6月のWWDC19で初披露されたMinecraft Earthのデモ。人が現実世界の中にあたかもMinecraftのブロックがあるかのように操作している。
出典:Apple
マイクロソフトは、現在開発中のスマートフォン用位置情報ゲーム「Minecraft Earth」のクローズドベータテスト(人数を限定したテスト)を近日中にスタートし、アプリケーションのダウンロードを開始する。
位置情報ゲームといえば、「イングレス」「ポケモンGO」「ハリー・ポッター:魔法同盟」といった作品を次々に生み出すナイアンティックが市場を寡占しているが、マイクロソフトは、同社が持つゲーム資産の中でも最も幅広い層に支持された作品である「Minecraft」を使って、この市場に打って出る。
一部プレス向けの先行レビューから、新たなARゲームとしての可能性と、マイクロソフトのAR戦略を探ってみよう。
大ヒットゲーム「Minecraft」がARに
筆者が自分のiOSデバイスにインストールしたクローズドベータ版でのデモ。かなりよく動くことがわかる。
Minecraftは通称「サンドボックス(砂場)型」と呼ばれるゲームの草分けで、日本を含む全世界で有料版が1億7600万本超(全プラットフォーム合計)という大ヒットを飛ばした。
四角いブロックで構成された世界の中で、岩や木などのブロックを組み合わせ、自由に家や地形を作って楽しめる。ブロック状の見た目だが、生き物がいて、火や水の物理現象がおおまかに再現されており、電気のような役割を果たす「レッドストーン」という素材を使うと、コンピューターのような論理回路を作ることすらできる。
戦い、生き残るといった要素もあるが、それ以上に、「ゲームの中であらゆるものを作って楽しめる」ことが支持された。PCからスマートフォン、家庭用ゲーム機まであらゆるプラットフォームに提供されたこと、YouTubeなどでの「ゲームプレイ動画」の広がりと同期して人気が拡大したことなどから、幅広い年齢層にヒットしたゲームだ。創造性が高く教育効果の高さも認められており、2016年には「教育市場版」も提供された。
簡単にいえばMinecraft Earthは、このMinecraftを画面の中でなく「実世界」で楽しめるようにすることを目的としたゲームだ。スマホで遊べるが、既存のスマホ版Minecraftとは異なる。
マイクロソフトが公開したトレイラー映像の中では、Minecraftのブロックが街中に配置される様子が描かれている。ただ、これはあくまで「イメージ」であり、実際のゲームとは異なっている部分が多い。
街で素材を集め、実際の空間で組み立てる
早速実際に遊んでみよう。ただし、クローズドベータテスト版は、本来のリリース版と異なり、遊べる要素がかなり限定されている。
本当に基本的な3つの要素だけが提供されている、と思っていい。だから、ゲームとしての面白さなどについては、あえて評価しない。
Minecraft Earthを立ち上げると、スマホの画面には、ブロックで構成された「地図」が表示される。これは実際に自分がいる場所の地図を元に、ブロックに置き換えた表示だ。
Minecraft Earthの基本画面。自分がいる地域の地図が「ブロック化」されて現れる。
そして、地面には大きな木や岩、生き物に宝箱などの「大きなブロック」もある。この大きなブロックは、Minecraft Earthの中では「タッパブル」と呼ばれている。
自分とタッパブルの距離が一定範囲内になると、タッパブルには黄色い枠線ができる。これが「タップ可能になった」印だ。タッパブルを指で連打すると、タッパブルの種類に合わせたブロックが手に入る。時にはニワトリや牛などの生き物が手に入ることもある。
大きな素材ブロックが「タッパブル」。自分の近くに来て黄色い枠線が出たら「タップ」。
タップすると、タッパブルの中から素材が飛び出す。
街を歩いてタッパブルを見つけ、そこから素材を集めるのが第1段階だ。
街を歩き、素材や生き物などを集めていく。
