元六本木DJ社長率いる、売上3倍増のアパレル店舗急成長アプリ

小野里社長

巨大な大手か、メジャーな老舗しか残らなかったら、アパレルは面白いだろうか。

撮影:岡田清孝

eコマース(EC)化の影響で百貨店などリアル店舗不振などが続き、長らく低迷するアパレル業界で今、もっとも注目を集めている、テックサービスがある。

販売スタッフが、どの店舗にいても全国の顧客に、オンライン上で接客・販売できるアプリ「STAFF START」だ。

オンワードホールディングスやベイクルーズなど大手アパレルが軒並み導入し、年間の売上高は、前年比3倍の200億円超を達成。各ブランドの自社サイトの売り上げのうち、STAFF START経由が平均4割を超えるという驚きの事態となっている。

アパレル業界は依然として店舗での売り上げが9割。「STAFF START」を運営するバニッシュ・スタンダード社長の小野里寧晃(36)は、「店舗がなくなる時は、アパレルが終わる時」と言い切る。

憧れよりも等身大が売る時代

codede

気に入った店舗スタッフのコーディネートから、洋服が購入できる。これが店舗も活性化させている。

提供:アダストリア

横顔社長

全身黒のコーディネートの小野里。スタッフの個人ページを詳細に分析し、買う側、売る側の真理を読み解いている。

「売れる人というのは、あこがれよりも、圧倒的に好感度と共感です。モデル並みの容姿や異性ウケよりも、友達になれそうだな。自分も頑張ってキレイにしたら、近づけるな。というくらいが一番、売っています」

東京・六本木のオフィスを訪ねると、小野里は、STAFF START上で販売スタッフが投稿するコーディネート画面を見せながら、「オンラインで売れるスタッフの特徴」を、そう説明する。

STAFF STARTは、導入したアパレルブランドの店舗スタッフに個人ページを提供。そこでの投稿は、自社サイトやインスタグラムと連動して、それぞれに同時投稿される。

店舗で扱う洋服のコーディネートはもちろん、旅行先やカフェ、最近の買い物といった日常の“フォトカタログ”から、スタッフ個人の「センス」を味わえる仕掛けだ。

「アパレルブランドの自社サイトは、外国人モデルが着ていたりする。でも、等身大のスタッフのコーディネートの方が売れるんです」(小野里)。

売れる投稿の可視化がモチベーションに

インスタ

STAFFSTARTはインスタグラムとも連動し、数万人のフォロワーを抱える店舗スタッフが続々生まれている。

提供:パル

個人ページなど、STAFF START経由でオンライン購入された洋服は、そのスタッフの売り上げ、つまり在籍する店舗の評価につながる立て付けにしている。これにより「ECで売ることが店舗の活性化になる」という、新たな流れを生んでいる。

さらに、どの投稿からいくら売れたかが、全て可視化されるため「どんな投稿をすれば売り上げが伸びるか」は、店舗スタッフにより自然に学習されていく。STAFF START経由の売り上げは企業ごとに全国ランキングも公表され、モチベーションにもなる。

その結果、コーディネートを通じて、月間3400万円を売り上げるスタッフも登場。2016年のサービス開始から、650ブランドが導入し、2018年5月〜2019年4月で、STAFF START経由の売り上げ総額は、前年同期比の3倍に相当する200億円を達成している

小野里は「すでに、新たな人気ブランド、駅ビルやファッションビルも導入を決めており、今期は300億円」と見込む。

STAFF STARTで起きた特徴的な現象が、2つある。

1.売り上げ上位は地方店舗スタッフ

ranking-1

STAFFSTARTではアパレルブランドごとに、全スタッフの売り上げがランキングで表示される。

提供:アダストリア

一つは、STAFF START導入ブランドの全国区の売り上げランキングでは、圧倒的に地方の店舗スタッフが上位になることだ。あるブランドの例をとると、全国1位は帯広(北海道)、2位は川口(埼玉県)、3位幕張(千葉県)だった。

小野里はこう言う。

「地方のスタッフは、平日昼間に買い物客が少なく、都内店と比べて時間があるため、コーディネートの撮影やページ作りができる。また、お客様との距離が近く、〜ちゃんと呼ばれるレベル。馴染みのお客様は積極的に、(STAFF STARTに紐づく)自社サイトでそのスタッフコーディネートからも購入してくれるので、刺激になる」

2.社内インフルエンサーが続々誕生

二つ目は、スタッフのコーデイネートによる販売という、ECの売り上げに力を入れたことで、全国区で人気の店舗スタッフが生まれたことだ。

EC強化のためのSTAFF STARTの投稿で知った、「●●店の●さん」目当てに顧客がリアル店舗に会いに来る事態が起きており、「スタッフによっては、いつお店にいるかの出勤シフトを投稿しているほど」(小野里)と言う。

