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トヨタ・シャープなど「太陽電池+ハイブリッド車」が、環境問題にとって電気自動車より大事と言える理由

プリウス 実証実験 PHV

NEDO、トヨタ、シャープが発表した高効率太陽電池搭載のプラグインハイブリッド車。ベースモデルはトヨタの「プリウスPHV」。フードに太陽光パネルが見える。

提供:SHARP

7月13日、中国がハイブリッド車(HV)優遇への方針転換を検討していると国内外のメディアが報じた。HVは従来ガソリン車と同等とされてきたが、今後は低燃費車に分類される。

ヨーロッパや中国では昨今、電気自動車(EV)がもてはやされていたが、動力となる電気をどこから持ってくるのかはあまり議論されていなかった。

現在使われている自動車をすべてEVに転換してその動力を賄うには、原子力にせよ、火力にせよ大量の電力が必要で、夏場の電力ピーク時には使えなくなってしまう。日本ではクールビズやエアコンの温度調整までしてピーク対応を行っているのが現状なのに、そこにEVが高速充電の列をなすのでは理屈に合わない。

給油は数カ月に1回で済む

ソーラーパネル 太陽光

神奈川県に設置された太陽光発電パネル。

REUTERS/Issei Kato

こうした問題を解決してくれるのが、7月4日に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、トヨタ自動車、シャープが発表した、高効率太陽電池搭載のプラグインハイブリッド車(PHV)だ。

電力供給が問題になる夏場こそ太陽光が頑張ってくれるので、そのエネルギーを電池に蓄え、走行用に使うことができる。曇りがちだったり、雨が降ったりして電池が切れても、ガソリンエンジンとモーターで通常のハイブリッド運転が可能なので、ドライバーに不安はない。

そもそもそうした急場は稀で、基本的にガソリンを使うことはあまりないので、2〜3カ月に1回も給油すれば十分となる。

太陽光で十分なのでケーブル充電は基本いらない

プリウス 実証実験 PHV

高効率太陽電池搭載のプラグインハイブリッド車、背面から。バックドアに太陽光パネルが貼られている。

提供:SHARP

NEDOなどの取り組みは、現段階では、航続距離や燃費向上効果の検証を目的とした公道走行実証(7月下旬開始予定)だが、実現すれば最強のエコカーになると思われる。

実証車のベースモデルにはトヨタの「プリウスPHV」が使われているが、本当に注目すべきは車両そのものより、シャープがNEDO事業(高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発など)の一環として開発した、世界最高水準の高効率太陽光電池セル(変換効率34%以上)だ。

これまでの太陽光電池セルの変換効率は20%強であったことを考えると、きわめて画期的な技術と言える。このセルをフード(ボンネット)、ルーフ、バックドアなどに設置することで、定格発電電力を約860Wまで高めた。

これにより、走行時のバッテリーへの最大充電・給電電力量(1日当たり)は、EV航続距離で56.3キロ相当にもなるという。通勤や買い物など日常の走行距離を考えれば、太陽光だけで足りるので、基本的にケーブル経由の充電はいらないことになる

EV普及を阻むいくつもの問題

充電 ステーション スタンド

充電ポイントまでの送配電ロス、数量確保など、電気自動車(EV)が抱える問題は多い。写真は米ロサンゼルス市内にあるEV大手テスラの充電スタンド。

REUTERS/Lucy Nicholson

そもそも、EVを本当の意味で普及させるにはいくつかの課題がある。

すでに述べたように、どこから電気を持ってくるかは特に大きな問題で、火力発電は燃料が石油や天然ガスなので、二酸化炭素(CO2)を大量に排出する。さらに、発電所から充電スタンドまでの送配電ロスも発生(約5%、東京電力調べ)する。

原子力発電だとCO2は削減できるが、放射能漏れなど事故リスクが伴う。消費の少ない夜間・深夜電力を活用(=夜間に充電)すれば問題ないという意見もあるが、冒頭に書いたとおり、問題は夏場の消費電力ピーク時だ。EVの普及が電力需給を圧迫する可能性は大いにある。

他の課題として、充電時間の長さがあげられる。仮に充電時間が30分だとしても、充電スタンドで自分の前に1台並んでいるだけでも1時間は待たなくてはならない計算になる。ドライバーはこの不確実性に不安を覚えるだろう。航続距離が長い車種も登場してきてはいるが、遠距離ドライブにEVはまだ十分とは言えない。

日本の得意な技術を活用できるPHV

豊田章男

モビリティサービス(MaaS)専用の次世代自動運転車「e-Palette」を披露するトヨタ自動車の豊田章男社長。新たな分野の技術開発はもちろん重要だが、環境問題にとっては足もとの動力機構のイノベーションも無視できない。

REUTERS/Rick Wilking

実証車のベースとなったプリウスPHVには、すでにソーラー充電システム搭載モデルが存在する。ただし、走行中でもバッテリーに充電できる実証車と異なり、駐車時のみしか充電できず、EV航続距離にしてわずか6.1km相当にすぎない。定格発電電力も高効率太陽電池を搭載した実証車の約5分の1(180W)にとどまる。

それでも、システムがすでに完成されているのは強みだ。シャープの高効率太陽電池の量産化が進み、コストが下がってくれれば、実用化はぐっと近づくだろう。

自動車市場の将来は、最近、接続性(Connectivity)、自動運転(Autonomous)、共有(Shared)、電動化(Electric)という4つの領域(頭文字から「CASE」と呼ばれる)で定義されることが多い。

しかし筆者は、その根本にあるパワートレイン(動力機構)のイノベーションに、もっと注目すべきと考えている。

自動車が重量を伴うものである限り、その効率化にはエネルギーマネジメントの視点が欠かせない。そして、そこは日本が最も得意としてきた分野のひとつだ。太陽電池に関する技術でも日本はかつて世界トップクラスだったが、コスト競争(もしくは投資戦略)で他国の後塵を拝している現状がある。

自動運転やカーシェアといった新しい分野にばかり注目が集まる昨今だが、日本が引き続き自動車産業において世界のトップクラスを走り続けるために、日本の得意とする技術の粋とも言える、今回の高効率太陽光電池搭載PHVの実用化をぜひ実現してほしい。


土井正己(どい・まさみ):国際コンサルティング会社クレアブ代表取締役社長。山形大学特任教授。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業。2013年までトヨタ自動車で、主に広報、海外宣伝、海外事業体でのトップマネジメントなど経験。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年よりクレアブで、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学特任教授を兼務。

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