何時間働いても日給6000円。ブラックインターンとして搾取される学生たち

経団連の就活ルール廃止(2021年卒から)が決まるなど就職活動が多様化する中、インターンシップ(就業体験)は事実上の就活の現場となり、学生の参加率は右肩上がりで上昇している。

だが、高額報酬や本格的な就業体験のできる魅力的なインターンもある一方で、不当に学生を扱うインターンも混在している。やりがい搾取の働かせ方やパワハラ事案も起きており、「ブラックインターン」と呼ばれている。

実際に、ブラックインターンを体験した学生に、その実態を聞いた。

都心で肩をおとす女性

将来に不安を感じ長期インターンシップをはじめる学生は少なくない(写真はイメージです)。

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「いい子ちゃんで責任感あるから損をしたんです」

そう話すのは、現在就職活動中の私立大学4年、ユキさん(21、仮名)。黒髪ショートカットで凛とした雰囲気。インターンで起こった悔しい体験を話してくれた。

2018年の3月に、友人の紹介でコンサル業のスタートアップでインターンを始めた。時給は1500円だったので、バイト感覚の軽い気持ちで契約社員として入社した。最初は週3日、そこで30代の社長の事務サポートなどをする予定だった。

「学生が企画する飲食店は面白いよな、やってみよう」

社長に声をかけられた。入社2カ月後に新規事業として、飲食店をやることになった。

訳のわからないことで怒鳴りちらす社長

ユキさんは経験のない「学生による企画」に、多少の違和感はあったものの、何事も経験したくて、引き受けた。その日から、飲食店プロジェクトが始まった。他の社員に手伝ってもらい、場所選びから、他のインターンに仕事を振るところまで、ほぼ全ての工程を担当した。

オープン予定は12月下旬。近づくにつれ、労働時間は増えた。12月は土日も働き、誕生日もクリスマスも彼氏に「仕事があるから」と話して働いた。気づいたら、睡眠不足から大学でも講義中に居眠りしてしまうようになり、12月は268時間も働いていた。

社長は当初、このプロジェクトに対して放任主義のように見えたが、そのうち自分の思い通りにいかないカフェの運営や社員たちに苛立ちも覚えていたようだ。

急に現場に来ては、訳のわからない事で怒鳴り散らされることもあった。ユキさんは、目の前のことを、とにかくやるしかなく必死だった。人手不足から後輩も誘い、巻き込んでいた。

社長への不信感を募らせていたが「今逃げ出したらこの飲食店は終わってしまう」「社長に辞めると言ったら何をされるかわからない」と、責任感のみで突き動かされていた。

身に覚えのない責任追求で携帯を見るのが恐怖に

階段

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「不正発注しただろ。会社の金を横領したから訴える」

カフェをなんとかオープンさせた矢先。理解ができない社長の一言から眠れなくなり、胃が痛くなる日が続いた。無我夢中で働いていていただけだったのに。

一連の事業が気に入らなくなったのか、カフェは閉店させられ、それからユキさんは逃げるように辞めた。間も無く社長から、身に覚えのない不正発注を追及され、「返信しないと弁護士から訴訟の内容証明を送る」と、何通も長文メールが来た。携帯の通知が恐ろしくなった。

12月に働いた給与として40万円が入る予定だったが、半分程度しか振り込まれていなかった。挙げ句の果てに、こう突き放された。

「なんで、勝手に一日8時間以上働いているんだ。バイト程度なんだから、月15万円で主婦でも雇った方がマシだ」

現在、ユキさんは不払い問題について弁護士と相談をしているが、就活で時間とお金に余裕がない今は、気が進まない。

とはいえ、振り回された時間や傷ついた心の代償は、あまりにも大きい。

社員同様に何時間働こうが「日給6000円」

こうした事例は、ユキさんに限った話ではない。

コンサル系の長期インターンを開始した、明治大学に通う女性(20)は会社の事情で「1日、何時間働いても6000円が上限」と決められていた。合意のもとではあったが、社員同様に9時間以上勤務をしていたにも関わらず、だ。

インターンという立場に遠慮し、金銭面の話は深くは切り込めなかったそうだ。この女性は言う。

「まるで社会人の見習い。働かせてもらっているけどモヤモヤしていた」

また、都内の私立大学に通う女性(21)もベンチャー企業でインターンをしていたが、不信感はあった。

給与体系は週2回の1日7時間で月額4万円。交通費の支給はなく、働く時間が増えても固定給だったので、時給計算だと400円で働く月もあった。

この学生は、「インターン生という立場だし、お金を稼ぎたい訳ではないが正直、生活は大変。でも褒めてもらえて成長も感じるので、文句は言えない」と話す。

優れた働きぶりを見せれば評価され、内定がもらえるかもしれない——。そんな期待から、学生たちが、内定というカードに翻弄されている面があるのは否めない。

労働力か就業体験か、人手不足時代のインターン

就活生

早くからインターンを開始した人は「社会のリアルを見たかったから」という。

撮影:今村拓馬

インターン市場は近年、拡大を続けている。リクルートキャリアの調査では、2018年度にインターンシップを実施した企業は96%で、2017年度 から10ポイント以上伸びており、学生の参加率も2015年ごろから右肩上がりで増えている。大学のプログラムに、インターンシップが組み込まれている所も少なくない。

急拡大するインターン市場は、その定義や目的も曖昧な面がある。とくに、一定以上、オフィスで働くことになる長期型のインターンシップでは、企業の目的が「労働力不足の担保」なのか、学生のための「就業体験」であるかの見極めが必要だ。

労働基準法9条によると、インターンであっても、事業所で使用され、賃金を払われているのであれば「労働者」だ。企業はインターンに対しても当然、労働法を守らなければいけない。

厚生労働省の行政通達上(旧労働省1997年9月18日基発第636号)では、インターンが労働法の適用対象である「労働者なのか」について、以下を示している。

「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、

直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる。」とある。

つまりインターンシップが、会社の指揮命令の下で作業し、その成果が利益に結びつくなど、社員同様に働くような「労働者」である場合、無給や最低賃金未満で働かせることは、違法になる。

採用難時代のやりがい搾取は淘汰されていく

町内み

大切な時間を、ブラックインターンに費やしたくない。

Shutterstock

数あるインターンの中で、法令を遵守しないような“ブラックインターン”を見分け、引っかからないようにするためには、どうすればいいのか。

就活クチコミサイトを運営する、ワンキャリアのPRディレクターの寺口浩大さんは「就職活動と同じように下調べをすることが大事」だと話す。長期インターンシップは就活とは異なるが、アルバイト感覚で気軽に始める人も多い。

「まだ未発達で出来立ての環境であるからこそ、慎重にみる必要がある」と助言する。

またワンキャリアマネージャー多田薫平さんは、企業についてこう話す。

「目先の労働力のやりがい搾取を行うようなインターンは、情報が可視化されると学生に振り向いてもらえなくなる。採用難の時代に学生から搾取するようなインターンは淘汰されていくでしょう」

ブラックなインターンを実施するような企業は、採用難の時代に、自社の企業ブランドを毀損するとみる。

激変する就活市場で存在感を増すインターンは、学生にとっては就業体験を通して、リアルに進路や仕事について考える機会になるという効果はある。ただ一方で、その定義の曖昧さや、企業と学生の認識のズレから、思わぬブラックな実態を生んでいる。

冒頭でブラックインターンでの過酷な体験を話してくれたユキさんは、現在、就職活動中だ。

「落ち着いたら、弁護士を通じて話をつけたい。泣き寝入りはしないつもりです」

(文・三田理紗子)



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