シャオミ雷軍CEOの微博投稿より。
中国スマホメーカーのシャオミ(小米科技,
Xiaomi)が7月2日、セルフィー(自撮り)機能を追求した女性向け新ブランド「CC」を発表した。
中国のスマホ市場は2017年に縮小に転じ、2019年1-3月期はiPhoneも大きくシェアを落とした。「男性向け」「コスパ優秀」のイメージが強すぎてユーザー層拡大に苦戦していたシャオミにとって、CCシリーズは企業の成長を左右する大きなチャレンジとなる。
プロジェクトチームは20代で構成
CCシリーズのプロジェクトリーダー魏思琪氏は、大卒後の2013年にシャオミに入社した若手社員。
雷軍氏の微博投稿より
2日夜に開かれた発表会の冒頭で、シャオミの雷軍(レイ・ジュン)CEOは、「これまでは、男性のファンが多かった。若い人や女性にシャオミのスマホを好きになってほしい」と声を張り上げた。
実際、商品だけでなく発表会も女性を意識した雰囲気満載で、雷軍CEOは「CCプロジェクトは、シック(chic)でクール(cool)な90年後(1990年生まれ)の社員で構成されたシャオミの中でも一番若いチームだ」と紹介し、美大卒業後の2013年に入社したプロジェクトリーダー魏思琪(ウェイ・スーチー)氏に商品紹介を任せた。
北海道の雪をイメージした「白色恋人」
雷軍CEOの微博での投稿より
魏思琪氏は「私は女性だから、女性のことをよく理解している。セルフィーが好きな女性のためにフロント、リアカメラの両方を充実させた」と、3200万画素のフロントカメラ、ソニー製で4800万画素のリアカメラ、そしてセルフィーの電池消耗に配慮した4030mAhの大容量バッテリーを紹介した。
とはいえ、セルフィーや美顔機能は、他の中国メーカーも軒並みアピールするポイント。シャオミは、ライバル勢と一線を画すために、「小さな欠点は隠すけど、盛った印象を与えない作り込んだナチュラル」を実現する美顔機能を打ち出した。
一方で、人物以外は大胆な改変が可能で、背景の曇り空を青空に変えることすらできる。これも、セルフィー好きな女性のニーズを考慮したものだという。
また、カラーは3色を用意。「深藍星球(ブループラネット)」「白色恋人(ホワイトラバー)」「暗夜王子(ブラックプリンス)」と、名称まで女子受けを狙っている。
「白色恋人」を紹介する際には、「北海道の雪のような白」という説明とともに、北海道の景色がスクリーンに映し出された。
「ガジェット好き男性向け」がマイナスに
シャオミはこの数年、海外売上高が好調で、2018年には香港市場への上場を果たした。同年のスマホのグローバル出荷台数はサムスン、ファーウェイ、アップルに次いで4位につけている。
だが、足元の中国市場では存在感を打ち出せていない。
2017年から足踏みが続く中国のスマホ市場は、勝ち組と負け組が鮮明になっている。市場調査会社のカウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチによると、2019年1-3月期はファーウェイ、OPPO、vivoが前年同期比で出荷台数を伸ばした一方、アップルはほぼ半減、サムスン、シャオミも減少した。
シャオミの中国市場での不振の要因はいくつかあるが、最も指摘されるのは、「若者」「女性」を取り込めていないことだ。
デザインやカメラ機能、音楽視聴機能の充実、手ごろな価格で「学生御用達」「デビュースマホ」の地位を築いてきたOPPO、vivoだけでなく、ファーウェイも2016年にセルフィー機能と大容量電池をアピールしつつ、価格を抑えたnovaシリーズを発売。シャオミの「ガジェット好き男性向け」のイメージが一層際立つ形になっている。
女性に人気のMeituと提携し反撃へ
シャオミのユーザーは男性が7割だが、Meituのユーザーはほとんどが女性。
中国の市場調査会社Jiguangの調査より
2018年9-12月に創業以来の組織再編を行ったシャオミが目をつけたのが、美顔加工アプリで女性に浸透し、セルフィーに特化したスマホも販売していたMeitu(美図)だ。高い知名度を持ちながらも利益モデルを確立できず、苦しい経営が続いていたMeituとシャオミは2018年11月、スマホ事業での提携を発表した。ユーザーが重ならないその組み合わせは、「理想の結婚」とも評された。
シャオミは2日、CCシリーズの機種として、メインの「CC9」、廉価版の「CC9e」、そしてMeituがカメラ機能を開発した「CC Meituカスタムバージョン」を発表。Meituの呉欣鴻CEOが、Meituカスタムバージョンを紹介した。
カスタムバージョンのカメラはCC9と同様に「肌の質感などにこだわることで、不自然ではなく実物より美しくする」機能を搭載しつつ、独自の機能も盛り込んでいる。
例えば顔だけでなく、全身を補正する機能のほか、背景をぼかして映画の主人公のように被写体を際立たせる「映画人物モデル」も追加。どこに旅行しても、旅行先の背景は自分を引き立たせるための「小道具」と言わんばかりに自撮りに勤しむ中国人女性たちのニーズにとことん対応する姿勢を見せた。
ライバルは「手負いのファーウェイ」
発表会では、他社のカメラより「美しく、自然に」撮れることがアピールされた。
動画視聴サイト「好看視頻」より
シャオミの雷軍CEOはCC9の価格を1799元(6GB/64GB、約2万8150円)と発表し、「ライバル3社の3000元前後のスマホと同程度のスペックがある」と強調。同社本来のウリである「コスパ」をアピールすることも忘れなかった。
発表会が始まった時点で、Meituの吴欣鴻(ウー・シンホン)CEOの微博(ウェイボ)のフォロワーは8万人だったが、翌3日午後に10万人を突破。両社のコラボへの関心の高さも垣間見える。
とはいえ2019年後半、中国のスマホ市場の競争は一層し烈になることが予想される。米中貿易摩擦の影響で、海外での成長を諦めたファーウェイが、中国市場を死に物狂いで取りにくることが明白だからだ。
弱点を補完しあえる最強のパートナーを得たシャオミが、今年の台風の目になるのか、あるいは手負いのファーウェイの咬ませ犬になるのか。戦いの行方が注目される。
(文・浦上早苗)