様々な分野のサービスをローンチしているLINE。そのコアとなるサービスは、今も昔も「メッセンジャー」だが、その形態は大きく変わろうとしている。
撮影:小林優多郎
国内月間アクティブユーザー数8000万人(3月末時点)を有し、「日本のスマホユーザーのほとんどが使っている」と言っても過言ではないメッセージアプリ「LINE」。
同社は、6月27日には毎年恒例の事業戦略発表会「LINE CONFERENCE 2019」を開催し、スコアリングサービスの「LINE Score」やB2BのAI事業「LINE BRAIN」などを発表した。
新事業としてはLINE Scoreが注目を集めるが、友だち以外ともグループが作れる「OpenChat」など、同社の最大の強みであるメッセージングアプリとしてのLINEにも、大きな機能追加がある旨も発表された。
LINEの上級執行役員を務める稲垣あゆみ氏。
撮影:今村拓馬
今まで「友だち」というつながりを重視してきたLINEが、なぜ「他人」とのつながりの機能をリリースするのか。また、さまざまな新サービスのリリースに伴い、肥大化が進むLINEアプリを今後どのように開発していくのか。
同社の上級執行役員を務め、LINEの生みの親とも知られている稲垣あゆみ氏に話を聞いた。
今までのLINEの常識を覆す新機能「OpenChat」
友だち以外を招待できるグループチャット機能「OpenChat」。
出典:LINE
LINEサービスの肝はなんといっても「家族や友人、知人とつながっている」ところだ。
例えば、フェイスブックの「Messenger」やツイッターの「ダイレクトメッセージ」機能なども幅広く使われているものではあるが、LINEを使い続けている多くの人の理由は「周りの人たちが使っているから」だろう。
前述のとおり、LINEの「OpenChat」は、友人・知人を問わず好きなアイドルやゲームを語る場、バイト先の従業員同士、学校の父母会など「友だちではないグループ」単位で書き込めるグループチャット機能だ。ユーザーの招待や削除を行う管理者機能も備えるなど、従来のグループとはまったく異なる仕組みとなっている。
OpenChatは、実際の団体やグループでなくても、趣味などの共通のテーマでつながることができる。
なぜ、方針転換とも思える「友だち以外とつながる機能」を提供するのか。稲垣氏は「LINEの大事さのようなものが薄れるのでは、という感覚は強くあった」としながらも、OpenChat立案の経緯を以下のように語った。
「(友だち以外とつながる)掲示板のような機能は、社内でも何回も上がっては消えている話だった。実際、私も5年ぐらい前には『ない』と言っている立場だった。
いわゆるコミュニティーサービスとして『LINE SQUARE』を、2017年8月にインドネシアからはじめ、タイでも展開しているが、日本への導入は慎重に考えていこうという話をしていた。
2019年1月に産休から戻ってきて、この話が再浮上したが、個人的にも母親になって生活環境も変わったからか、社会的にLINEの立場が変わってきたと感じていた。
サービス開始当初より高齢の方へのリーチも増え、日常でLINE上で構築されたLINEやサードパーティーが提供するサービスとの関係性が増えてきていた。
そこで、LINEの限界を感じていた。それは、クローズドとパーソナルなコミュニティーでしか、LINEは活躍できていないんじゃないか、という点。
これを解決するため、やるからにはユーザーがどういう風にオープンなコミュニケーションツールを使うのか、判断しようということになった」
マルチプロフィールのヒントはSNSの“裏アカ”
そのコミュニティーにおいて、表現したい自分自身がある。
OpenChatは2019年夏に開始を予定しているが、事前に募集した限られた一般ユーザーに対し、先行体験を実施する予定だ。
そのため、詳細な機能についてはいまだに決まり切っていない部分も多い。しかし、LINE CONFERENCE 2019でも触れられたマルチプロフィール機能はOpenChatの軸となる機能で、稲垣氏もイチオシのものだという。
「日頃、ユーザーへのヒアリングを行っていると、オープン系のSNSであるツイッターやインスタグラムでは、メインとは別のアカウント(別アカ、裏アカ)を持っているというユーザーが多かった。
(現状のクローズドな)LINEのソーシャルグラフを変えるにはどうすればいいのか。プロフィールやアカウントレベルで変えるのか議論になった。
結論としては、LINEのアカウント自体は、すでにサービスの軸として活用されている。それを切り替えてメッセージを送りたいとは思わないのではないか、ということになった。
そのため、今回のOpenChatではチャットルーム毎にプロフィールを設定するマルチプロフィール機能を採用した。
一般的なオープン系のSNSと同様に、そのソーシャルグラフ上の自分の役割や用途などに応じて、プロフィールを切り替えられる」
肥大化するLINEはユーザーとどう向き合う?
