対イラン有志連合は「不動産王トランプ」30年来の野心——英は駆逐艦急派、日本は…

ホルムズ海峡

日本が輸入する石油の約8割はホルムズ海峡を通る。6月には日本の海運会社のタンカーが複数回攻撃を受けた。

REUTERS/Abdel Hadi Ramahi

アメリカの核合意離脱を発端として混迷するイラン情勢を巡り、トランプ米政権が中東のホルムズ海峡を通る民間船舶を護衛するための有志連合の結成を目指している。

6月末の金正恩朝鮮労働党委員長との電撃的な面談を、会う前日に「思いついた」と明かすなど、不規則な言動が目立つトランプ大統領。

だが、これまでアメリカの軍事費負担が重いことを不満として、繰り返し軽減を求めてきたトランプ氏にとって、この有志連合の提案は思いつきではなさそうだ。積年の野心は約30年前の新聞の全面広告に如実に表れていた。

「代償払わない国に金使うな」

広告のスクリーンショット

1987年9月2日に、当時41歳のトランプ氏が打った全面意見広告。

出典:The New York Times

“For decades, Japan and other nations have been taking advantage of the United States”(日本や他の国は何十年もの間、アメリカを利用してきた)

“we defend the Persian Gulf”(我々はペルシャ湾を防衛している)

“(The Gulf as) an area of only marginal significance to the United States for its oil supplies, but one upon which Japan and others are almost totally dependent”(アメリカへの原油供給にとってわずかな重要性しかないペルシャ湾だが、日本などはそこに全面的に依存している)

(英文は広告文から抜粋、一部加筆)

これは1987年9月2日、大統領になるはるか以前、「不動産王」として名を馳せていた当時41歳のトランプ氏が、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ボストン・グローブの米東部主要3紙に載せた全面意見広告の一部だ。この3紙への広告出稿に計10万ドル近く支払ったと言われる。

当時の日米関係は、今の米中のように、貿易摩擦のただ中にあり、険悪な関係だった。当時も大統領選への出馬が取りざたされていたトランプ氏には、アメリカの不動産や企業を買い漁るジャパンマネーに対して、米政府の措置が手ぬるいと映ったのだろう。しびれを切らし、身銭を切ってでも思いを喧伝したかったようだ。

エネルギー資源の少ない日本にとって中東の石油は国家の生命線だ。それに比べ、国内にも石油が潤沢にあるアメリカがどうして日本のタンカーを無償で守らねばならないのか。トランプ氏が訴えたかったのはそういうことだ。

広告が出た後、9月4日付の朝日新聞には、「『代償払わない日本のために金使うな』米大富豪が3紙に広告」と題する記事が載り、「米世論にあらためて日本の『防衛ただ乗り論』が高まっている時期だけに、日本大使館なども神経をとがらせている」と締め括られていた。

背景に日本と中国への不満

トランプ大統領

ホルムズ海峡のための有志連合を主張するトランプ大統領の思いは、30年前に始まったものかもしれない。

REUTERS/Leah Millis

それから約32年たった今、状況は大きく変わった。トランプ氏は大統領になった。アメリカはシェール革命で豊富な石油天然ガス資源に恵まれ、原油生産量で世界トップに躍り出た。

にもかかわらず、アメリカが中東の石油を積んだタンカーを守る構図は変わっていない。この四半世紀以上も前の広告の文面が、そのままトランプ氏のTwitterで今日つぶやかれたとしても、違和感がないかもしれない。

タンカー護衛のための軍事的な有志連合はイランに対する国際的な包囲網を狭め、強硬姿勢を崩さないイランから譲歩を引き出そうとする意図がある。

ただ上述の通り、狙いはそれだけではなさそうだ。有志連合の話が浮上する半月ほど前の6月24日、トランプ氏はTwitterで、「なぜアメリカが他国のために無償で輸送路を守っているのか」と広告と同じ趣旨の主張をしていた。ここで言う他国とは中国と日本。

