故金正日の料理人「藤本健二氏」が平壌の日本料理店で目撃。無事確認される

北朝鮮の故・金正日(キムジョンイル)総書記の専属料理人で、3年前に平壌に渡航した藤本健二氏がこのほど、同氏が経営する平壌の日本料理店で目撃された。藤本氏に関しては、所在が確認されず、安否が心配されていた。

筆者が共同で調査報道を進める北朝鮮専門ニュースサイト「NK News」に対し、関係者が明らかにした。

料理人・藤本氏

所在がわからないとして、安否が心配されていた故・金正日氏の料理人だった藤本健二氏。このほど、北朝鮮での無事が確認された(2014年、都内で撮影)。

NK News提供

藤本氏が北朝鮮当局に身柄拘束された可能性を伝える日本メディアの報道が続く中、藤本氏の所在確認の情報は日本政府をはじめ、関係者に安ど感を与えそうだ。

平壌にいる関係者2人が最近、2017年2月に藤本氏が平壌中心部の百貨店ビルに開店した日本料理店「たかはし」を訪れ、食事したことを明らかにした。この料理店をめぐっては、すでに閉鎖されたとの日本メディアの報道もあったが、今もオープンしていることとなる。

北朝鮮当局は6月下旬、海外メディアやSNSで北朝鮮国内の情報を発信していたオーストラリアからの留学生、アレク・シグリーさん(29)を拘束。7月に入り、解放したものの、北朝鮮をめぐる情報の流出入には極めてセンシティブ(神経質)になっている。

金色の大きな額縁入りの写真

料理人・藤本氏

藤本氏が経営する日本料理店には金の額縁に入った藤本氏の写真が飾られていたという。

NK News提供

情報提供者の身を守るため、その身元が特定できたり、情報提供者が藤本氏の料理店「たかはし」を訪れた具体的な日時がわかったりしてしまう内容については、拙稿でも控えさせていただきたい。

1人目の関係者によると、デイリー新潮が6月下旬に藤本氏の拘束情報や安否未確認を報じた(後述)のち、「たかはし」で客にサービスを提供する藤本氏を見たという。

また、2人目の関係者は後日、同店を訪れたものの、藤本氏が働いている姿は目撃できなかった。しかし、同店の壁には、藤本氏が寿司料理をつくる、金色の額縁入りの大きな写真が掲げられていた。

一般的に、北朝鮮では、藤本氏が同国当局と何らかの問題を抱えていれば、こうした写真を店内に掲げることはできない。藤本氏が当局との問題に直面していないことを示しているものとみられる。

「死ぬまで日本に戻らないつもりでいる」

平壌の街並み

北朝鮮・平壌の街並み。

Reuters/Josh Smith

藤本氏の所在をめぐっては、デイリー新潮が6月26日、「藤本氏が2012年と2016年に訪朝し、金正恩朝鮮労働党委員長と面会し、その時に得た情報を米CIA(中央情報局)に提供、それが理由でスパイ容疑で拘束されている」可能性を報じていた。

朝日新聞も7月5日夜に電子版で、日朝関係筋を引用し、「藤本健二氏の所在が、6月ごろから確認できないことが日朝関係筋への取材でわかった。日本政府も同様の話を把握しており、情報収集を続けている」と報じていた。

日本の公安関係者は筆者の取材に対し、「藤本氏が目撃されたり、拘束されたりしたという確固たる情報はここ数カ月、入ってきていなかった。もし藤本氏が拘束されていたのであれば、我々にも日本政府から調査指示が伝達されるはずだが、そうしたこともなかった」と述べた。

また、「北朝鮮当局は、何度も訪朝している日本人観光客といった『訪朝マニア』には、藤本氏を会わせないようにしている。彼らは店に行けない」と指摘。「いずれにせよ、藤本氏は北朝鮮に覚悟を持って渡航し、死ぬまで日本に戻らないつもりでいる」と述べた。

2017年から日本料理店を経営

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故・金正日総書記。写真は2007年10月のもの。

Getty Images:Pool

藤本氏は1982年に初めて平壌に渡り、平壌の日本料理店で働いた。一時帰国後、1987年に再度訪朝してほどなくして、故・金正日総書記に請われ、専属料理人となった。以後、合計で13年間を北朝鮮で過ごしたのち、2001年に決死の覚悟で脱北。2012年7月に金正恩氏の招きにより、再び訪朝。11年ぶりに北朝鮮にいる家族との再会を果たした。

その後、北朝鮮への入国を拒まれていたが、2016年4月にも正恩氏と面会。2016年夏から北朝鮮に再び渡り、平壌市内で日本料理店「たかはし」を経営していた。藤本氏は、金正恩氏が幼い頃に遊び相手も務めている。

高橋浩祐:国際ジャーナリスト。英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。

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