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中小企業が海外ビジネスに踏み出せない理由 ── カギは「ファースト1マイル」

ジェトロ藤井氏とBusiness Insider Japanの浜田統括編集長

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)デジタル貿易・新産業部部長の藤井真也氏(右)と、Business Insider Japan統括編集長の浜田敬子(左)。

人手不足、収益確保や事業継承。さらに、米中貿易摩擦の激化は中小企業にとっても見過ごせないリスクだ。中小企業が成長し続けていくために、どのような手を打つべきなのか。日本貿易振興機構(ジェトロ)にて、中小企業のECビジネス参入や新産業創出に取り組む藤井真也氏に、Business Insider Japan統括編集長・浜田敬子氏が聞いた。

縮みゆく国内市場と拡大する海外市場

ジェトロの藤井さん

藤井真也さん。独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)デジタル貿易・新産業部部長。民間企業で商品企画、グローバルマーケティングに従事した後、1999年日本貿易振興会入会。技術交流部上席課長代理、ジェトロ・ニューヨークセンター次長、対日投資部対日ビジネス課長、ジェトロ・チェンナイ事務所長、地域統括センター長(中部)・名古屋貿易情報センター長、大阪本部長などを経て、2019年より現職。

浜田敬子(以下、浜田): 少子化と高齢化がすごい勢いで進んでいます。体力のある大手企業ならまだしも、中小企業にとっては市場の縮小と人材獲得の両面で、大きな試練といってもいいと思います。藤井さんはジェトロで中小企業支援に携わっていますが、実際にどのようなことをされているのか教えてください。

藤井真也さん(以下、藤井):大きくは2つあります。まずデジタル貿易、つまりECですね。これを活用した中小企業の輸出支援です。もうひとつは世界で起こる新産業、イノベーションを日本企業のビジネスに還流し、グローバルビジネスを活性化する仕事をしています。

浜田:ジェトロにデジタル貿易の部署というのは以前からあったのですか。

藤井:EC活用による中小企業の海外ビジネスを集中的に支援する専門部隊を2018年5月に起ち上げ、部として活動を始めたのが2019年4月からです。できたてのホヤホヤですね。

浜田:中小企業でもデジタル、EC活用は必須の時代ですよね。

藤井:2021年には世界のEC市場は5兆ドルになるといわれています。これは世界の小売の17%を占めており、もはやECを抜きにして世界の小売市場は獲得できなくなります。ジェトロが行っている中小企業のアンケート調査では、デジタルやイノベーションの領域であなたのビジネスに必要なものはなにかという問いに、3、4割はECと答え最も期待・注目している技術となっています。それなのにECを自社ビジネスに取り込めているかという質問にYesと答えるのはたったの7%。大半の中小企業がECに未参入か、またはうまくいっていないのです。

浜田:多くの企業が楽天やアマゾンと取引をしているという印象ですが、まだその程度なのですね。3〜4割の企業はECに意欲があるということですが、これは海外市場もにらんでのことですか?

藤井:中小企業に限らず、すべての日本企業が市場縮小に直面しているといっていいでしょう。かたや海外を見ると、例えばインドには13億人、中国にも13億人、ASEAN諸国合計で6億人、アフリカには12億人と、日本の人口の数十倍を超える人がいるわけです。その中でも経済発展に伴い急増する富裕層と中間所得者層は、日本の商品を購入できるターゲット市場と捉えれば、答えはいわずもがなです。

浜田:マーケットを考えれば、もう出ていくしかないと……。

藤井:市場のみならず生産サプライチェーンはすでにグローバル化しています。スマートフォンもフタを開けると世界中のパーツが詰まっています。自動車産業も2007年に国内と海外の生産比率が逆転し、いまは海外での現地生産が主流です。どのような企業も海外ビジネスを抜きに考えられない状況になっていると言えるでしょう。

買い取りモデルでEC参入 「ファースト1マイル」 のハードルを下げる

Business Insider Japan統括編集長、浜田敬子

聞き手を務めたのはBusiness Insider Japan統括編集長の浜田敬子。

浜田:例えば、岩手の南部鉄瓶が中国で成功しているように、海外ビジネスはうまくいけば大きな市場を獲得するチャンスでもありますね。ECはその武器になると思いますが、うまくできている企業はわずか7%ということなのですね。

藤井:大手ECサイトに出店する場合には出店料をはじめ、数百万円単位のコストがかかるケースが多々あります。だからといって売れる保証もありません。こういった蟻地獄のようなモデルが中小企業の足かせになっています。これを解消するために取り組んでいるのが、JAPAN MALL事業と呼んでいるものです。

浜田:どんな事業ですか。詳しく聞かせてください。

藤井:海外ECサイトに商品を買い取ってもらうビジネスモデルです。買い取りという強気のオファーがうまくいくか不安でしたが、意外にスムーズに各国で提携できるECサイトが見つかりました。いずれもシェアトップではなく、自国ユーザーを増やしたい2、3番手のECサイトです。アマゾンやアリババにはない日本の商品があれば、他とは差別化できてアクセス数が増えるという判断があるのですね。中小企業から見れば、日本にいながら売買契約ができて、日本の指定の倉庫に納入するだけで、輸出ができるというメリットがあります。

ラスト1マイルではなく「ファースト1マイル」

南部鉄瓶

南部鉄瓶に限らず、世界で支持されている製品は多い。

iStock / Getty Images Plus

浜田:中小企業の海外ビジネス支援をされてきた中で、どんな支援が必要とされていると感じられていましたか。

藤井:各ECサイトでは取り扱う商品カテゴリーが決まっており、それに応じて私たちが全国から出品を希望する中小企業を募ります。さらにEC事業者を日本に呼んで大商談会を開催し、そこで買い取り契約締結までをフォローします。2018年、シンガポール、マレーシア、インドネシアでスタートし、2019年は中国や南米を含めた25の新規プロジェクトを決定、さらに拡大していく予定です。

