参院選の投開票が明日に迫っている。マスコミ各社の報道を見ると、内閣支持率や自民党支持率を支えている1つの要因は若年層だ。
深い意味は無いけど“与党”
自民党の丸川珠代議員は「タピオカのプラごみのポイ捨てや容器の不統一」を「政治が解決すべき点」としてTwitterで発信した(写真はイメージです)。
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「政治については正直、興味ないです。『選挙には行く』くらいのリテラシー。投票先ですか? いつも与党です。別に深い意味はないんですけど。
いつでもその瞬間のベターな選択ができる人生が理想ですね。たとえば400円と600円のタピオカが並んでる。で、600円の方が飲みたいときに躊躇せずに買えたら、それで満足なんです」
そう話すのは、東京近郊でメーカーに勤務するAさん(26)だ。年収は額面で420万円。月の残業時間は27時間ほどで、「ホワイト企業」だと自認する。「仕事は人生の一部でしかない」(Aさん)と言い、平日は仕事終わりに友人や恋人と食事を取るなど会社と家の往復にならないように意識し、休日は趣味の運動に没頭している。
「年金は社会への寄付」
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充実した日々の中で、政治や社会問題について恋人や友人と話すことはほとんどないそうだ。理由を尋ねると、「暮らしに困っていないから」と一言。
「一番身近な政治って社会保障だと思うんですけど、もういつ諦めるかという話ですよね。だって人口は減っていくばかりですし。年金は会社を通じて社会に寄付してる感覚です。どうせ戻ってこないので。将来のことを考えてそろそろ貯金しようかなと考えてます。
冷たい言い方に聞こえるかもしれないですけど、自分さえよければそれでいい。もちろん手の届く範囲で人に親切にしたいとは思ってます。電車でお年寄りがいたら席を譲ったり。でもそこから一歩踏み出してまで何かをしようとは思いません」(Aさん)
「省エネで生きていきたい」
安倍政権を支持する理由として「高い内定率」など就活売り手市場をあげる若者も多い(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
実家は自営業。社長である父親は自分とは正反対の「とがったタイプ」(Aさん)で、同じことはできないと幼い頃から思っていた。跡を継ぐよう言われた記憶もない。
学費は両親が出したため、奨学金は利用せずに済んだ。仕事で必要になり自家用車をローンで購入し返済中だが、会社の寮暮らしで家賃が低く抑えられているため、ローンの負担は感じていないという。
国立大学を卒業し、現在の会社に就職して3年目だ。
「就活は準大手の企業を狙いました。最大手は就活も入社後も『オレがオレが』とのし上がっていかないといけないのがつらそうで」(Aさん)
撮影:今村拓馬
Aさんの「準大手企業」の定義は「従業員は数千人、売り上げ高は数千億」規模。この基準に当てはまる会社ばかりを受け、4社から内定をもらった。現在のメーカーに決めたのは、「潰されがち」な営業職を新入社員のうちに義務づけられていないこと、そして経営の安定性だ。
「仕事は楽しいし満足してます。でも決して好きではないですね。根が自堕落なので、働かずにすむのなら、そうしたい。エンジン全開で頑張るより省エネで生きていたいんです。“準”がついても大手にこだわったのは、大手企業は昇進・昇給のペースがある程度決められていて、自分で野望を持って勝ち取りにいく必要がないから。
目の前の仕事をこなしていけば結果がついてくる安心感は、省エネ人生に欠かせません」(Aさん)
実業家の堀江貴文さんやZOZO創業者・社長の前澤友作さん、やはりZOZOで働き自身のオンラインサロンも持つ田端信太郎さんなど著名なビジネスパーソンには「畏怖の念を抱いてます。あんなにパワーを出せるのがすごい」(Aさん)という。
「普通」でいることが難しい
撮影:今村拓馬
Aさんが「二番手」「省エネ」をモットーに生きるようなったのは、高校受験がきっかけだ。
塾の講師から第一志望校を「危ない」と言われ、ランクを1つ下げて受験した。しかしいざ試験が終わると、もともと目指していた第一志望校にも合格する点数だったという。以来、常に自分の中で「ここまで頑張ればOK」というラインを設け、パワーを調整するようにしてきた。
しかし今、その価値観が揺れている。
「会社の肩書きをはずして何が残るか考えたら、何もないんですよ。安定している一方で、何者にもなれないんじゃないかという恐怖があります。かといって転職や起業は気が重い。
学生時代は努力と正比例する結果を得てきて、挫折したことがないんです。ずっと『普通』というレールに乗ってきた。でもこれって自分の努力よりも、環境によるものが大きいと思うんですよね。貧困や病気など『普通』でいられない人がたくさんいることは知ってます。『普通』でいることがどれだけ難しいか、よく分かってるつもりです。
だからあえて自分の意思でそれを外れてまで何かをするという覚悟が、なかなかできないんです」(Aさん)
今後の人生を考えると、失敗のリスクを取ってでも思い切って挑戦することが必要だとは思うが、失敗して「普通」のレールから外れたとき、再び立ち上がるパワーを出せるか不安もあるという。
Aさんが政治に関心がないのは、こうした日常の中で「『普通』というレールから外れた人のことを考えることがない。なぜなら関わることもないから」だと言う。そして「僕みたいな人間がマジョリティだと思いますよ」とも言い切る。
これまでデモやクラウドファンディングに参加したことはない。ニュースは無料登録している新聞のメールマガジンとTwitterのトレンドを時々チェックするが、それ以上時間をかけて読む必要性は感じていないそうだ。
積立NISAやiDeCoは政府からのメッセージ
2017年衆院選時の安倍首相の最終日の演説。自民党の“聖地”とも言われる秋葉原で、日の丸を振る参加者たち。
撮影:竹下郁子
今回の参院選前には金融庁の「老後資金2000万円」報告書が話題になったが、その後選挙の大きな争点になっているとは言えない。
東京都内のIT企業で働く男性(31)は、「そんなの分かっていたこと。積立NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)のような節税制度が登場したこと自体、『自分でできることをやってね』という政府からのメッセージでしょう」と話す。
男性の年収は1000万円。積立NISAもiDeCoも、制度ができたときから利用してきた。選挙は「投票したい党が特に無いので、結局いつも自民党」だそう。
Businness Insider Japanの「20代のお金の悩みアンケート」(2019年6月24日〜)には、年金について「正直仕組みがわかっていない」(20-24歳、男性、製造業)「そもそも年金は掛け捨て保険だと考えている」(20-24歳、女性、学術研究/専門・技術サービス業)という声が複数届いた。
「普通」というレールの行き着く先はどこなのか。参院選の投開票は21日だ。
(文・竹下郁子)