結果的にはサリンではなかったものの、一時緊張が走ったFacebook。
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Facebookは7月1日、同社に届いた郵便物から猛毒サリンの陽性反応があったことを明らかにした。ビル4棟にいた同社の社員などが一斉に避難したが、米連邦捜査局(FBI)はのちに、「危険物質は含まれていなかった」と発表した。
しかし、この影響で、Facebookの株価は一時的に急落した。
ロイター通信によると、Facebookは郵便物を検査する装置を導入しており、それがサリンに「陽性」と反応した。厳重な郵便物のチェック体制には、世界22億人が使うソーシャルメディア最大手に「敵」が少なくなく、社員のセキュリティに腐心していることがわかる。
アカウント削除する若い世代
悪いニュースは、2016年米大統領選挙中から続いている。
選挙戦中、フェイクニュースやフェイク広告を放置していたが、選挙に影響を及ぼした可能性があるフェイク広告からの収入はFacebookの懐に入っている。そして、ユーザーの個人情報が第三者の手に渡り、プロファイリングに利用され、選挙に絡む偽情報が個人をターゲットに発信された「ケンブリッジ・アナリティカ」事件。
実は、ケンブリッジ・アナリティカの事件が発覚した後、ニューヨークに住む筆者のミレニアルの友人らは相次いでFacebookアカウントを無効にした。アカウントは維持しながらも、まったく利用していない友人も少なくない。
「個人情報を保護するべきプラットフォームが、第三者にデータを使わせるのを放置していたのは許せない」(33歳エンジニア)というのが理由だ。彼らは、実名などの個人情報を入力する必要がないInstagramでつながっている。
共同創業者までもが「分割論」
共同創業者からも「分割論」を突きつけられているザッカーバーグCEO。
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こうした中、Facebookの共同創業者、クリス・ヒューズ氏は5月、米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)の権限が前例にないほど強大で、アメリカの企業風土と相容れないとした上で、同社は分割化すべきだと主張した。
「共同創業して15年が経ち、退職して10年になるが、私は怒りや責任を感じている。マークは善良で優しい人間だが、彼が企業の成長を優先するあまりサイバー対策をおろそかにし、クリックへの節度を失ってしまったことに憤りを覚える」
Facebookのアクティブ・ユーザーは世界22億人。買収したInstagramが10億人、同様にWhatsAppが10億5000万人で、アクティブ・ユーザー数でソーシャルメディア上位5つのうち、実に3つを占めている。
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』を著したニューヨーク大学スターン経営大学院教授、スコット・ギャロウェイ氏も、Facebookの分割を訴えている。分割によって生まれた子会社が、個人情報保護を巡って競い合えば、ユーザーが安心できる環境を得られるというのが理由だ。
米議会や政府からも問題視
米議会でも、Facebookに対する見方は厳しい。
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こうした背景から、アメリカでは特に首都ワシントンDCを中心にFacebookに対する「懐疑論」が急速に高まっている。
米議会の下院司法委員会は6月、反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)違反の可能性をめぐり、Facebook、グーグル(Google)、アップル(Apple)、アマゾン(Amazon)、つまり「GAFA」4社の調査を始めると発表している。
さらに、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどによると、反トラスト法を管轄する司法省と米連邦取引委員会(FTC)も調査の検討に入った。しかしGAFAの中で、反トラスト法だけでなく、個人情報保護の観点で最も問題視されているのはFacebookだ。
その急先鋒が、2020年大統領選挙で民主党から立候補を表明しているエリザベス・ウォレン上院議員(マサチューセッツ州)。「GAFAなどプラットフォーマーの解体」を公約に掲げている。
仮想通貨「リブラ」の多数の反対
Facebookが参入を表明した仮想通貨。これに対しても懸念が広がっている。
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さらに、Facebookが2020年導入を発表した仮想通貨「リブラ」。商取引から送金まであらゆる決済ができるだけに、ワシントンを中心に反対の声が沸き起こっている。複数の米議員だけでなく、民主党の支持団体も懸念を表明している。
ブルームバーグによると、マキシン・ウォーターズ下院金融委員長(民主、カリフォルニア州)は声明で、こう述べた。
「Facebookは何十億人のデータを持ちながら、データの保護や慎重な使用を無視する姿勢が繰り返し見られた。仮想通貨を開発する計画の発表によって、Facebookは歯止めが効かない事業拡大を続け、ユーザーの生活に手を広げつつある」
Facebookがユーザーのデータを保護する努力を十分にしていないという不信感は、ワシントンに浸透している。その上、Facebookが「通貨」という誰もが生活で使うことができる分野に手を染めることに強い危機感が浮上してもおかしくない。
下院金融委で共和党トップのパトリック・マクヘンリー議員は公聴会の開催を求めて、議会の介入の必要性を訴えた。
「このプロジェクトと世界金融システムへの前例のない潜在的影響力を検証する討論の場を提供する」
Facebookに対する風当たりは1、2年前に比べて明らかに強まっている。
こうした中、フェイスブックジャパンは7月1日、経団連に入会したと発表した。
「GAFA」と呼ばれる4社のうち、最後発として経団連にも加入したFacebook。経団連入りも、「逆風」への備えなのだろうか。
(文・津山恵子)