日本の女子大生起業家ヒロインは、なぜ“ブルドーザー女子”なのか?

BAMENSHA

起業する女性たちを描いた、スタートアップ・ガールズからの一場面。

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2019年9月、スタートアップをテーマにした映画『スタートアップ・ガールズ』が公開される。ポスターにも「日本初!スタートアップをテーマにした映画が誕生!」というキャッチコピーが踊る。日本に住むアメリカ人の起業家 ケイシー・ウォールさんが、もっと起業を身近にしたいと働きかけたことから、この映画のプロジェクトが始まったそうだ。当初の思惑通り、日本でのスタートアップカルチャーの発展に一役買えるか注目したい。

そして何より注目すべきは、主人公の起業家は女性であることだ。爆発的なパワーを持つ女子大生起業家を「君の名は。」でヒロイン役の声優を務め一躍有名になった上白石萌音が演じる。本人も現役の大学生である上白石演じる主人公は、奇抜なファッションをした、いわゆる変わり者。クレイジーな彼女が、周囲とぶつかりながらブルドーザーのように事業を開拓していく姿を描く。

いわゆる典型的な起業家像のようにも感じられる主人公のキャラクター設定だ。筆者はこのようなタイプを「ブルドーザー系女子」と勝手ながら呼んでいる。女性起業家というとこのようなブルドーザー系女子が想起されるあたり、変わり者でもない、ごく普通の女性が起業するというのは、なんともハードルが高いのかもしれない。

女性が挑戦しやすいスモールビジネス

manma

女性が「稼げること」よりも「やりたいこと」を選択できるのは、伝統的な性別役割分業が作用していると言える。

提供:manma

果たして、主人公のような女性起業家は今後増加していくのだろうか。

筆者自身も大学1年生で始めたプロジェクトを株式会社化した経験がある。若者が社会人夫婦の家庭に行き、子育てを体験する『家族留学』を提供している。関心のあった家族領域で社会的事業を行うことを目的として始めたもので、NPO法人にすべきか株式会社にすべきか迷った末に、株式会社を選択した。

起業に際して女性だからといって不利益を感じることはなかった。

このような個人の興味・関心を突き詰めることから発展するスモールビジネスは、女性にとって非常に挑戦しやすいように感じる。伝統的性別役割分業が、ある種ポジティブに作用している側面もあるだろう。女性活躍が進んでいるとはいえ、いまだに自分が社会的地位を得たり、きちんとお金を稼いだりして、一家を支えなければいけないという使命感を抱いている男性は多いのではないだろうか。

一方で、女性の方がそのプレッシャーが弱く、心のどこかで収入的には男性に頼れるかもという、期待も根強く残る。だからこそ、出来るだけ「大きいこと」「稼げること」をしたいという発想よりも、多少もうからなくても自分が面白いと思えることをやりたいという余裕が生まれるのかもしれない。

出産・育児を考えたら企業より起業?

パンケーキカフェイメージ

「美味しいものを食べて人に喜んでほしい」という思いから生まれたカフェも。

GettyImages/Alexander Spatari

例えば、日本におけるWeWorkの旗艦店 IcebergにWeWork初の一般向けカフェ(外部の人も利用可能)を運営する、フォルスタイル代表取締役の平井幸奈さんなどが代表例だろう。オーストラリアのbills(パンケーキが有名な、シドニーのカフェレストラン)で修行した経験から、美味しいものを食べて人に喜んでほしいという思いで、早稲田と原宿にforucafeを展開するほか、ケータリングの事業なども手がける。

そのほかにも難民支援を手がけるNPO法人を経営するWELgeeの渡部清花さんや、伝統を次世代につなぐことをミッションに伝統品の販売やホテルのプロデュースを手がける、和えるの矢島里佳さんなど、ユニークな事業を手がける魅力的な女性起業家が多数活躍している。(ここであげた起業家の皆さんは、男性に頼って生きていこうというタイプではないことは念のため特筆しておきたい。)

そのほかにも、コーチングの会社を起業するなど、よりフリーランスに近いような起業の形態も見受けられる。特に出産後は、子育てしながら働き続けることを考えると、企業の中よりも、起業した方が融通が利くという利点もある。

実際に「中小企業白書」によると女性起業家は起業を志した理由として「性別に関係なく働くことができるから」「趣味や特技を活かすため」「家族や子育て、介護をしながら働けるため」を選択する割合が全体平均より高くなっている。

女性起業家のビジネスはスケールしない?

