1人で数百人担当することも。今治・ベトナム人労働者問題で表面化した監理団体の無責任

今治タオルの不買運動にまで発展したNHKのドキュメンタリー番組「ノーナレ」(6月24日放送)。愛媛県の縫製工場で働くベトナム女性の技能実習生たちの悲鳴は、技能実習制度の機能不全を見せつけた。

ノーナレ

NHKの番組「ノーナレ」では、今治にあるタオル工場で働くベトナム人労働者の過酷な労働環境が紹介され、反響を呼んだ(NHKの公式サイトから)。

出典:NHK

「家畜扱いされて1日中叱られています」

番組では、早朝から午後10時過ぎまで働き、寝泊まりするのは二段ベッドが敷き詰められた窓のない部屋、という実習生たちの現実が描かれている。洗濯する暇もなく、雨が続くと、濡れた服を着たまま作業をする。それも、来日前は婦人服や子ども服の製造と聞かされていたが、実際の仕事はタオルの製造 —— 。

劣悪な労働環境に言葉を失うと同時に、違和感を覚えた人も多かったのではないか。なぜ国の制度によって日本で働いているにも関わらず、その労働環境が管理できないのか。(彼女たちにとっては)外国の、それも、報道関係者に告発するまで事態が明らかにならないのか。

技能実習の監査役である監理団体

ベトナム求人

ベトナムの地方に足を運ぶと、人が集まる商店街や、学校の前に日本の技能実習生募集の広告が貼られている。

撮影:澤田晃宏

関東地方のある監理団体幹部はこう話す。

「実習生が技能実習計画通りに働いているか。法律に反せず、実習実施企業は適正な賃金を支払っているか。それらを監理し、実習生を保護するのが、監理団体の仕事です。実習実施企業はもちろんですが、その監督責任のある監理団体、さらには、その監理団体の許認可権を持つ外国人技能実習機構の責任も問われるべきです」

監理団体、外国人技能実習機構とは何なのか。

ここで、技能実習生の受け入れの仕組みを説明したい。技能実習生の受け入れ方法には「企業単独型」と「団体監理型」があるが、95%以上は団体監理型で、本稿では前者の説明を割愛する。

団体監理型では実習生を受け入れるのは企業ではなく、「監理団体」が受け入れる。企業は実習生を直接採用できず、監理団体を通して求人票を出す。企業は、監理団体が契約する海外の「送り出し機関」が募集した候補者と雇用契約を結ぶ流れになる。

技能実習生

制作:澤田晃宏、デザイン:さかいあい

監理団体には、傘下の企業の技能実習計画の作成を指導したり、送り出し機関とともに実習生の入国手続きなどをしたりする役割がある。実習生が入国した後も1カ月に1回以上の頻度(技能実習1号期間)で企業を訪問し、実習計画が計画通り進められているかを確認したり、実習生の相談を受けたりしなければならない。3カ月に1度は実習先の定期監査を行い、実習計画が適正に遂行されているかどうか、後述する国の機関に報告しなければならない。

わかりやすく言えば、監理団体は技能実習の監督役だ。監理団体は許可制で、商工会議所や中職業団体などの非営利団体に限られる。その許認可権を持つのが外国人技能実習機構だ。実習実施企業を監督する監理団体をさらに管理する立場にあり、監理団体の許認可の取り消しもできる。

問われるべきは企業だけではない

先出の監理団体幹部は疑問を口にした。

「NHKの番組では監理団体や外国人技能実習機構への言及はなく、誤った認識を与えている。実習を実施した企業にだけ批判が集まったが、その劣悪な労働環境を見過ごした監理団体、その許認可を持つ外国人技能実習生機構にこそ問題があるのではないか」

確かにNHKの番組は不自然だ。

取材班は技能実習生からSOSを受ければ、その監理団体や外国人技能実習生機構に伝えることもできただろう。批判するなら技能実習生の受け入れ体制全体に言及すべきだ。責任が問われるのは実習先の企業だけではない。こうした疑問をNHKに問うと、ファックスで回答があった。

「番組は、外国人技能実習生の置かれた状況について、関係機関も含め取材を重ねながら制作しました。関係機関とのやりとりは、取材・制作の過程に関わるため、お答えしていません」(NHK広報担当者)

1人で数百人を監理

ベトナム人労働者

ベトナムの送り出し機関が運営する日本語学校でセミナーを実施する元尾さん。

提供:AGA SUPPORT

監理団体に頼らず、自衛に動く実習生もいる。

「監理団体は守ってくれません」

AGA SUPPORT(エー・ジー・エー・サポート/ハノイ市)代表の元尾将之さん(37)は、日本で働くことが決まったベトナム人技能実習生を対象としたセミナーで、そう説明している。同社の主力商品「KAKEKOMIDERA」は日本で働く技能実習生から母国語で仕事に関する相談を受け、弁護士などの専門家が母国語で対応するサービスだ。セミナー参加者の大半が関心を持つという。

そもそも労働相談は監理団体が受けるべきだが、元尾さんはこう話す。

「監理団体にとって実習実施企業はお客様です。監理団体は非営利団体で、収入は基本、企業からもらう技能実習生1人当たり月額3〜5万円の監理費だけです。すべての監理団体に当てはまる訳ではありませんが、仮に実習生が働く劣悪な環境に気づいても、お客を失う怖さから企業の側に立つケースが往々にあります。そもそも監理団体の職員は一人で数百人の実習生を監理するケースもあり、十分な対応をする余裕はありません」

サービスの費用は、1人月額9ドル。2019年5月に販売したばかりだが、すでに約700人が登録しているという。その大半が実習生を募集、渡航前の日本語教育を実施する送り出し機関を通じた登録だ。

求人票を盾に高圧的な監理団体

ベトナム人

「ベトナム人技能実習生はニュースやSNSを通じて、なかには劣悪な環境で働かされるケースがあることを知っている」と元尾さんは話す。約8割がサービスへの参加を希望するという。

提供:AGA SUPPORT

ただ、サービスを積極的に受け入れる送り出し機関はまだまだ少数だ。元尾さんは話す。

「大半の送り出し機関は関心を持ちますが、サービスを受け入れることで監理団体から排除されることを恐れ、セミナーなどの実施もできません。まだまだ『送り出し機関は一つじゃない』と採用を見返りとしたキックバックを求める監理団体は多く、送り出し機関と監理団体には歴然とした力差があるんです」

キックバックだけではない。

一定数の実習生を採用した場合、送り出し機関の駐在員を日本に置かせて監理団体に変わって実習生を監理させたり、失踪者が出た場合はそのペナルティを送り出し機関に支払わせたり、求人票を片手に監理団体が偉ぶるさまは枚挙に暇がない。

元尾さんのサービスが成り立つこと自体、技能実習生を受け入れる監理団体が機能していないことの証だ。月額9ドルとは言え、実習生にとっては余計な負担だ。

NHK報道では受け入れた企業のみ非難が集まったが、実習生を企業に送った監理団体、さらにはその監理団体の許可権限を持つ外国人技能実習機構の責任も問われるはずだ。

報道されたベトナム人技能実習生が働いた職場やその監理団体について外国人技能実習機構に問題をどう考えているのかを尋ねると、

「個別の事案には答えられません」

Business Insider Japanの取材に対し、そう回答があった。


澤田晃宏:ジャーナリスト。1981年、神戸市生まれ。関西学院高等部中退。建設現場作業員、出版社勤務、朝日新聞出版「AERA」記者などを経てフリー。外国人労働者に関する問題を精力的に取材している。

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