実家は寿司屋だった社長が考える「10年なんてムリ」な若者向け徒弟制度

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本格的江戸前すし店「鮨邸 田」の試食会で振る舞われたウニの軍艦巻き。

撮影:大塚淳史

東京・恵比寿を中心に飲食店を経営する「創コーポレーション」が、新たな“徒弟制度”に取り組んでいる。日本での徒弟制度といえば、店への住み込み、少ない給与、厳しい親方や師匠の下で10年近い修行、といったイメージを思い浮かべる人は多いはず。同社はそれとは異なる、今の時代に沿った徒弟制度「恵比寿アカデミー」を3年前に立ち上げた。

その背景には、飲食業界が直面する人手不足という大きな問題に加え、若者の意識の変化があった。

取材にきてよかった……と思わずうなる

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「鮨邸 田」で味わえる数々の美食。

本格的江戸前すし店「鮨邸 田」の店主であり、恵比寿アカデミーの親方である田中亘さん。

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6月末、創コーポレーションが運営する本格的江戸前すし店「鮨邸 田」の、メディア向けの試食会があった。 店主であり恵比寿アカデミーの親方である田中亘さんが、旬の魚などを、見事な技術で握り、試食会に集まった報道陣に振る舞った。どのネタも口に入れると思わずうなるおいしさ。取材に来て良かった……と思わずにはいられない。

ぷりぷりの車エビ。

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宝石のようなマグロ赤身。

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一方、その裏で、若い職人たちがシャリの入ったおけを渡すなど、忙しく動きまわっていた。現在、恵比寿アカデミー生として、田中さんの下で修行する弟子たちだ。

親方である田中亘さん(写真右)と弟子の上村航志さん。

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その一人、アカデミー2期生の上村航志さん(21)は、新潟県の調理学校を昨年卒業し、恵比寿アカデミーに入った。

「(恵比寿アカデミーの)徒弟制度に興味がありました。学べることがあるんじゃないかなと。先輩方から色んなことを教えてもらっています。(親方は)話しやすいです。親方からは『顔をやわらかくして、挨拶をしなさい』と基本的なことからやっていくよう指導されています」

こちらの取材に、あどけない表情ながらも、緊張気味に答えてくれた。

恵比寿アカデミーで学ぶ2期生の上村航志さん。

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舌で溶ける、マグロ脂身。こんな寿司を生み出す師匠から学ぶことは多そうだ。

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「徒弟制度」でも、正社員として待遇保証

彼らが学ぶ恵比寿アカデミーでは、現在0期生から3期生まで計12人が学んでいる。創コーポレーションが運営するすし店、日本料理屋、イタリア料理屋など4店舗に分かれて、親方の下で修行を積む。修行期間は5年と設定している。

そして、恵比寿アカデミーがこれまでの徒弟制度と、もっとも大きく異なるのが、待遇。

アカデミー生ではあるが、創コーポレーションの正社員として給与や賞与が保証されている。さすがに一般社員と給与体系は異なるが、「休みなどプライベートを楽しめるだけの給与」(大津慶一社長)だという。はっきりとは明言はしなかったが、月額20万円は超えているようだ。また、アカデミー生たちは、店に住み込む必要がなく、実家から通う者もいれば、自分で部屋を借りてる者もいるという。

実家は寿司屋、今の時代にマッチした徒弟制度はできる

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創コーポレーションの大津慶一社長。

大津社長は、恵比寿アカデミーを始めた理由に、昔ながらの徒弟制度の良い部分を残しつつ、今の時代に合わせたものに変えることで、魅力的な「新・徒弟制度」を作れると考えた。

「私自身、実家がすし屋でした。すでに廃業しましたが、父親が親方でお弟子さんがいました。徒弟制度のど真ん中で育ちました。父が厳しく弟子を指導するところも見ましたし、また、弟子の方々がお互いに切磋琢磨しながら、同じ時間を皆で楽しく過ごすなどといった思い出もあります」

徒弟制度に対する印象は、決して悪いモノではなかったという。

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親方である田中亘さん(写真左)と弟子の上村航志さん。

「ただ、徒弟制度のネガティブな部分が、移り変わった今の時代に合わなかったこともあり影を潜めていきました。しかし、私自身はまだ徒弟制度でやれることがあるのではないか、労働環境やモラルなどを今の時代にマッチにあったものにすれば成り立つと思い、(現代の徒弟制度として)恵比寿アカデミーを促進しました」

これまでの徒弟制度と明らかに異なるのは、5年という期間の短さと待遇保証だろう。大津社長はその理由を今の若者に長く続けてもらうためだという。

「親方たちと話し合って決めました。今の若者は10年はもたないというのが現実。生徒がやめてしまったら終わり。彼らがこれくらいの期間だったら耐えられて、これくらいの難易度だったら修行に向き合えると判断し、5年としました」

待遇は、昔であれば住み込みで給料もほとんどないようなケースもあった。

しかし「今の若者たちはプライベートを大切にする子達が大半ですし、休日もないのでは仕事が続かない。それが良いとか悪いとかではなくて、我々が受け入れていかないといけません。昔のやり方でやって、続かないでダメとなるとそこで終わってしまいます」

頑張れば頑張るほど給料が上がる仕組み

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恵比寿アカデミーで修練を積む若手2人(写真左から1人目と2人目)。

恵比寿アカデミーでは年2回の「エヴァリュエーション」という500点満点の評価規定がある。評価項目ごとに親方が、アカデミー生ができていること、できていないこと、まだ取り組んでいないことと点数化している。各項目をクリアすれば点数を獲得でき、合計点がその時の評価点になる。また、給料にひも付いていて、頑張れば頑張るほど、給料も上がる仕組みになっている。500点満点を取ったら卒業でき、本人の希望次第で、社内の別の業態の料理長になる資格をもらうことができる。

「こういうゲーム感覚的な評価制度をもうけることで、結果的に仕事が続く割合が高くなります。例えば、100人を採用しても95人が辞め、残った5人はやりがいだけで続けているのではダメだと思います。我々はアカデミー生への入学を希望者を厳選して、入れたあとはなるべくやめさせないというやり方にしました」(大津社長)

慢性的な人材不足

何より飲食業界は慢性的な人材不足という問題に直面している。魅力的な職場環境を打ち出さない限り、人手を確保できないのが現実だ。

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飲食業界は慢性的な人手不足だ。

出典:農林水産省食料産業局「外食・中食産業における 働き方の現状と課題について」

2018年3月、農林水産省が公表したレポートでは、飲食業界について「他産業と比べて深刻な人手不足」と「高い離職率」が指摘されている。

大津社長は、飲食業界の就職に対する負のイメージを払拭するきっかけに、恵比寿アカデミーを活用したいという。

2020年12月31日までに、業界一就職したい会社になるという大きな目標があります日本の状況を見渡した時に、昔と(飲食業界の)状況が大分異なると認識しました。外食のデフレ化や厳しい労働環境だったり、人員不足だったりという実態を目の当たりにしたためです」

匠の技を披露してくれた田中さんは、恵比寿アカデミーの取り組みを評価する。

「こういった仕組み(の徒弟制度)はなかったが、昔気質のやり方とか考え方にはそっています。福利厚生とか社員としての待遇もありますし、お休みもあり、理不尽なところがない」

時代に合わせて従来の形と異なる、新たな徒弟制度。恵比寿アカデミーの取り組みが、どう実を結ぶのか楽しみだ。

(文・写真、大塚淳史)

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