トランプ米大統領が7月14日午前(米東部時間)、「進歩的な民主党の女性下院議員ら」に対し、国に「帰って、もといた国を良くしたらどうか」と発信したツイートが、「人種差別だ」と大きな問題になっている。
左からプレスリー議員、オマール議員、オカシオコルテス議員、タリーブ議員。タリーブ氏はトランプ大統領を「大統領として完全に大失敗な無法者」と批判した。
REUTERS/Erin Scott
新聞紙面のオピニオン欄やテレビの識者談話では、「偏見主義の最高幹部」(ロサンゼルス・タイムズ)、「骨まで人種差別主義」(ニューヨーク・タイムズ)、「人種差別主義の暴言」(CNN)などという厳しい言葉が連日並んでいる。
トランプ氏は7月14日朝、3本のツイートで、突然女性下院議員らを批判し始めた。
「『進歩的』な民主党の女性下院議員らは、政府が本当に完全にひどいことになっている国からもともと来たのに、世界で最悪で、最も腐敗して、ほかの何処よりも無能な政府(機能している政府があればのことだが)の国から来たのに、それが今や、世界で最も偉大で最強のアメリカ合衆国の人々に、政府に、ああしろこうしろと大声でけなしているなんて、実に興味深い」
「もといた場所(訳注:国)へ帰って、完全に崩壊して、犯罪まみれの地元を直す手助けをしたらどうだ。それをやってから戻ってきて、その方法を教えたら」
「そういう場所は、皆さんの助けがぜひ必要だ。とにかく、さっさと行ってもらいたい。ナンシー・ペロシ(注:民主党下院議長)は喜んで、旅費をただにする算段をすぐにしてくれるはずだ!」
ターゲットにされた4人の女性議員
トランプ氏はこのとき名指しこそ避けているが、ターゲットにされた女性議員は次の4人だ。
- アレクサンドリア・オカシオコルテス議員(ニューヨーク州選出)
- ラシーダ・タリーブ議員(中西部ミシガン州選出)
- アヤナ・プレスリー議員(東部マサチューセッツ州選出)
- イルハン・オマール議員(中西部ミネソタ州選出)
4人のうちオカシオコルテス、タリーブ、プレスリーの3議員はアメリカ生まれだが、それぞれヒスパニック系、パレスチナ系、アフリカ系と非白人系だ(women of color)。最年少下院議員のオカシオコルテス氏はニューヨーク・ブロンクスに生まれ、トランプ氏が生まれたニューヨーク・クィーンズの病院から20キロと離れていない所の出身という。タリーブ、プレスリー両氏は移民3世だ。
オマール議員はソマリアで生まれ、12歳で家族と共にアメリカに難民として亡命した。
4人の女性議員は民主党内でもより「進歩的」で、トランプ氏批判の急先鋒。しばしば民主党内の穏健派とも対立する。
「go back」と言われた経験をシェア
トランプ氏は、排外主義者らがよく使う「Go back to your country」という決まり文句を女性議員らに使った。
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トランプ氏のツイートが「人種差別主義」とされたのは、想定された女性議員らが全員、非白人だったばかりではない。「帰る(go back)」という言葉だ。トランプ氏は「彼女らが来た場所へ(places from which they came)」と、米国民であるにもかかわらず、新たに海外から来た移民であるかのように決めつけている。
非白人の移民などに対し、白人至上主義者や排外主義者らが「Go back to your country(国へ帰れ)」というのは、決まり文句となっている。そのフレーズをトランプ氏は、被選挙権がある国民であり、さらに国民に選挙で選ばれた女性議員らに対して使った。
ニューヨーカー誌は、「places from which they came」へ「go back」と呟くのは、
「ステレオタイプで、低いレベルで共通している人種差別主義」
と断じた。
Twitterでは、「go back」という決まり文句を言われた苦い体験をシェアする人々が表れ、ニューヨーク・タイムズは読者からの体験談を集めた。
「もといたところに帰れ(と、生まれてからずっと言われてきた)」(移民2世のビクター・ホアン氏)
メディアが使った「racist」という言葉
今回は「racist」と強い言葉を使って批判した米メディア。
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米紙ワシントン・ポストのメディア・アナリスト、マーガレット・サリバン氏はコラムで、アメリカのメディアがこれまでトランプ氏に対して使わなかった「racist」(人種差別主義者)という言葉をあえて使ったことも正当化されると主張する。
「(用語に)慎重になるということで重要なのは、正確で、クリアにズバリと言うということだ。人種差別主義と嘘に直面した場合、中立性や公平性という名の下にスルーしたり隠したりすることはできない。そんなことをしたら、義務の放棄になる」
ニューヨーク・タイムズの解説記事は、ビル・クリントン元大統領時代からホワイトハウス担当記者のピーター・ベイカー氏によるもので、「人種差別主義(racist)」という言葉を使わずに、的確な分析を加えた。
「人種(race)という問題については、トランプ氏は過去100年のどの大統領にも増して、火遊びをしている(=危険な遊びをしている)。現代の大統領は一人として、トランプ氏ほどあからさまに、しつこく、しきりに(この問題の)炎をあおったことはない」
アメリカの新聞は、報道と論説・オピニオンが切り離されているため、新聞としての“主張”でもある論説は、さらに厳しい言葉を使っていた。
ロサンゼルス・タイムズの論説のタイトルは「トランプは、偏見主義の最高幹部」。「非常に不快な」「最低な」といった強い言葉を使って大統領を非難した。
ニューヨーク・タイムズの国際ジャーナリストでコラムニストのニコラス・クリストフ氏は、トランプ氏がニューヨークの不動産王だった頃から、アフリカ系の住人らを入居させないなどの行為を繰り返しており、「骨まで人種差別主義者だ」とコラムで書いた。
トランプ氏は7月15日にも、女性議員らは「アメリカを憎んでいる」「この国に文句ばかり言っているなら出て行ってかまわない」などと主張。このため米下院は7月16日、異例の速さでトランプ氏を叱責する決議を可決した。現職大統領を批判する決議は、下院としては過去100年余りで初となる。
決議では、
「大統領の人種差別的コメントは、新たに米国民になる人々と非白人に対する恐怖と嫌悪を正当化し、煽るものだ」
と糾弾。共和党議員は決議文で、大統領のコメントに対して「人種差別的」という言葉を使うのは、建国時に書かれた下院のルールに反すると反対したが、4人の共和党議員も文案に賛成し、可決された。
(文・津山恵子)