ファーウェイ制裁解除の虚実。対中譲歩“演出”したトランプ大統領

米中首脳会談

トランプ大統領と中国・習近平国家主席との首脳会談で貿易協議の再開が決まった。ファーウェイに対する米企業からの輸出は容認すると言及されたが…。

Reuters/ Kevin Lamarque

トランプ米大統領が、中国への譲歩を演出する「取引外交」のトリックを存分に発揮した。

「米、対中制裁関税先送り 決裂回避、貿易協議継続 ファーウェイ取引を容認」

6月29日、大阪で行われた米中首脳会談の結果を伝えた、大手メディアの見出しだ。これを見た多くの人はトランプ大統領が習近平・中国国家主席に大幅譲歩したと受けとったに違いない。

特に、ファーウェイへの「制裁の部分的解除」には、多くのメディアも踊らされた。だが大統領の発言とその後の経過をみれば、トランプ氏得意の「取引外交」の演出と分かる。

その種明かしをしたい。

核心利益ファーウェイを狙い撃ち

ファーウェイ

ファーウェイは中国にとって、譲歩することのできない「核心利益」だ。

Reuters/ Aly Song

まず経過を振り返る。2018年12月の前回首脳会談を期に再開された米中貿易協議は、「合意寸前」と伝えられた直後の5月、ワシントン協議で事実上決裂。その前後からトランプ氏は中国製品に対して3000憶ドル(約33兆円)に上る第4弾の高関税発動を、繰り返しちらつかせてきた。

米中対立は単なる貿易問題ではなく、中国の経済発展モデルとデジタル覇権を巡る争いでもある。その象徴が、中国ハイテク経済を引っ張るファーウェイの存在。21世紀の「経済覇権」の行方を左右する次世代通信規格5Gの技術で、世界の先頭を走るファーウェイは、中国にとって譲歩できない「核心利益」だ。

トランプ政権はそれを承知であえて手を突っ込んだ。交渉決裂の直後、アメリカの「安全保障上の脅威」になる外国企業のリスト「エンティティー・リスト(EL)」に、ファーウェイを追加すると発表したのである。

ファーウェイが関係する世界的な生産・流通・販売の「入口」から「出口」に至る全体に網をかけ、世界市場からの締め出しを狙っているのだ。

新華社はファーウェイへ言及なし

アップル

アップルはトランプ政権の中国製品への追加関税に対して、反対する意見書を提出していた。

Reuters/ Paul Carsten

ファーウェイ排除は、相互依存を深める世界経済で、サプライチェーン(部品の調達・供給網)を分断し、引いては世界経済を二分しかねない。世界経済全体の下振れリスクになるだけではない。重要なことは、足元の米国企業からの悲鳴が上がったことだ。

部品供給してきたクアルコム、インテル、マイクロンテクノロジーなどの米企業は6月に入り、第4弾の関税発動の停止とファーウェイ排除措置の緩和を政府に求め始めた。

同時に中国で製品の組み立てをしているアップルも6月に入り、トランプ政権による中国への追加関税に反対する意見書を、米通商代表部(USTR)に提出している。第4弾では、iPhoneなど主力製品が軒並み追加関税の対象となる見込みだった。

業界からの風圧が強まる中、大統領は首脳会談でいったいどんな発言をしたのか。

中国の新華社通信によると、80分に及ぶ会談で習氏は、「中国の主権と尊厳にかかわる問題に干渉するなら、中国は核心利益を必ず守る」と終始強気の姿勢で臨み、「中国企業を公平に扱うよう」要求した。意味するのはファーウェイ排除への不満である。

これに対しトランプ氏は、追加関税の先送りと貿易協議の再開を提案。双方は「平等で相互尊重の基礎の上で貿易協議の再開に合意した」(新華社)。

中国にとってアメリカが関税先送りと協議再開を提案するのは、おそらく織り込み済みだっただろう。だが、ファーウェイについては「想定外だった」(中国外交筋)。

新華社電には、ファーウェイに言及した記述は全くない。

「ELに残る」と種明かし

エンティティー・リスト

ファーウェイに対するアメリカの制裁措置緩和に対し、中国・ファーウェイ共に静観を貫いている。

撮影:浜田敬子

トランプ氏のファーウェイ発言は、会談後の記者会見で飛び出した。

「同社への(アメリカ企業からの)部品販売を容認する」と述べたトランプ氏に、記者から「エンティティー・リスト(EL)から外すかどうか会談で取り上げたか」と質問が飛ぶと、トランプ氏は「習氏とは話していない」と回答。さらに「明日か火曜日に協議する」とし、「我々のゴールを見極めたい。安全保障上の問題がある」と、実に歯切れの悪い答え終始した。

