避妊やめたら子どもができるわけじゃない。29歳起業家が#夫の不妊バイブルを発信する理由

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妊活・不妊治療の界隈では、異色の存在であるヘルスアンドライツ代表、吉川雄司さん。

日本で、子どもができずに悩んだことのある夫婦は3組に1組。不妊に悩む夫婦の約5割が「男性にも原因がある」——。

18人に1人の子どもが体外受精で生まれ、不妊治療大国と言われる日本だが、妊娠・出産周りの書籍はピンク、ネット上の妊活関連のサイトも完全に女性が主役。しかし、正しいデータを知れば、男性も「他人事」では全くないのは明白だ。

男性にも妊娠周りの正しい情報を、と立ち上がったのが、Twitterで1万人がダウンロードしたという「夫の不妊治療バイブル」の発案者で、妊活や性にフォーカスする起業家、吉川雄司さん(29)。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、人材系ベンチャー役員のキャリアをもつ20代男性という、妊活界隈では異色の存在が、目指す世界とは。

「子どもが欲しい時の作り方を、僕らは知らない」

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望んだ時に、子どもがやってきてくれると思っている?

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「避妊をやめたからといって子どもができるわけではありません」

吉川さんは、多くの人たちが陥りがちな「学校では教えない」勘違いを、まずそう指摘する。

排卵日近くに性交渉を持ちたいのに、そういう時に限って夫が仕事や飲み会で帰ってこない。産婦人科へ男性側の検査に行くのを、パートナーが嫌がる。そもそも「子作り」目的のセックスに夫が引き気味——。

妊活・不妊治療周りは、こうした女性のため息であふれている。定期的に生理があり、出産となれば当事者でもある女性は、もともと、妊娠・出産関係の情報に触れる機会も多く、興味関心も強い。

そんな女性に対し、男性の反応が鈍い理由を、吉川さんは冒頭の「避妊をやめれば……」の思い込みに加えて、こうひも解く。

「男性は妊娠・出産にまつわる性の話に対して、女性がコントロールしているんだから、知らなくてもいい、(セックスの時に)ゴムさえつければいいみたいな感覚が少なからずあります。女性の領域なので、触れてはいけないぐらいに思っていることも」

その結果、いざカップルで「子どもを持ちたい」と、妊活を始めようにも、実際に走り出してみれば、夫との温度差に妻が頭を悩ますケースがあとを絶たない。

「そもそもの性教育からして、小学校高学年で男女を分けられて『避妊しなさい』を強調する。たしかに早すぎる年齢での妊娠は問題ですが、子どもが欲しいときの作り方を、僕たちは知らない。特に男性は性のリテラシーが低く、そこでも男女で分断があります」

女性の方が興味関心が強いとなると、

「世の中のビジネスはPVを集める必要があり、興味ある人に向かって情報を打とうとする。その結果、女性向け情報ばかりになってしまう現状があります。(男女の)分断を加速化させているなと」(吉川さん)

子どもは自然に授からないといけないという風潮

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妊娠・出産領域には、奇妙な自然崇拝がある。科学的根拠に基づいた情報こそが必要なのに。

さらに言えば、こうした「分断」は、男女だけの問題でもない。

「自然妊娠と不妊治療の間にも大きな壁がある。妊娠に医療を使うのに抵抗があって、子どもを自然に授からなきゃいけない、その方が優れているという考え方もありますね」

吉川さんはこうした「思い込み」にも、疑問を呈する。

妊娠するまでの過程で、全く医療の力を借りない人もいれば、排卵日検査薬を使ったり、少し薬を飲みながらだったり、病院で治療したり、「妊活」も個々の状況に応じてさまざまだ。そして出産ともなれば、医療の力は不可欠だ。

「『自然妊娠』、『不妊治療』という区分がきっちりあるというより、グラデーションでいろんな医療を使っているのに、知識がないがゆえに自然崇拝的なところがある。技術が進化する中で、人が幸せになるために医療は使うべきだと、僕は思っています」

吉川さんは2018年8月、「男性が知っておくべき最低限の妊活知識」の発信をパワーポイントにまとめた「夫の不妊バイブル」を、無料ダウンロードで解放。公開後1週間で1万ダウンロードを超える反響を呼んだ。

