米貿易交渉を進める上で「為替」に加えて「安全保障」まで取引カードに乗ってきてしまうのかという不安を抱かざるを得ない。

日米貿易交渉に絡めて気になったのは、首脳宣言の「世界経済」部分において「グローバル・インバランス(経常収支不均衡)は依然として高水準かつ持続的。サービス貿易・所得収支を含む経常収支の全ての構成要素に着目する必要性に留意」との表現が入ったことだろうか。

G20開催前、浅川雅嗣財務官がこの論点を強調する報道が見られたので、日本からアメリカへのメッセージ性が強い表現ではないかと察するが、程度の差こそあれ、アメリカと相対する多くの経常黒字国ないし貿易黒字国と認識を共有するものであろう。

経常黒字と、海外への直接投資や証券投資から得る黒字を示す「第1次所得収支黒字」の水準がほとんど同額の日本からすれば、「黒字」と貿易摩擦は全くリンクしない(下記の関連記事も参照されたい)。

首脳宣言に記載したこうした正論が、直感的なトランプ交渉術にどこまで有効なのか知る由もないが、交渉を進める上での公的な大義名分を手に入れられたことは、開催国として挙げた1つの「武功」と言えるのかもしれない。

今後はこうした正論を盾に「為替」や「安全保障」といった破壊力のあるカードを持つアメリカと相対していくことになる。交渉は簡単なものにはならないのだろうが、アプローチとしては至極真っ当なものであり、好ましいものであるように思える。

「米中」は問題蒸し返しも想定内

ファーウェイのスマホ。

アメリカのトランプ大統領はG20 大阪サミット閉幕後の記者会見で、ファーウェイに対する制裁を緩和する方針を表明した。市場関係者にとってはポジティブな動きに違いないが、この先どうなるかは流動的だ。

REUTERS/Marko Djurica/Illustration

総じて好材料が目立ったG20だったが、米中貿易協議について言えば、既存の追加関税(「2000億ドルに対し25%」など)が消えるわけではなく、座礁していた協議がリスタートしただけである。

協議が「解決」せずに「継続」している以上、トランプ大統領が唐突にツイッターで「やはり3000億ドルについても25%を課税することにした」と表明するリスクは消えない。解決間近と噂されながら、「2000億ドルに関し10%から25%に関税を引き上げることにした」と唐突に交渉決裂を宣言したのはわずか2カ月前(5月5日)の出来事である。

トランプ大統領は今回、「少なくとも当座は中国に対する関税を引き上げることはしない」と述べているが、企業や市場参加者の不安は尽きないだろう。

「引き上げることはしない」とは言ったが、「当座」が何を意味するかまでは明言していない以上、例えば1月後にいきなり問題が蒸し返されてももはや驚きではない。いや、これまでの経緯を踏まえれば、そうならないと思っている参加者の方が少ないくらいではないのか。

ファーウェイに対する禁輸措置も同様であり、早速、クドロー米国家経済会議(NEC)委員長から「これは恩赦ではない」とのコメントが見られ、同社について「いわゆるエンティティー・リスト(安全保障上の脅威である外国企業のリスト)に残り、厳しい輸出管理が適用される」という状況は変わらないことが確認されている。一連の動きはポジティブに違いないが、依然として可変的であることは念頭に置きたい。

「サプライズ」だが「ゲームチェンジャー」とまでは言えない

ニューヨーク証券取引所のフロアで働くトレーダー。

ニューヨーク証券取引所のフロアで働くトレーダー。6月のダウ平均株価は、この月としては81年ぶりの高い上昇率となった。しかし、これに伴ってドル/円相場が値を上げたわけではなく、むしろ水準は切り下がった。

REUTERS/Brendan McDermid

そもそも米10年金利が一時2%を割り込み、ドル/円相場が一時106円台をのぞきに行く展開となった背景には何があったのかを今一度、振り返るべきだろう。

米中貿易協議への不透明感もさることながら、アメリカの国内外の経済・金融情勢を踏まえて米連邦準備制度理事会(FRB)が「もう利上げは難しい」と判断し、「次の一手は利下げである」という地ならしを始めたからであったはずだ。

この雰囲気が本格化したのは、米10年金利が2.40%を割り込み始めた5月半ば以降である。

【図表】

【図表】

ドル/円相場の週間変化率に関し、米10年金利とNYダウ平均株価のそれとの相関係数(関係の強弱をはかる指標)を取って比較したものが【図表】である。

6月のNYダウ平均株価は約7.2%上がり、同月としては81年ぶりの高い上昇率となったことが話題だが、これに連れてドル/円相場が値を上げたわけではなく、むしろ水準は切り下がった。過去2カ月間でドル/円相場は株価よりも米金利と安定的な関係を持つようになっており、それだけFRBの政策姿勢の転換が重視されるようになってきていると解釈すべきだろう。

「米金利が下がる」という大前提が生まれた今、いくら緩和期待で株価が押し上げられても、積極的に円売り・ドル買いをする向きは限られるというのが筆者の基本認識である。上述した(1)、(2)、(4)は市場心理を明るくするものではあるが、金融市場のゲームチェンジャーとまで言えるものではない。

FRBの政策転換とともに「過去5年のドル高が修正される」という為替市場におけるメインシナリオは、「継続」と見て問題ないだろう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔:慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)国際為替部でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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