7月10日、新型ノートPC「VAIO SX12」を発表するVAIOの経営・開発陣。
2014年7月1日に、ソニーのPC事業が日本産業パートナーズに売却され、VAIOは日本の1つのPCメーカーとして独立した。それから、5年が経過し、VAIOは法人向けPCで売り上げを伸ばし、外部の企業から委託されてロボットやIoT機器などを製造するEMS(受託製造サービス)事業の拡大を目指している。
そして2019年7月6日、同社は5周年を記念してVAIOブランドの原点とも言えるモバイルPCの最新モデル「VAIO SX12」を発表。直販サイトの「VAIOストア」やソニーストア、全国の家電量販店などでは予約受付を開始しており、最速の出荷時期は7月19日を予定している。
2020年1月14日でサポート終了を迎えるWindows 7搭載PCの買い換え需要や、働き方改革促進で「外出先や移動中でも快適に作業できるPC」のニーズ増加の波を狙う。
画面は大型化でさらなる法人対策を万全に
従来モデルと比べて、画面の大型化などを果たしたVAIO SX12。最小構成での直販価格は15万3144円(税込、Windows 10 Home、Celeron 4205U、メモリー4GB、128GB SSD、LTEあり、Officeなし、各種キャンペーンによる割引は除く)。
VAIO SX12は、12.5インチ液晶を搭載し、重さを約897グラム以下に抑えた非常に軽量・コンパクトなPCだ。11インチ液晶搭載の「VAIO S11」の後継機種にあたり、SX12はS11と比べて画面は1.5インチぶん広くなっているが、サイズはほとんど変わらず、A4用紙よりも小さなフットプリント(設置面積)のままだ。
キーボードも本体の幅ギリギリまで活用することで、キーとキーの間隔(キーピッチ)がS11より2.05ミリ長い19ミリの広々したキーレイアウトを実現している。
写真左からVAIO S11、VAIO SX12。サイズ感はほとんど変わらない。
キーピッチのこだわりだけではなく、同社独自の「静寂キーボード」を採用し、打鍵音も抑えられるよう工夫されている。
また、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった国内3キャリアのLTE通信にオプションで対応。対応エリアであれば、最大450Mbpsの高速通信が利用できる。SIMフリー仕様なので、データ通信のみの格安SIMも導入可能だ。
前述のとおり、VAIO社の現在の稼ぎ頭は法人向けPC事業だ。法人ニーズに応えるため、SX12は軽量・コンパクトながら、HDMI出力端子や有線LAN端子、古いプロジェクターやディスプレイに対応するためのVGA端子など10種類以上もの外部接続端子に対応する。
SX12の右側面。左からSDカードスロット、USB 3.1 Type-A端子、USB 3.1 Type-C端子(USB PD対応)、HDMI出力端子、有線LAN(Ethernet)端子、VGA出力端子。
SIMカードスロットは、本体背面に位置する。
法人向けにはSX12ではなく、「VAIO Pro PJ」という製品名だが、スペックなどは基本的に同じ構成。購入する法人の要望によっては、端末管理システムを事前インストールするなど、個別の設定をしてから出荷する。
VAIOでPC事業企画課課長を務める黒崎大輔氏は発表会で登壇した際、前モデルを振り返り「実際に法人で使われているPCの(画面サイズの)インチ別の割合を見ると、確かに11インチは選びにくい存在だった」と話す。
これは、今回のディスプレイのサイズ拡大により、同社が現在展開するポートフォリオのほとんどが、法人向けのニーズに応えられるものになったことを示している。
VAIOの今後のキーは“ブランド力”
VAIO社長の吉田秀俊氏。
現在のVAIO社長の吉田秀俊氏は「独立当初は期待と不安が入り交じったメッセージを公表したが、いまは元気に明るく工場が稼働している」と5年間の成果を語り、「これもひとえにブランド力の低下を防ぎ、信じてくれるファンの皆さま、信じてくれる取引先や社員、あらゆるステークホルダーの方々のおかげ」としている。
この“ブランド力”と“ファン”というのが、VAIOにとっての財産だ。SX12もそうだが、VAIOのPC製品はソニーストアでも売られている影響もあり、いまだにソニー製品と思っている人も多い。
また、ファンについても「ソニー時代からVAIOを買い支えてくれているユーザーが多い」と関係者は語る。もちろん、その信頼性と言えるものは、法人向けPCでの展開やEMS事業においても影響がある。
VAIOのロボット汎用プラットフォームを採用した「おはなしコウペンちゃん(仮称)」。初の自社コミュニケーションロボットとして、2019年内の発売を目指す。
逆に言えば、VAIOにとって「VAIOブランドの低下=VAIOを知っている人が減ること」が今後大きな課題になる。実際、発表会の質疑応答の中で吉田氏は「(この5年間)ブランド力の低下を恐れていた」と発言している。
業界全体でPC出荷台数は今後も縮小傾向にある。時間の経過とともに、ソニー時代のVAIOを知らない世代は増えていく。その意味で、これからのブランド構築こそが、本当の勝負だとも言える。
吉田氏とDomani専属表紙モデルで同誌のビジュアルエディターを務める望月芹名氏。
そのため、VAIOではSX12および14インチ液晶搭載の「VAIO SX14」において数量限定の5周年モデルをリリースする一方で、SX12では小学館の女性向けファッション雑誌ブランド「Domani」のウェブ版とタイアップすることで、従来のVAIOファン層とは違うターゲットへの販促活動を実施している。
吉田氏は「現在はPC事業に依存している形。5、10年後と見たとき、EMS事業の(収入の構成比としての)拡大は必須」と話す。
VAIOは今後単なるPCメーカーではなく、エレクトロニクス製品の総合メーカーとなるため、EMS事業の地道な拡大と、VAIOブランドの認知拡大を目指している。
(文、撮影・小林優多郎)