素材が集まったら「建設台」に向かう。これは、Minecraftの醍醐味である「ものづくり」を実際の空間で行うための仕組みだ。
建設台は複数用意されていて、レベルが上がるほど複雑で大規模なものが使えるようになっている。「実際の空間で」平らな場所を探し、そこに建設台を置いてみよう。
小さな作業台を平らな場所に出し、ブロックを積んで好きな地形を作っていく。
スマホに映る現実空間に、小さな建設台が表示される。ここに、集めた素材を積み上げたり、元々の建設台にある地形を掘り下げたりして、好きな地形を作っていく。使えるブロックは、街でタッパブルから集めたものと、建設台から入手したもの。自由に作るにはたくさん歩いて素材ブロックを集め、経験値を貯めてレベルを上げ、上位の建設台を使う必要がある。
普通のMinecraftと違うのは、スマホの画面越しに「自分が動きながら角度を変え、ブロックを積んでいく」ことだ。床や机の上でレゴブロックを作る時の感覚に似ている。現実にはないのに、スマホ越しの空間には作業台がある。
この感覚がARだ。
もちろんそれだけでは終わらない。満足いく建築物が出来上がったら、今度はそれを「実物大」で置いてみよう。先ほどの作業中は小さなスケールだったが、実物大で置くにはそれなりの広さが必要になる。
本来は木など生えておらず、池もない場所に、「Minecraftのブロックによる」木や池が生まれるのは面白い。しかも、水やそこにいる生き物、炎などは実際に「そこにある」ように働く。自分が水辺に近づけば水の音が聞こえてきて、低い方へと水が流れているのも分かる。足を踏み込めば、チャプチャプと水が跳ねる音も聞こえてくる。
実物大の建設物を配置。本当はなにもない平らな場所に、大きな木や池が現れる。もちろん、好きに周囲を歩き回れる。
実世界で集めたブロックで、実世界空間に「好きな建設物や地形を作る」のが、Minecraft Earthのもっとも基本的な楽しみ方だ。しかもこの空間には、他人を招待することもできる。友人といっしょに自分が作った地形の中を歩くことができるのだ。ただし、スマホやタブレット越しでないと見えないが。
高度なAR体験をスマホだけで実現、「ARで作業する未来」が想像できるアプリに
出典:マイクロソフト
まだクローズドベータとはいえ、Minecraft EarthのこれだけしっかりとしたAR体験を、スマートフォンの中で組み立てている点は驚きに値する。
ゲームのプレイには、マイクロソフトのゲーム用サービスである「Xbox ID」の取得が必要だ。一方Xbox IDを使うことで、複数の機器を使い分け、同じデータで遊べるようになっている。日々のタッパブル集めはスマホで行い、休日に建物を作って遊ぶ時には、画面の大きなタブレットを使って作業する……という楽しみ方もできる。
ただし、先述のとおりクローズドベータテスト版は、予定されているすべての機能が搭載されたバージョンではなさそうだ。存在することが明言されている「戦いや冒険」の要素が見当たらず、ゲームとしては、いまひとつ盛り上がりに欠ける。「作業台」のエリアが意外と狭く、トレイラービデオのように「実世界全体をMinecraftにする」印象とはちょっと違う。
世界最大規模のゲーム展示会「E3 2019」での多人数デモの様子。
とはいえ、今はあくまで開発途上であり、現在のバージョンで真価を問うのは時期尚早だ。「人とAR空間を共有する」「一緒に現実世界の中でものを作って遊ぶ」という、他の位置情報ゲームとは違う、ARゲームとしての特性こそがマイクロソフトの狙いなのだろう。
実はこのゲームでは、マイクロソフトが「AR基盤開発用クラウドサービス」として広く提供を予定している「Spatial Anchors」という技術を活用している。ゲームに限らず、AR空間を複数人で共有するソフトを開発する際のテストケースとして、これほど良いサンプルはない。
会議やCADなどで「一緒にARを見ながらモノを作る」ことができれば、そこには大きな可能性が生まれる。Minecraft Earthはゲームだが、そういう未来の可能性を見せてくれている。
(文、写真・西田宗千佳)