Google AIトップが語った「機械学習モデルの公平性」はどう作り出すか

グーグル

グーグルのシニアフェローでAI部門トップを務めるジェフ・ディーン氏。プログラマーの間では、その異才ぶりをジョークにした「Jeff Dean伝説」があるほどの天才エンジニアとして親しまれている。

グーグルは日本における次世代のAI人材育成および、社会課題の解決に向けたAI活用の促進、AI研究への貢献を目的としたプログラム「Google AI for Japan」を発表した。同社AI部門トップのジェフ・ディーン氏が来日し、明らかにしたもの。

機械学習の基礎研究から自然言語処理、音声認識まで、AI分野における日本の研究者6名に各5万ドルの助成金が提供されるほか、東京のAI研究チームでのフェローシップやインターンシッププログラム、開発者向けのオンライントレーニングプログラムなどの取り組みを強化していく。

機械学習からいかに「バイアス」を排除するか

プログラム発表

AI人材育成、研究者への助成金や、AIを活用したエンパワーメントの提供を日本で実施するプログラムを発表。

最近、関係者の間では「機械学習モデルの公平性」が話題になる機会が増えている。機械学習モデルの公平性とは、「学習データの選び方によっては、バイアス(偏見)が取り込まれる危険性があること」を指す。

たとえばジェンダーについて、男らしさ、女らしさのような情報をどこから取得するか。国や宗教などによってもカルチャーは異なるため、データ次第では、筆者のように短髪の女性は写真判定で男性と判断される可能性がある、といったようなことだ。

公平性を担保する手法としてよく指摘されるのが、研究・開発チームの地理的、人種的、文化的なバランスの重要性。東京だけでなく、世界のAI研究チームを統括する立場にいるディーン氏は、この問題をどう捉えているのか。

日本メディアとの質疑応答のなかでディーン氏は、「機械学習モデルの公平性やバイアス(偏り)については、もちろん非常に重要な問題だと認識している」との見解を示した。

「機械にデータを提供して学習させる際、そのデータは理想的な社会のデータではなく、今ある現実社会のデータを反映したものになる。だからこそ、データが多様な今の社会のあり方を、全体的にとらえられているかどうかがとても重要になる」(ディーン氏)

結婚式の写真について機械学習させるケースを一例にあげ、「北米からだけでなく、ほかの地域からも広く結婚式のデータをとってこなければならない。そうでないと日本やインドなど、世界にはさまざまなすばらしい結婚式が存在することを見逃してしまうだろう」と指摘。「データが世界中のあらゆるもの、多様性をしっかり反映しているか考えた上で、機会に学習させなければならない」と語った。

また同時に、

「AIや機械学習は非常に多くの分野に適用できる重要な技術。その技術を開発し、活用する開発者や研究者もまた、世界中のさまざまな分野のさまざまな人々であることが重要」

との持論も展開。Google AI for JapanがAI人材の育成やトレーニングを重視しているのも、「機械学習の教材や専門知識を、国や地域を超えて世界中の多くの人々にもたらすため」と、あらためてその意義を強調した。

ドローンにAI技術を応用、除染関連の活用も

AIの現代社会への応用は年々進んでいる。「ご存知のようにAIは医療や農業、製造、文化的な保全、災害対策といったさまざまな分野に、ポジティブな影響を与えている」とディーン氏。グーグルのオープンソースの機械学習ライブラリである『Tensorflow』も、すでに日本のさまざまな分野で活用されていると話す。

たとえばエアロセンスが開発し、福島県南相馬市で実際に導入されている、除染のために除去された土をドローンを用いて管理するシステムもそのひとつ。

ドローン

南相馬市で実際に使われている、エアロセンス開発の除染ドローン。

撮影:川村力

また、国立がん研究センター東病院では、がんゲノム医療の解析時間の短縮に、Google CloudのAIツールが役立てられているという。

「日本のさまざまなビジネス、社会的課題に対して、AIが役立つ機会はまだまだたくさんあると確信している」というディーン氏。Google AI for Japanを通じて、「開発者や研究者がそれぞれに取り組むさまざまなビジネス、社会課題の解決にAIを活用できるようにサポートし、真の意味でAIによる社会貢献を実現していきたい」(ディーン氏)

プログラムの発表に合わせて、2018年4月に発足した東京のAI研究チームの研究成果についても一部、最新アップデートが紹介された。

説明によればこの1年間で、日本語の音声モデリングや古典的な「くずし字」に関するものなど、多くの論文が発表されているほか、今年グーグルが発表したEnd-to-Endの音声翻訳モデル(テキストを介さず、音声から音声へダイレクトに翻訳する)の開発にも、同チームの研究者が貢献しているという。

最新アプデ紹介

東京のAI研究チームによる研究成果について紹介する担当者。

グーグルは、文部科学省などが2019年9月に実施予定の「未来の学びプログラミング教育推進月間」にも協力企業として名を連ね、小学5年生から中学生を対象に、AIとプログラミングを学ぶ教材を提供する予定だ。

推進月間に向けて、グーグルのほか、アップルやNTTドコモなど多くの企業が、教員向けの指導案と教材を提供している。

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(文、写真・太田百合子

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