公道実証に走り出す、SBドライブの自律走行バス。
ソフトバンクの子会社SBドライブは7月3日、東京・港区のオフィスエリア「イタリア街」にて、ハンドルのない自律走行バスを使った公道実証を開始した。自動車などが入ってこない区切られたエリアでの自律走行実証はこれまでもあったが、完全な公道で、往来の人や自動車を制限することなく、多人数が乗るバスによる自律走行の実証実験は国内初だ。
SBドライブの佐治友基社長。
SBドライブの佐治友基社長によると、国内初となる公道実証にあたっては、公道走行に対応するための装備を独自に改造し、関係省庁の許認可を得たという。
「(ベース車両は)ハンドルがないクルマ。“保安基準”に当てはまっていないということで(当初は)ナンバープレートがもらえない車両だった。(そのため)公道を走らせるために、いくつか改造している」(佐治氏)
ライトなどの一般的なクルマの要件を満たす改造のほか、大きいのは「運転席に相当するスペースをつくって、ハンドルに相当するゲーム用のコントローラーを人間が持って操作する」という運用にしたことだ。
運転席とハンドルに相当するデバイスを取り付けドライバーも同乗することで、「自動運転レベル2の実験ができるナンバーを取得した」(佐治氏)という。
自律走行バスに同乗するドライバー。万が一の場合の操作をする役目。あくまで「ドライバーは乗っている」状態にすることが、公道実証にあたってのポイントだった。
ドライバーは同乗するが、実証実験は「基本的に自律走行」(自動運転という言葉はあえて使っていない)で行う。ドライバーはあくまで、万が一の緊急停止や、路上駐車車両などを避けるために同乗するのみだ(今回の実証で運営側として同乗するのは、運行責任者とドライバーの2名)。
SBドライブは2020年の事業化を目指している。特に過疎地域などでの交通網に有望だと考えており、安く使える日常の足にしたいとする。佐治氏によると、すでに自治体などからの問い合わせも複数あるという。
公道初走行の「自律走行バス」体験試乗
自律走行バスの搭乗口。
SBドライブの自律走行バスは、NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)というフランスメーカーの車両がベース。乗車定員は全11名。実証ではドライバーと運行責任者の2名が必ず乗り込むため、9名が乗車できる。
走行中のバスの車内。搭乗者は着席必須。ドライバーのみ、立ったまま、周囲の状況に注意を配っている。試乗中、コントローラーによる運転操作はしなかった。
「それでは、発車します」
指定された駐車スペースに報道陣が乗り込むと、ドライバーの操作で観音開きのドアが閉じた。
この日気温は28度。じっとりとした暑さがあったが、車内はサッと汗がひくほどエアコンが効いている。
普通のバスと違うのは、乗車する人が「コの字型」に座ること。運転席に相当する部分は、特に区切られてはなく、ドライバーと体験者は同じエリアに座る。バスに揺られていると、内部の風景はまるでロープウェイのゴンドラのようだ。
そろそろと走り出し、T字路に差し掛かると、いきなり「停止」。聞くと、交差点など歩行者が想定される「歩行者帯」に差し掛かると一旦停止する必要があるそう。車両はこうしたシチュエーションで歩行者の有無に関わらず完全停止する制御になっている。
公道実証を行う港区の「イタリア街」を走行中。物珍しい車両に、周囲に通りがかった人もスマホを構えて立ち止まっていた。なお、この車両は4輪操舵対応なので、前輪・後輪どちらも舵を切れる(写真のタイヤの角度に注目)。
走行速度は時速19km以下。傍目に見るとゆっくり走っているように見えて、乗り込むと割合と早く感じる。
オフィス街ということもあり、歩行者が近づいたりすると結構頻繁にブレーキがかかる。
人間のドライバーと比べると、「スムーズ」とはいかず、やや急ブレーキ気味。この辺は、(一概に比較できないとはいえ)既存のADAS(先進運転支援システム)搭載自動車ではずっとスムーズな停止ができるので、制御技術の問題かもしれない。
ものの数分でまわれる周回コースということもあるが、体験試乗の間は一度もドライバーの介入はなかった。なお、今回はGPSの信号が取りづらいビル街ということもあり、GPSは使わずLiDAR(レーザーセンサー)を使って空間認識(自己位置推定)と対物認識をする方法で運行している。
SBドライブによると、3日間の実証期間中、主に大学の有識者や国交省・警察庁をはじめとする政府関係者を中心に招待し、1日に8回を走らせる。周辺住民など一般の募集はない。
自律バス事業で「過疎地域に山手線を」
佐治氏は、今後実用化にあたってのポイントは「継続的なビジネスモデルの構築」で、ハード的な性能はすでに一定のレベルにあると強気だ。
2020年の事業化目処となると「東京五輪」の4文字がチラつくが、SBドライブとしては「五輪タイミングの事業化」にはこだわらない。事業化できる地域を見つけ、あくまで2020年内にサービス開始することが重要だとする。
すでにSBドライブに問い合わせをしてきた自治体を見ていると、「関心を持って反応してくれる自治体には共通点がある」(佐治氏)。キーワードは、高齢化、免許返納、バスの減便・廃線が進んできた、といったものだという。こういった地域では、地元で営業を続けるバス会社との競合関係が気になるが、対立はなく、むしろ自動運転(自律運行バス)をツールとして使って事業継続したい、という目線でバス会社は見ていると話す。
SBドライブの公式サイト。今回の公道実証開始にあわせて、最新の内容に更新されている。
今回の実証では運行管理者、ドライバーの2名が乗車しているが、将来的には、遠隔操作システムを活用し、複数台のバスを1人ないし2人(走るエリアによって想定が変わる)で運転・運行管理するようなサービス形態を視野にいれている。
将来、遠隔操作での運行が実現できるかは、SBドライブにとって、ビジネスモデルの成否の分かれ目の1つだ。
過疎地ではコミュニティバスもさかんだが、乗車率の低さから、「空気を運んでる」とも揶揄される。佐治氏はこの問題点を「(空気を運ぶのが問題ではなく)空気を“低頻度で”運んでいるのが問題だ」と指摘。本数を超高頻度にすることで便利になれば、乗車率は解決できる、という考えだ。
バス内部の席の配置。椅子が向かい合う形で配置され、側面には簡易シートもある。SBドライブでは、スピードが時速19km/h以下のため、シートベルトは不要だと説明。
「(過疎地の公共交通の不便解消には)山手線を目指したほうがいい。過疎地域に山手線をつくればいいんです」
佐治氏はこう続ける。
「いまは人間が運転しているから、労働時間8時間のなかで、あっちの系統もこっちの系統もやってるから、1時間に1本しかない、下手すると朝と夕しかない、となる。自動(運転)にしてしまえば、24時間、10分に1本(にできる)。そこが、自動化のパラダイムシフトだと思う」(佐治氏)
また、考え方として、メインの路線につながる「支線」に、こうした自律走行バスを走らせることで、メインの路線の収益が増える、あるいは都市圏の住人をこうした地域に不便なく移動できるようにしたいと考えるバス会社もあるという。
いずれにしても、この自律走行バスビジネスの未来を決めるポイントは遠隔操作だ。その要の「通信技術」は、最新の5Gをまたず、現行の4G回線でもまったく問題ない、と佐治氏。地域社会や監督官庁との議論で、同乗者を減らせるのかが、遠隔操作を使った運行形態が認められるのかは、注目しておきたいポイントだ。
(文、写真・伊藤有)