その一部をご紹介しよう。

夫婦の3組に1組は、不妊の心配をしたことがある。

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出典:夫の不妊バイブル



5組に1組の夫婦が、実際に不妊治療を経験したことがある。

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出典:夫の不妊バイブル


不妊の原因のおよそ半分が、男性側に原因がある。不妊治療外来は、女性だけが行く場所ではない。

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出典:#夫の不妊バイブル


20代でも、流産率は15〜20%ある。妊娠したからといって、全て出産に至っているわけではない。

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#夫の不妊バイブル


スピリチュアルでも、ピンクでもない必要最低限の知識

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女性だけでなく、カップルで読める妊活知識が必要だ。Twitterでの反響に、確信する。

Twitterでのリリース後、吉川さんは、はっきりとした手応えを感じる。

「女性だけでなく、男性も一緒に読める、夫婦の知識が必要だと痛感しました。スピリチュアルだったり、ピンクだったりでもなく、感情論でもない。科学的に妊活を進めるための、必要最低限の内容を記載しています」

バイブルは『やさしく正しい妊活大事典』として書籍化し、6月末にプレジデント社から発売。表紙は、アイボリー地に黄色と黒のタイトルが入り、さながら、柔らかめの経済本といったテイストで「性別」を感じさせない。

「主人公が男性なので、男目線で気になることが書かれていて読みやすい」と、男性目線の「妊活本」が、男性読者にも受け入れられている。

Twitterや書籍での情報発信に合わせて、吉川さんの会社ヘルスアンドライツでは、

  • 妊活や不妊治療に関する正しい知識を身につけるためのイベント「大人の性教育」
  • リクルートライフスタイル、武田コンシューマーヘルスケアと共同開催のライフプランニング研修
  • 不妊治療記録アプリ「たまのーと」の運営

といった、複数アプローチでニーズ検証と、適切な情報発信やアプリ開発を進めている。

イベントには10〜20代男性といった、妊活周りでは見かけない層が集まっているのが特徴的だ。

自分が社会に還元できることを、社会課題から逆算した

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「恵まれた環境で育った」と思うからこそ、社会になにかを還元できる人になりたい。

「もともと、夫婦の幸せや、女性の幸せにつながることに興味関心があったんです。なので大学卒業後は、オムツや生理用品、ヘルスケアを扱うP&Gを選びました。ところが、ペットフード担当に配属されたんです」

外資大手メーカー、人材系ベンチャー役員という経歴から、妊活で起業とは唐突に思えるが、吉川さんの中ではつながっている。

P&Gではペットフードでは飽き足らず、社会人2年目から、知人女性が手がける、ランジェリーのウェブサービスを手伝うようになる。そこへ、創業時のワンキャリアから声がかかって転職を決めたのは「人材育成はまさに、子育てや教育につながる」と気づいたからだ。

男尊女卑を嫌うリベラルな母親と、洋画好きの父親の元に生まれ、国立大学を出た。妹が2人いる上に、外国語学科で女性の多い学生時代を過ごし、男女の幸せや女性の生き方に関心が向いたのも自然な流れではあった。それに加え、

「恵まれた環境で育ってきた自分は、何か社会に対して、還元できる人間になりたい」

という考えもあった。自分の生きる今の日本で、一番の社会課題は何かと考えれば「少子高齢化」だった。ならば、不妊大国と言われる日本で、妊活や不妊治療周りで価値あることをやりたいと、妊活領域に行き着いた。

分断を解消するのは、正しい情報へのアクセス

2018年1月には、ワンキャリアを経て、ヘルスアンドライツを起業。ただし、自社の収益でいうと「ほぼゼロです。業務委託で妊活や教育関連の事業をお手伝いして、生活費をなんとか担保してますね」と、カラッとしている。

今後はアプリでのマネタイズを目指すつもりだが、吉川さんの見通しはいたってポジティブだ。

「出生可能人口は減りますが、正しい妊活や不妊治療の情報を求める人は増えています。もちろん、子どもを持つかは個人の自由なので、子どもを作るべきという強制はしたくない。目指すのは、妊娠に関するデータを可視化し、データがそろっていて、自己判断ができるような環境を作ること」

正しい情報へのアクセスを可能にすることこそが、不安を食い物にするような、ビジネス商材や根拠のない情報を駆逐する。みんなが正しい情報へアクセスできる環境を作れたなら、性や妊娠、男女の幸福をめぐる漠然とした不安や分断は、不要になると信じている。

(文・滝川麻衣子、写真・今村拓馬)


吉川雄司 大阪大学卒業後、外資系消費財メーカーP&Gに入社。就活クチコミサイトを運営する、ワンキャリアに参画し、執行役員。2018年1月、不妊治療支援を目的としたヘルスアンドライツ創業。代表取締役。著書に『やさしく正しい妊活大事典』。Twitter:UG_0117 で日々、妊活情報を発信中。

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