STAFF STARTと連動するInstagramのフォロワーが2万人、3万人というちょっとした「社内インフルエンサー」となるスタッフが続々誕生。スタッフ個人が集客できるスキームが確立されてきているという。「EC強化」→「店舗来客増・店舗売り上げ増」という構図が成立している。

一貫して店舗とECは「相乗効果」であるべきと主張する小野里の理由はこうだ。

「店舗がなくなる日はアパレルが終わる日。今後、ECの比重は増えるでしょうが、店舗がなくなるとは、全く思いません」

「五感に訴えてくる世界観、匂い、接客も含めた店舗体験やブランド価値を含めて、商品です。ECは、いわば便利な自動販売機、という位置付けです」

「ECで俺らの仕事はなくなるだけ」

アパレル

GettyImages

「お前はいいよな。ECやってIT系社長になって。俺らはECに在庫も客も取られて、仕事が無くなるだけ」

28歳でEC制作会社を起業した小野里が、頭を殴られたように感じたのが、アパレルの販売スタッフをしている友人と飲んだ時に言われた一言だ。

その一言で、それまでECを手がけてきた小野里に、新たな問いが生まれる。

「店舗を元気にするECはできないのだろうか」

気づけば、IT領域をやっているが、「これを生かして大好きだったファッション業界の人たちのために働きたい」と痛烈に感じたのもこの時だ。

モテたいが動機の全てだった

左向き

六本木のDJからインターネットの世界に飛び込むが、ある転機が訪れる。

遡ること10数年前、2週間で行かなくなった大学を中退した小野里は、10代の頃から六本木、渋谷、新宿のクラブで、DJとして働いていた。今よりもっとクラブシーンが華やかだった2000年代初頭、ドレッドヘアに顔面ピアスの小野里を可愛がってくれたのが、音楽業界やファッション業界で働く大人たちだった。

「別にDJとして才能があったわけでもなく。モテたいと言うのが動機でした。それで、かっこいいという理由だけで、次はデザイナーだなと笑。当時、世に出始めていたウェブデザイナーを目指したんです」

専門学校で学ぶものの、卒業後の就職活動は「300社受けて、全部、落ちました」。ドレッドヘアのまま、ビーチサンダルにハーフパンツで入社試験に来る小野里を、採用する会社はなかった。

「典型的なイタい若者でした」と、小野里は苦笑する。

たった1社、面白いと目をかけてくれたのが、名の知れた老舗のWEB制作会社。しかし、仕事は「社長が趣味で飼っている魚の水槽掃除」だった。

ウェブデザイナーを目指すつもりが、魚の世話や社長のカバン持ち。

周囲のエンジニアや社員からは当初、相手にもされなかったが「絶対に見返してやろう」とスイッチが入る。会社に寝泊まりして、水槽掃除に始まり、あらゆる雑用をとにかく身を粉にして働いた。

やがて任される仕事は徐々に増え、質が変わり、25歳で部長に抜擢。大手家電量販店や小売チェーンのECサイトを作る経験を経るうちに、小野里のチームは社内で大きく稼ぐようになっていた。

EC領域での手応えを覚えた小野里は、28歳で独立し、バニッシュ・スタンダードを立ち上げる。

人件費の負のループから抜け出す唯一の方法

GINZA

GettyImages/Marco Ferrarin

ECのせいで仕事がなくなる —— 。友人の一言から、小野里が必死で考えたのはこうだ。

「洋服が売れないから人件費を削るために人を減らし、人を減らすから満足な接客ができず、さらに売れなくなる——。この負のループから抜け出すには、 利益率の高いECサイトで店舗スタッフが売った分を、店舗売り上げとして評価すればいい 」

そうして誕生したのが、現在の「STAFF START」だ。

店舗スタッフがEC売り上げに貢献することが、店舗の評価となり、スタッフのやりがいを引き出すと共に、結果的に店舗が活性化する仕組みを作り出している。

小野里社長

ところで、アパレルECの仕事をしながらも、小野里は「ECで洋服を買わない」と言う。

洋服は、五感を働かせて店舗で試着して、ブランドの世界を味わって買いたいという。

洋服の買い方からビジネスまでを貫く小野里の考え方の根底には、アパレル業界愛がある。

「洋服は原価だけのコスパ勝負になったら、ユニクロやZARAみたいな、巨大な製造体制を持っている生産力の強いところか、著名なセレクトショップしか残らない。でもアパレルは本来、コスパだけでは語れません。かっこいいや可愛いという、抽象的なことに一種懸命になっている業界の人たちが、大好きなんです」

大御所やビッグメジャー以外も生き残る世界であってほしい。なぜなら、そんな世界の方が「ずっと面白い」と、思うからだ。

(文・滝川麻衣子、写真・岡田清孝)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み