この曖昧発言の謎解きをしたのは、クドロー米国家経済会議委員長。ロイター通信などによると、委員長はテレビインタビューで、「これは全般的な制裁解除ではない。国家安全保障上の懸念は依然として最重要」と述べ、ELにファーウェイは残り続けると明らかにした。緩和が適用されるのは、世界中で幅広く利用されている汎用品に限定されるという。

大統領自身も間もなく、Twitterか記者の「ぶら下がり」会見で、同じ内容の「種明かし」をするはずだ。

中国側の反応は実に冷静だった。王小竜・外交部国際経済局長は6月29日、大阪での会見で「アメリカが発言通りに実行するなら我々も歓迎する」と述べるにとどめている。

トランプ政権内の亀裂拡大

ボルトン大統領補佐官

政権内「新冷戦派」の1人、ボルトン大統領補佐官。政権内の中国に対する温度差が表面化している。

GettyImages/ Sean Gallup

話を米中協議に戻し、今後の展望にも触れよう。

繰り返すが、米中対立は単なる貿易問題ではなく、中国の経済発展モデルと覇権を巡る争いである。トランプ政権内では、対中協議をめぐり亀裂が徐々に拡大し始めている。

トランプ氏にとって対中貿易交渉は、2020年に控えた大統領選での再選の重要な「カード」である。今回も中国側がアメリカから大豆50万トンを追加購入すると発表し、対中輸出にブレーキがかかる農家の不満を抑えるのに躍起だった。

一方、米議会の超党派の対中強硬派議員をはじめ、ペンス副大統領、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官(安全保障担当)ら、政権内の「新冷戦派」にとって、貿易戦もファーウェイ排除も「取引材料」ではない。生死をかけた「武器」なのだ。彼らは、ファーウェイを妥協や取引材料にするのは許さない。

米中対立だけではない。

緊張が高まるイラン情勢や北朝鮮の非核化などの外交課題をめぐり、トランプ氏と新冷戦派双方の綱引きは大統領選が近づくにつれ激しさを増すだろう。トランプ氏は足元の産業界やイギリス、ドイツなど同盟国の制裁緩和圧力が強まれば、ELに入れたまま禁輸措置を免れた中興通訊(ZTE)と同様の扱いをファーウェイにも適用したいと考える可能性がある。大統領選にプラスになればそれでいいからだ。

しかし「新冷戦派」は必死に抵抗するだろう。「安保」を理由にした大統領発言の歯切れの悪さは、政権内部の不協和音をそのまま物語っている。

「時間」は中国の味方

中国にとって政権内の亀裂は願ってもない構図である。大統領選挙が近づくほど、トランプ政権は有権者に負担増を強いかねない第4弾の発動はしづらい。「時間」は中国に有利なのだ。貿易協議は「仕切り直し」で合意したが、2018年12月の前回のような期限(90日)付きではない。中国にとって「時間稼ぎ」はプラスであり、「持久戦」は覚悟している。

第4弾は大統領選まで発動されないままか、関税率を輸入品ごとに調整して発動される可能性が高い。

「時間」に加え、中国にはまだ味方がある。

第一は大統領自身。大統領と「新冷戦派」の亀裂が広がれば、大統領側に立って「新冷戦派」を揺さぶる戦術に出るかもしれない。大統領選で政権交代しても、議会や政界のエリートには対中強硬派が多い。ならば「取引外交」に応じるトランプ氏の方が「御しやすい」はずだ。

旧知の中国人研究者によると、2016年の大統領選挙では中国指導部は、民主党のヒラリー・クリントン氏ではなくトランプ氏の当選を期待したという。人権外交など「普遍的価値」を強調する民主党を嫌ったからだ。中国がメディアなどを利用して、水面下でトランプ氏を側面支援する構図が再現されるかもしれない。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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