撮影:今村拓馬
「みなさん、知ってますか?今の学生って、大学で勉強してるんですよ!がはははは……昔を振り返ると考えられないですよね、僕たちの時代は……」
「インターンとかもやってるらしいですね。それよりも学生のときにしかできないことを、今のうちにやっといたほうがいいですよね。どうせ社会人になったらめっちゃ働かないといけないんだから」
背筋が凍った。
会社でまぁまぁの地位についている40〜50代の大人がたくさん集まる集会のスピーチの一コマだった。
なぜ、学生が勉強しているのか。なぜ、職業体験の機会を求めるのか。その原因をつくったのは何なのか。
上昇時代を知らない世代の不安
特定の誰かのせいにするのはナンセンスだが、これらの発言には引っかかるものがあった。
僕は「ゆとりゆとり」と言われて来たものの、バブル時代の景気のよい話をされたとき、正直、複雑な気持ちになることはある。物心がついたときにはバブルは崩壊していた。今日より明日がいいという前提を味わったことがないのだ。
強く生きないと。企業も国も守ってくれない。好景気を知らない僕らは、そんな漠然とした不安の中で希望を探して生きている。笑われる筋合いはない。
「『インターンなんかせずに学生時代にしかできないことをすべきだよ!』という化石みたいなアドバイスがまだ残っているようですが、ファーストキャリアの『職業体験』は入社前しかできません。自分の人生の意思決定レベルを高めるために学生が頑張ってるんだから、応援しなくていいけど邪魔はしないで」
日本的経営の“三種の神器”という言葉がある。
- 年功序列
- 終身雇用
- 企業別組合
敗戦後の高度経済成長期は、この3つのメカニズムで支えられたという。このかつての三種の神器は、平成の時代を経て、三大不良債権となった。
年功序列システムは、ぶら下がり社員を生み出し、若手の早期離職の原因となっている。
終身雇用は主に資本集約型モデルの持続的成長の前提が崩壊したことで、あるのか無いのかわからない中途半端な約束となり、従業員を不安にさせている。
最近はトヨタの豊田章男社長や経団連の中西宏明会長など、経済界のトップが終身雇用の限界を明言しているが、これは経営者からの愛だと思う。
問題解決に動き出せない社会
企業はもはや終身雇用を保証できない。にもかかわらず解雇をすれば「不当だ」とバッシングを受ける。
撮影:今村拓馬
企業別組合は、力を持ちすぎた。存在自体は大事だが、解雇規制が厳しくなったことで、その制度に、便乗するフリーライダーが各企業に大量発生していることも事実だ。
もうかつてのように企業が従業員を守り切ることはできなくなっている。にもかかわらず「不当解雇!」という世間からのバッシングとの間で身動きが取れなくなっているように思える。
いずれも、よく言われていることではあるものの、こうして整理してみると、問題提起はされつつも、さまざまな力学が絡んでしまい、一向に解決されていない。身動きがとれないのだ。
もうこの言葉たちは時代に合わないのかもしれない。
実践の場は社会人だけのものか
もうひとつ、働くことの入り口にある「就活」周りで、「過去の言葉」がある。
「学生の本分は勉強だ」「学業の優先」といったフレーズだ。
大学関係者や親世代を中心に聞かれるこうした言葉は、社会に依然として色濃く残っている。
人生100年時代とか、学び直しとか、リフレクション(内省)とかリカレント教育(生涯学習)とか騒がれ始めたので、この「古い言葉」がそろそろ消えるかと思ったらなかなか消えない。
いろいろ言われているが、要は座学と実践を繰り返して、持続的に学び続けよう!というものだろう。もう詰め込みで学んだものだけで一生、働くのは難しいということだ。
コルブの経験学習理論をご存知だろうか。人材育成の世界では有名な理論だが、要は実践し経験を貯め、内省し構造化して学びのサイクルを回そうというものだ。
内省や構造化をアカデミックな時間で、実践や経験貯蓄的な学びを生産仕事の時間でというサイクルを「社会人」たちは回そうとしている。
ところが一方で、学生がそれをやろうとすると、みんなでとめる。
「学業の優先」この化石化した言葉で。一体何がやりたいんだろう。
学業VS.インターンの裏に隠れた事情とは何か。
無価値を悟る大人に翻弄される学生
インターンは、学生にとって座学とは別の学びを得る、貴重な経験だ。
撮影:今村拓馬
ここまで整理すると、学業VS.インターンは、学びVS.学びということがわかる。なぜ学びと学びが対立するのか。
それには既得権益の事情が見え隠れしているように思えてならない。
カラクリはきっとこうだ。本質的には、大学もインターンも、双方に「学びの場」として価値のあるものとないものがある。
価値のない(単位で脅さないと学生の時間を得られないような)講義を抱えている大学が、囲い込みだけを目的に実施されているような、価値のない実践的な学び場として価値のない一部の「インターン」を指差して、一様に「インターンは学業の妨げだ」と主張している。
大学によっては、無意識のうちに、いくつかの講義に「もはや価値がない」ことに気づいている。ただ、いまさら変わる勇気も気概もないから、邪魔するしかないのだ。
インターンは本当に「学業の妨げ」なのか?
僕らは#インターンのリアルという企画で、現代のインターンの実態について、可視化を試みている。参加した学生たちによってそのインターンに価値があるかないか、目に見える形で社会に提示するためだ。
インターンの価値が可視化された後はどうなるだろう。インターンが「学業の妨げ」になるという今までの論理は通用しなくなる。
次は何が起こるだろう。おそらく価値のある大学講義やゼミ、価値のない大学講義が可視化される。現状、高校生やその親は、偏差値表や限られた大学の情報で進学の意思決定をせざるを得ない。
「就職に有利か」というのは不確実で不安な時代にはやはり気になるところだが、今の時代「〇〇大学」に行っておけば、後はなんとかなるだろう、という考えに基づいた意思決定はあまり本質ではないように思える。
「誰のもとで何を学びたいか」を決めて欲しい。就職実績が見たければゼミごとに公開すればいい。少なくとも、大学受験を控える子と親の、偏差値一覧に張り付いたこびりついた目をはがしてやりたい。
人生100年時代だからこそ、学生のやりたいこと
「人生100年時代」と「学業の優先」
やはりこの2つの言葉は同時には成立しない。どちらかひとつにしていただきたい。
ある学生は言った。
「なんで社会人は学び直しとかで盛り上がってるのに、インターンはダメってなってるんですか?」
「学びたいことがわからないから、社会に少しでも触れて学びたいことを探してるんです。今の大人が仕事楽しそうじゃないから、やりたい仕事を探してるだけなのに、邪魔してほしくないです」
大人の都合満載の、壮大な矛盾に、学生が困惑しています。
大学が嫌だから、インターンに行くわけではない。大学で学びたいことを見つけたいから、社会を見に行きたい。
もし社会人が学び直しをする時代なら、少しくらい、学生だって社会に触れさせてあげてください。
寺口浩大:ワンキャリア 経営企画室 PR Director。1988年兵庫県出身。リーマンショック直後に、三井住友銀行で企業再生、M&A関連業務に従事し、デロイトトーマツグループなどを経て現職。現在は経営企画とパブリックリレーションズ全般に関わる。コラム連載、カンファレンス登壇の他、「#就活をもっと自由に」「#ES公開中」などのソーシャルムーブメントも手掛け、経営と連動したコミュニケーションデザインを実践する。
Twitter:https://twitter.com/telinekd