男性起業家イメージ

上場企業における社長比率は男性が圧倒的だ。男性起業家の方が「大きくて稼げる」ビジネスを志向する傾向にあることがわかる。

Shutterstock/leungchopan

一方で、男性起業家の方が、よりスケールするようなビジネスを志向する傾向もあるのではないだろうか。先出の「中小企業白書」でも特に女性は、個人事業者を選択する傾向があると、指摘されている。

男性は「上場を目指せる勝ち筋があったから」という極めてシンプルな理由で、興味のない事業にも突っ込んでいける潔さがあるように感じる。

日本最大のレシピ動画サービス「kurashiru(クラシル)」を運営するdelyの堀江裕介社長も、以前Business Insider Japanに掲載されたインタビューの中で「最初から食の事業にそれほど興味があったわけではない」と明言している。記事によると「メディアの潮目をじっと観察し、『動画マーケットの波』を的確に捉えた堀江が、料理レシピ動画に特化したメディアとして事業転換を図った」とのことだ。

実際に上場企業における社長比率は、男性が圧倒的だ。東京商工リサーチが発表した「全国女性社長」の調査結果によると、上場企業の女性社長は39社と、全体のたった1%にとどまった。すでに上場している企業の社長になったケース、自ら事業を起こしてその会社を上場させたケースとそれぞれあると思うが、その両方を合わせてもたった1%だと思うと、気が遠くなりそうな数字である。

株式会社ジャパンベンチャーリサーチの調査で明らかになった、2018年資金調達ランキングを参照したい。1位から10位まで、全て男性社長が占めている。

2018年資金調達ランキング

株式会社ジャパンベンチャーリサーチ

Mastercard Index of Women Entrepreneursによるとお隣のイノベーション大国、中国では、全事業の30.9%を女性が所有していると言われている。同じ調査では、日本は17.6%と大幅に引き離されている。さらに、新しいテクノロジー領域でのスタートアップにおいて、55パーセントが女性によって起業されているという。女性がスタートアップを牽引する世界が、まさにそこにあるのだ。

ステレオタイプが崩れる日

女性

労働市場での男女格差は、まだまだ存在する。

撮影:今村拓馬

確実に変化の兆しも見られる。日本政府主催の国際女性会議WAW!では、女性起業家をテーマにしたセッションが設けられ、国内外の女性起業家4〜5名がパネルディスカッションを繰り広げた。

40〜50代の登壇者は、女性であるとわかったら電話を切られるなど事業を進める上で、たくさんの差別を受けたと話した。一方で、30代の登壇者はそんな目にはあったことはないと驚き、変化が起きつつあることを共有する結果となった。女性でも不利になることなく、事業に取り組める時代はまだ始まったばかりだ。

高校時代から生徒会長は男性、副会長が女性といった現実を目の当たりにすることで、無意識のうちに、女性は「サポートする」役割を志向するようになっている側面もあるかもしれない。

今後、出産後も仕事を続ける女性がさらに増え、管理職に占める女性の割合も上がっていくだろう。それと同時に、男性も家事・育児に参加するようになれば、男女の賃金格差も次第に小さくなっていく。

このように、伝統的性別役割分業の意識もこれからますます薄れていくにしたがって、男性が起業して上場を目指し、女性はスモールビジネスといったステレオタイプも徐々に薄れていくものと思う。

もちろん事業の大きさが全てではないものの、筆者自身も女性で起業していながら「スケールするビジネスを作れない」ということへの悔しさや違和感を感じることが多い。自分自身に対する無意識のバイアスが機能しているのかもしれない。

性別に関係なく、社会をよりよく導くような事業を広げていく気概を持って挑戦していきたい。そして、映画スタートアップガールズが、女性と起業の新時代を、後押しする一歩になればと願う。

(文・新居日南恵、写真はすべてイメージです)


新居日南恵(manma代表): 株式会社manma代表取締役。1994年生まれ。 2014年に「manma」を設立。“家族をひろげ、一人一人を幸せに。”をコンセプトに、家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」・文部科学省「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」有識者委員 / 慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科在学。

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