1時間後のストレス予測ウェアラブルも登場、「ヘルスケアの未来を変える5つのイノベーション」とは

糖尿病や心臓病に効くエクササイズを“処方”してくれるアプリに、1時間後に受けるストレス予測ウエアラブルも ——。製薬世界大手の英グラクソ・スミスクライン(GSK)は、「セルフケア(健康管理)の未来を変えるイノベーションコンテスト」の受賞者を発表した。

世界で最もイノベーティブで、最もパフォーマンスが高く、最も信用のあるヘルスケア企業を目標に掲げる同社。

「数百人の卓越したサイエンティストを抱えてもなお、世界のありとあらゆる専門的技術を社内に取り込むことはできない」として、(1)デジタルヘルス(2)家庭医療(3)製薬技術の3分野で、同社との協業により新たな可能性を生み出す技術やサービス、アイデアを募った。

応募が殺到するなか、受賞したのは5社。それぞれに賞金100万円が送られた。GSKの7月1日の発表から、以下にその概要を紹介しよう。

「歯周病を完全に防ぐ」画期的な手法

歯 バクテリア バイオフィルム

歯周病のイメージ図。バクテリアが歯の表面に付着し、繁殖することでバイオフィルム(菌膜)が形成され、抗生物質などが効かなくなる。トルコのボルテックは、あらかじめ別のバイオフィルムを生成し、バクテリアの付着を防ぐ手法を提案。

Shutterstock.com

口腔内で、ある種の微生物がつくる「善玉」のバイオフィルム(菌膜)の生成を促すことで、歯周病などの原因となるバクテリアが付着して「悪玉」のバイオフィルムが繁殖するのを防ぐ、画期的な手法が生まれた。

従来、歯周病などの「バイオフィルム感染症」には、歯石や毒素を物理的に取り除いたり、抗菌薬を投与したりするのがスタンダードだったが、定期的な通院によるメンテナンスが必要で、(服薬など)自宅でできる根本的な予防法あるいは治療法が求められていた。

開発を進めているのはトルコのボルテック(BORTEK)。絶縁・耐熱材料として使われる「六方晶窒化ホウ素」を高純度で精製する技術で知られ、その技術力を活かして、家庭医療分野にも進出した。

慢性消化器疾患の「根拠に基づいた治療」アプリ

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「世界初、慢性消化器疾患専門の分散型(decentralized)クリニック」をうたうカーラケアのアプリ画面。お腹の調子や痛みなどの症状、食事などを入力し、リアルタイムで診断を受ける。

出典:CARA CARE App 画面を編集部加工

ドイツのカーラケア(CARA CARE)は、過敏性腸疾候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、胃食道逆流症(GERD)、胃炎や短腸症などの慢性消化器疾患に苦しむ患者に対し、日常の食事データを活用して、認定栄養士による分析など、根拠に基づいた治療を提供するスマホアプリを開発。

コンテスト応募のキャッチフレーズは、「世界初、慢性消化器疾患専門の分散型(decentralized)クリニック」だった。

カーラケアは、慢性消化器疾患について、投薬治療にとどまらず、生活習慣の改善、体内の微生物や栄養素のデータを活用した複合的な治療法の研究を行っている。社名の「カーラ」は、「友人」を意味するアイルランド語由来の言葉。

ウェアラブルデバイスで汗の量をリアルタイム測定

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センシリオンが開発した小型デジタル温湿度センサー。一番左の「SHTW2」は幅1.3x奥行き0.7x厚さ0.5ミリと小さく、ウェアラブルデバイスの内蔵センサーに適している。

提供:SENSIRION

ストレスや不安、炎症や脱水症状など身体の異変を教えてくれる、健康のパラメーターとも言える人間の汗。

デジタルセンサー世界大手のセンシリオン(SENSIRION)は、エネルギー効率の高いごく小さな温湿度センサーを2個使い、特殊な測定原理に基づき汗の量をリアルタイムで測定する技術を開発した。

ウェアラブルデバイスに搭載することで、脱水症状の兆候がみられるときにはアラートを発信するなどの機能を実装できる。

年をとると体内の水分量が低下して脱水症状が起こりやすくなるため、アメリカでは高齢者を中心に年間50万人以上が病院に搬送され、そのコストは10億ドルを超える(センシリオンによる試算)。発汗量のリアルタイム計測を普及させることで、この数字は大きく改善されるだろう。

センシリオンは温湿度センサーだけでなく、液体やガス流量の測定に使うフローセンサーでも知られるスイスの会社で、他にも医療分野に活用できる技術や製品を多く抱えているとみられる。日本にも支社(東京)がある。

1時間後のストレスを予測できるウェアラブル

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フィンランドのビッティウムが開発を進めるウェアラブル・プラットフォーム。今回受賞したストレス予測デバイスはフィリップスの技術を活用した。

出典:Bittium HPより編集部キャプチャ

フィンランドのビッティウムは、皮膚コンダクタンス(=精神的な刺激による発汗が皮膚の電気伝導率に及ぼす変化)からコルチゾール(=ストレスを受けたときに分泌が増えるホルモンの一種)の働きを測定することにより、ストレスの度合いを計算できるウェアラブルデバイスを開発した。

ストレスの測定や計算などのコア技術は、ヘルスケア機器世界大手のフィリップスが開発したもので、ビッティウムはそれをひとつのウェアラブルデバイスに統合したことが評価された。

ストレス測定だけではなく、心拍数の計測、さらには1時間後のストレスを予測する機能もついている。測定結果はリアルタイムでデバイス画面に表示され、同時に開発された分析ツールを使ってさらに詳細な分析結果を得ることもできる。

ビッティウムは無線通信技術を専門とする会社で、高いセキュリティが求められる軍事用の戦術通信システムや医療用システムなどを開発。その延長として、医療現場向けの生体信号モニタリング技術も提供している。

糖尿病など重病改善のエクササイズ提供アプリ

エクササイズ 慢性疾患

特定の慢性疾患向けのエクササイズも用意されている「アイプレスクライブ・エクササイズ」アプリ。12週間のメニューが個々に合わせて作成され(左)、実施スケジュールを無理なく調整したり(中央)、進捗状況を確認したり(右)できる。

出典:iPrescribe Exercise App 画面を編集部加工

イギリスのアイプレスクライブ・エクササイズ(iPrescribe Exercise)は、ヘルスケアの専門家から直接指導を受けることなく、自宅で安全にエクササイズを行えるスマホアプリを開発した。

GSKは「医者から薬を処方されるのとまったく同じように、エクササイズを処方されるアプリ」と評価している。

身長や体重、既往歴などいくつかの質問に答え、内蔵カメラのフラッシュを使って安静時心拍数を計測し、GPSを使って歩いた距離を測る6分間の歩行テスト(オプション)を行うと、個々のユーザーに最適化された12週間のエクササイズが作成される。ユーザーの希望に合わせて期間や強度を調整することもできる。

また、糖尿病、心臓病、がん、高血圧、慢性閉塞性肺疾患、ぜん息、多発性硬化症、痴呆症、パーキンソン病、うつ病、変形性関節症、慢性疼痛など、20種類の特定疾患(およびその合併症)の状態改善にターゲットしたエクササイズも用意されている。もちろんそれも個別に最適化される。

アイプレスクライブの創業者、キャロン・マニングとルイス・マニングは、ともに運動医学修士号をもつ公認理学療法士の夫婦。ルイスのほうは、イングランド・プレミアリーグ(サッカー)の強豪アーセナルなどで専属の療法士としてチームに貢献した経歴ももつ。

(文・川村力)

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