大統領になるずっと前から、同氏の胸の内にくすぶり続けていた不公平感、不満がここにきて噴出した形だ。

英は駆逐艦を急派

イラン・革命防衛隊

ホルムズ海峡のタンカー攻撃の“犯人”として、アメリカが名指しで批判するイラン革命防衛隊。

Tasnim News Agency/via REUTERS ATTENTION EDITORS

状況は日に日に緊張の度を増している。

7月に入り、シリアへ原油を運ぼうとしていた疑いのあるイランのタンカーが、英領ジブラルタル自治政府に拿捕された。以来、英イラン関係は急激に悪化。船長ら4人は保釈されたものの、制裁違反が疑われるタンカー自体は差し押さえられたままだ。

一方、今度はイギリスが、ホルムズ海峡で自国のタンカーがイランの革命防衛隊の船から進路妨害を受けたと訴え、イランを非難した。これを受け、12日には駆逐艦「ダンカン」をペルシャ湾周辺に急ぎ派遣すると決めた。ただ、イラン側は妨害への関与を否定し、両国の主張が対立している。

アメリカにとっては図らずも有志連合の必要性を説く材料が加わった形だ。目下、イギリスが有志連合に加わるかが注目される。

有志連合結成を呼び掛けていると、7月9日に明かしたダンフォード米統合参謀本部議長は、2週間ほどで参加国を見極め、各国の軍と具体的な活動内容を協議したいと説明した。早ければ7月下旬にも立ち上がる可能性がある。

同氏は当初参加国が少なくとも、徐々に広げていけばよいとの認識も示している。参加国の候補となるのは、英仏などの欧州各国と、日本だ。

判断迫られる日本は慎重姿勢

自衛隊

岩屋防衛相は、「現段階で自衛隊を有志連合に派遣することはない」と述べている。

shutterstock / Josiah_S

有志連合に関し、菅義偉官房長官は7月12日の記者会見で「状況に応じて適切に対応したい」などと述べるにとどめ、参加の打診の有無については明言を避けた。岩屋毅防衛相は16日の記者会見で、有志連合に「現段階で自衛隊を派遣することは考えていない」と述べている。だが、アメリカが開く有志連合説明会に、日本も参加予定と報じられている。

有志連合は国連決議に基づく多国籍軍とは異なり、有志の国々が平和維持活動や軍事介入を行う。過去には2003年のイラク戦争の際、アメリカが中心となってチームを組み、イギリスなどが軍事作戦に加わった。

今回は、あくまでペルシャ湾の周辺海域を航行する民間船舶の護衛が目的だが、タンカーが攻撃を受けたり、妨害されたりといった現実的な懸念が強まる中、一触即発の事態になりかねない。

国際社会、各国は今一度冷静になることが必要だ。何よりイランはウラン濃縮のカードを小出しにして危機感をあおる「瀬戸際外交」を改めねばならない。

核合意の当事国の1つであるフランスは7月10日、エマニュエル・ボヌ大統領外交顧問をイランに派遣し、イラン側は「緊張緩和と合意実行に向けたフランスの役割を歓迎する」とした。さらに英仏独の首脳は、イラン核合意から4年となる14日、共同声明を発表し、アメリカとイランに対し、「緊張を高めることをやめ、対話を再開する方策を探るときだ」と呼び掛けた。

CNNやニューヨーク・タイムズなどは再三、米イラン両国に自制を促すような報道を続けている。7月10日付のニューヨーク・タイムズは2人のノーベル平和賞受賞者、イラン人弁護士で人権活動家のシリン・エバディ氏とアメリカ人教師ジョディ・ウィリアムズ氏による記事「イランとの戦争の止め方」(Here’s How to Stop War With Iran)を掲載。「対話のときだ」と呼び掛けている。

6月に安倍首相が買って出ようとした米イランの仲介役は、タンカー攻撃という不測の事態もあり、思惑通りに果たせなかった。日本は今後、再び仲介に乗り出すのか、それとも有志連合に何らかの形で加わるのだろうか。

南龍太:東京外国語大学ペルシア語専攻卒。政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者。経済部で主にエネルギー分野を担当。現在ニューヨークで移民・外国人、エネルギー、テクノロジーなどを中心に取材。著書に『エネルギー業界大研究』。秋に「電子部品業界大研究」を出版予定。

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