LINEは、24時間365日LINEが生活に関わる「Life on LINE」構想を発表した。
LINE CONFERENCEでは毎年、同社の1年間の運営方針とも言えるCONFERENCEのテーマが発表される。2019年は「Life on LINE」だった。
稲垣氏の説明によって、OpenChatが同社が目指す“生活に密着するLINE”に欠かせない要素であることはわかったが、一方で大きな課題にも直面している。
それは、LINE自体の肥大化だ。LINEは2019年に入ってからもテイクアウトサービス「LINEポケオ」やグルメレビューアプリ「LINE CONOMI」、そして「LINE Score」などを新たにスタートしている。しかも、今後も検索機能の「LINE SEARCH」や証券サービスの「LINE証券」など、続々と増えていく見込みだ。
そうなってくると、ユーザーはもはやどのサービスがLINEで提供されているのか。また、使いたいサービスにどのようにアクセスすればいいのか、わからなくなってくる。
2019年5月にアップデートされた「ホームタブ」。
出典:LINE
実際、LINEは増加するサービスに対応するため、5月にLINEのトップ画面とも言える「友だちタブ」のデザインと機能を一新。「ホームタブ」へとリニューアルし、LINEサービスへの導線を確保した。
しかし、一定のユーザー数を抱える人気アプリにありがちなことだが、アップデートを好まないユーザーも出てくる。SNSなどでは、以前の外観・機能に戻してほしいという声も少なからずある。
これに対し、稲垣氏はLINEアプリの企画を統括する身として、「悩みどころであり、常に最大のトピック」と語る。
「(外観や機能などは)LINE全体の経営戦略などを考えると、LINE本体としてのプラットフォーム側だけの都合で決められない話でもある。
各LINEファミリーサービスがどのような経済的なインパクトを発生させられるか。それをユーザーがどのようにフォローできているのか、常にテストを繰り返している」
広告用途以外でも大きな意味を持つとみられている「スマートチャンネル」。
また、ユーザーへの提示機能の中で、稲垣氏が期待を寄せているのが、2019年初頭から展開された「スマートチャンネル」だ。
スマートチャンネルはLINEの一等地である「トークタブ」の1番上に現れる表示領域で、広告に加えニュースや占い、天気、マンガなどのLINE内コンテンツがパーソナライズされて表示される。
稲垣氏はスマートチャンネルのような「ユーザーがほしい情報を出す、という方向性を2年前ぐらいから実施している」と語っており、今後も同様の方法で利便性を確保していく方針。「(全体の使い勝手は)2019年内を目処にリニューアルしたい」と話している。
あらゆるコミュニケーションが“チャット”になる
多くのコミュニケーションが、今後もチャット化していくと語る稲垣氏。
撮影:今村拓馬
最後に、稲垣氏にLINEの生みの親として、LINE誕生から今までと、これから目指すLINEの姿について聞いた。
「正直、自分が『LINEの生みの親』とは思っていない。チームのメンバーとずっと並走し続けている。
今後、LINEは友だちと話すだけの存在ではなく、コミュニケーションを必要とするあらゆるものをLINEに変えていきたい。
情報の集め方もきっと変わってくる。ニュースのようなものもフィードやチャット寄りになってくるだろう。
最初はメッセンジャーアプリとして生まれたが、現在ではプラットフォームとしての仕事が多くなってきた。サービスも増えたり減ったりしているが、今後5年間も同様に増減を繰り返すだろう。シンプルに、ユーザーがついてきてくれたものは残し、そうでないものはやめていくからだ」
国内のコミュニケーションのほとんどを握ろうとするLINEが、今後名実ともに生活に必須な“インフラ”としてさらに一歩、活動の場を広げるのか。今後も目が離せない。
(文・小林優多郎、撮影・今村拓馬、小林優多郎)