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「スピード違反」の米株高、そろそろ息切れ?東京市場にも漂い始めた暗雲

ニューヨーク証券取引所のフロアで働くトレーダー。

史上最高値を更新したばかりの米株価に、息切れの兆しが見えてきた。

REUTERS/Brendan McDermid

NYダウが史上初めて2万7000ドルを超えるなど、アメリカ株は順調に値上がりしたが、そろそろ息切れしそうだ。米企業の業績見通しが悪化傾向にもかかわらず、株価上昇はやや「スピード違反」だった。

円高も逆風となり、アメリカ市場の影響を受けやすい日経平均株価は7月18日、一時的に2万1000円を割った。今後の展開は?

株価上昇を支えた2つの要因

FRBのパウエル議長。

最近の米株高の主な要因の一つが、パウエル議長率いる米連邦準備制度理事会(FRB)が7月末に利下げするという見通しが強まったことだった。

REUTERS/Kevin Lamarque

7月上旬、NYダウなどアメリカの主要な株価指数がそろって史上最高値を更新した【図表1】。

6月末の20カ国・地域首脳会議(G20)に合わせて開催された米中首脳会談で、「貿易協議を再開する」と合意したため市場心理が改善したこともあるが、株価上昇の主な要因は次の2点だろう。

(1)米連邦準備制度理事会(FRB)が7月末に政策金利を引き下げる(景気拡大を維持するため「予防的利下げ」を実施する)見通しが強まった。

(2)アメリカ企業の予想EPS(1株あたり予想利益)が増加傾向にある。

(2)については、【図表2】の通り、アメリカの主要500社(S&P500ベース)の予想EPSは、2018年暮れから2019年1月にかけて世界的な景気減速懸念などで大きく減少したが、2月以降は上昇に転じ、直近では2018年10月の株価急落前の水準を上回った。これがアメリカ市場での株高を支えてきた。

米企業の業績悪化の懸念が急浮上

米中首脳会談。

6月29日に開かれた米中首脳会談。両国の貿易戦争の行方は楽観できず、米企業の予想以上の業績悪化につながるおそれもある。

REUTERS/Kevin Lamarque

一方、「米企業の業績は悪化する」との見方が急速に広がっている。

7月中旬から決算発表が本格化した主要500社の2019年4~6月期の純利益は、前年同期比で2.3%の減益が予想されている。

この予想は日々更新されるが、7月以降、日を追うごとに悪化する傾向にあり、このままいけば2四半期連続の減益は確実だ【図表3】。7~9月期、10~12月期の見通しも下がっており、業績の先行きへの警戒感が意識されやすい。

米企業の業績が悪化する見通しにもかかわらず、EPSが増加傾向というのは、ちぐはぐな関係に思えるだろう。

もちろんカラクリがある。自社株買いだ。主要500社が実施した自社株買いの金額は、2018年後半以降も高水準が続いている。

企業が自社株買いを実施すると、「発行済み株式数が減った」とみなされるため、利益水準が変わらなくても計算上はEPSが増える。つまり、大規模な自社株買いがEPSの増加を通じて米株上昇を演出した面もある。

しかし、米中貿易摩擦や世界景気の減速に対する懸念は今もくすぶっており、先行きは楽観できない。

仮に業績が予想以上に悪化することがあれば、自社株買いの規模縮小を余儀なくされることも考えられる。その場合、業績悪化に加え、EPSの伸びの鈍化も意識され、米株にはダブルパンチとなりかねない。

もともと「割高」だったアメリカ株

自社株買いの影響もあってEPSが増加したとはいえ、最近の米株上昇はやや「スピード違反」だった。

株価の割高/割安をみるPER(株価収益率=株価がEPSの何倍になっているかを示す)は17.2倍まで上昇した【図表4】。

これは、2018年10月や2019年5月に米株が急落する直前の水準を超えており、いつ米株価の調整局面が訪れてもおかしくない状況だ。

詳しい説明は省略するが、教科書的には、FRBの利下げによって米金利が低下すれば高いPERは許容される。しかし、現実は教科書通りとは限らない。FRBが前回、予防的利下げを実施した1998年は、利下げの初期段階ではPERが下がった。

最終的に1999年~2000年のITバブルに突き進んだ点は教科書通りともいえるが、予防的利下げの初期段階では、利下げによる効果よりも企業業績の悪化の方が強く意識されやすいためと考えられる。

日本企業の四半期決算発表に注目

株価ボード。

アメリカ市場の影響を受けやすい日本の株価の先行きにも、黄信号が灯っている。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

1998年は予防的利下げの初期段階でPERが0.6倍ほど下がった。経済状態やPERの水準が異なるものの、現在のダウに単純に当てはめると800~1000ドル下落する計算だ。

仮に米株価が急落すれば、海外投資家の売買が多くアメリカ市場の影響を受けやすい日本株も無傷ではいられない。7月18日の取引時間中には、日経平均が1カ月ぶりに2万1000円台を割る場面もあった。

翌19日の日経平均は反発したが、先行きは楽観できない。7月下旬から日本企業の4~6月期決算発表も本格化する。先行して発表した安川電機(3~5月期)は中国向け輸出の落ち込みが鮮明なほか、工業用品を手がけるNOKは2019年度通期の見通しを引き下げた。

米中関係の改善が一向に見られない中で同じようなケースが相次ぐことも予想され、市場では日本企業の業績に対する警戒感も高まりそうだ。当面の日経平均は2万1000円を挟んだ一進一退が続くだろう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


井出真吾:東京工業大学卒業後、日本生命保険に入社。1999年からニッセイ基礎研究所に出向、2015年からチーフ株式ストラテジスト。

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