浜田:JAPAN MALL、非常に有意義な取り組みだと思います。ここまで中小企業の海外ビジネス支援をされてきた中で、どのような支援が必要と感じられていましたか。

藤井:よくECサイトでは「ラスト1マイル」が課題と言われますが、中小企業の海外ビジネスでは、逆に「ファースト1マイル」がハードルだと思います。中小企業にも、いい商品を作っているのに魅せ方が物足りないところもあれば、それ以前に英語版の商品パンフレットやPR資料がないというレベルの企業もあります。そういった層には海外貿易に関する講座や勉強会を開催するなどのフォローもジェトロでは行っています。このようにレベル感に違いはあれ、最初の一歩を踏み出す「ファースト1マイル」のハードルを下げようという取り組みのひとつがJAPAN MALL事業です。

今のままでいることが最大のリスク

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「日本に来た留学生の7割が、日本での就職を希望するが、実際に残って就職する人は3割ほど」と藤井さんは話す。

Supachok Pichetkul / EyeEm via Getty Images

浜田:商品力をつけたり、魅せ方を工夫したりというのは、国内のビジネスにもプラスになりますね。ここまでECの話をお聞きしましたが、実際に海外に拠点を作ってビジネス展開しようというケースでは、どのような企業が成功していますか。

藤井:どんな人たちがどんな暮らしをしているのかを調査し、それに合わせた製品を作っている企業はうまくいっています。最近はサービス産業の進出も盛んですが、現地の消費者が相手の場合は、例えば食品ならハラールの問題など、各国の文化や習慣に真摯に向き合うことが大切です。これはコストがかかりますから、経営者のコミットメントがもっとも重要ですね。次に重要なのがグローバル人材。ここがボトルネックという中小企業も多いです。

浜田:グローバル人材とは、英語が話せるというだけではなく、多様な文化に対する知識なども必要ということですね。

藤井:はい、海外でのビジネス経験、生活経験を持つ人です。ジェトロではこの分野の支援もしており、高度IT人材の獲得という視点では、インド工科大学と組んで、インドのIT人材と日本のIT企業をマッチングする仕組みも作っています。

浜田:インドのIT人材は非常に優秀だと世界中の企業から引っ張りだこです。2018年、メルカリがインドのIT人材を採用したことが話題になりましたが、とてもしっかりした受け入れ体制を整えていました。

藤井:そこは非常に重要です。彼らのライフスタイルやカルチャーを理解したうえで、一緒に働く環境を経営者が作らないといけません。企業、社会での異文化理解・共生はこれから日本が取り組むべき課題でしょう。日本にはたくさんの留学生が来ていますが、卒業後も日本で働きたいという人は6割以上もいるのに、実際に残って就職できる人は3割ほどという調査結果も発表されています。

浜田:グローバル人材が必要という認識はあるのに、まだまだ企業の受け入れ体制は整っていないということですね。最後に、あらためて、ECも含めて海外ビジネスをするときの中小企業のリスクはどのようにとらえればよいでしょう。

インド・バンガロールの夜景

「インドのシリコンバレー」と呼ばれるバンガロール。インド・中国・ASEAN諸国は、日本の中小企業にとっても魅力的なマーケットだ。

Amith Nag Photography via Getty Images

藤井:一時期の中国の日本製品ボイコットのような予期し得ないリスクもありますし、政情の不安定な国では、ある日突然規制が変わるということもあります。最近は気候変動に伴う災害リスクも考えないといけないですね。カントリーリスク、ビジネスリスク、セキュリティリスクなどは頭に入れておく必要があります。

浜田:セキュリティリスクといえば、以前にこのシリーズでお話をお聞きした横浜国立大学の吉岡克成准教授によれば、海外ビジネスでは人やモノの流れが多様化することで、サイバーリスクも増大するとのことでした。これもリスクのひとつといえるかもしれません。

藤井:リスクには事前に備えておくことで被害を抑えることができます。例えばジェトロには海外市場や規制についての膨大な情報が蓄積されています。これらを活用すれば、各国に存在しうるリスクをある程度つかむことができます。近年増えているサイバーリスクについても、私たちは専門外ですが、専門家や企業などの力を借りて備えることができるのではないでしょうか。リスクも忘れずにビジネスプランに取り込み、海外ビジネスの意思決定をすることが必要です。

浜田:いくらリスクがあったとしても、海外市場にはチャレンジする価値があるということですね。

藤井:インド・中国・ASEANなどを中心に、アジアだけでも約30億人におよぶ広大なマーケットがあります。一方で海外ビジネスにはリスクもありますので、専門家の知見も活用した上でチャレンジすることが必要です。市場獲得のチャンスをつかまないと、そのマーケットも海外勢に取られてしまいます。今のままでいいだろうと何もせずにいることこそが最大のリスクなのかもしれません。

ジェトロの藤井さんと、浜田編集長

サイバーリスクへの備えに不可欠な「サイバーレジリエンス」の発想:

浜田が話すサイバーリスクとは、横浜国立大学の吉岡克成氏が指摘した内容だ。海外とのビジネスでは、情報のやりとりやその相手が多様化するため、それだけ特定が難しいもの=サイバー攻撃との接触機会が増えるというリスクを示唆している。サイバー攻撃が巧妙でかつ判別しにくくなっている今、ウィルスやマルウェアに侵入されないように防御するというだけの従来の方法論で対処することは難しい。

そんな状況下、これからの標準となりはじめたのが、攻撃を受けてウィルスやマルウェアに侵入されても、いち早くそれを検知して速やかに元の状態に復旧する「サイバーレジリエンス」の発想である。


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