ヤフー・アスクル対立の本質は孫正義氏の“変節”。ソフトバンクGが放棄した「同志的結合」

ヤフー・アスクル

Business Insider Japan制作

子会社が約45%の株式を保有する筆頭株主に資本・業務提携の解消を申し入れると、親会社はその申し入れを拒否した。親会社は返す刀で子会社社長の取締役再任議案に反対した—— 。

親会社はヤフーで子会社は通販大手のアスクルである。アスクルの第2位株主で、11%の株式を保有する事務用品大手のプラスも取締役再任に反対したため、アスクルの岩田彰一郎氏が社長の座にとどまるのは難しい情勢となっている。

  • 2019年1月 ヤフーがアスクルにロハコ事業の譲渡の検討を要求。アスクルは拒否
  • 6月末 ヤフー・川邊健太郎社長がアスクル・岩田彰一郎社長の退陣要求
  • 7月17日 ヤフー側がアスクル株主総会(8月2日)で岩田社長の取締役選任に反対することを公表。第2位株主のプラスも反対票を投じることが明らかに。アスクルはヤフーに対し、資本・業務提携の解消を申し入れ
  • 7月18日 岩田社長、記者会見でヤフーを「乗っ取り」「不可解」と批判。岩田社長の再任反対は取締役会の決定を否定するもので、両社の契約違反と主張。ヤフーは「ロハコ事業譲渡の意向を聞いたに過ぎない」「今後もロハコ事業の譲渡を申し入れる方針はない」とコメント
  • 7月22日 アスクル、ヤフーのコメントに対して再反論(アスクル、ヤフーの広報資料や報道などから抜粋)

その岩田氏は日本経済新聞のインタビューで「ヤフーが当社を連結子会社にした際にアスクルの独立性を守ると言う条項を結んだ。(再任反対などは)提携の精神や契約も全て反故にするものだ」と語っている。

岩田社長によると、契約違反があればアスクルがヤフーに対して株式の売り渡し請求ができるという。アスクルは今後、その可能性を追求するとしているが、対するヤフーは同条項の内容について明確な言及をしていない。このためどちらに軍配が上がるのかを見通すのは難しい。

二転三転するヤフーの事業

ヤフーとソフトバンク

ヤフーとアスクルの対立は、二転三転するヤフーの事業体制がかかわっている(写真は左からヤフーの川邊健太郎社長とソフトバンク社長の宮内謙氏)

ところで一方の主役であるヤフーは10月1日に大きく姿を変える。4月25日に発表した内容はこうだった。

持ち株会社に移行して、社名をZホールディングス(ZHD)に変更。広告や通販を手がける「ヤフー事業」と、金融事業を担う二つの全額出資子会社を設立、それぞれをZHDにぶら下げる。

体制変更を発表した記者会見でヤフーの川邊健太郎社長はこう語った。

「事業環境は引き続き厳しい。他社との差異化を図るためにも金融事業に力を入れていく」

ここでいう金融事業の中核はスマホ決済会社のPayPayで、「当初はヤフー傘下に置くが、軌道に乗れば金融持ち株会社に移す」とした。

ところがゴールデンウィーク明けの5月8日に話が変わった。

ヤフーとソフトバンクグループ(SBG)の通信子会社であるソフトバンクが共同記者会見を開き、ソフトバンクがヤフーを子会社化すると発表。さらに川邊社長が「いずれ金融持ち株会社に移す」としたPayPayにはSBGが460億円を出資、PayPayはソフトバンクとヤフーの折半出資会社からSBG主導の会社に変わることも明らかにした。

SBGのグループ再編の意味するところを簡単に説明するとこうなる。成長が見込める金融事業はSBGが主導権を握るが、SBGのグループ戦略上、重要度が下がっている「ヤフー事業」は、2018年12月に上場してSBGから距離を置くことになったソフトバンクが面倒を見る——。

SBGが放棄した「同志的結合」

ソフトバンク孫正義

ソフトバンクグループのアリババ化が今回の対立の背景にあるのか。

撮影:小林優多郎

アスクルの岩田社長はヤフーの対応に「少数株主を無視している」と、いわゆる「資本の論理」に反発している。しかし当のヤフーも「資本の論理」に振り回されているわけだ。

実際、アスクルの岩田社長はメディアのインタビューでこう語っている。

「アスクルとヤフーの関係性は変わってしまった。ただヤフーとアスクルの経営陣同士が仲違いしたわけではない。SBGが中国アリババ集団の事業モデルを追いかける中で、ヤフーも相当なプレッシャーをかけられていたのではないか。ヤフーもかわいそうな立場とも言える」

ヤフーとアスクルは表面上、対立しているように見えるが、SBGを率いる孫正義社長の意向で経営が左右されているという点においては、同じ穴のムジナだと指摘しているわけである。

さて、ヤフーの子会社化を発表した5月8日の記者会見で、ソフトバンクの宮内謙社長はこう語っている。

「(ヤフーとは)これまで兄弟会社として協業してきたが、兄弟と親子では違う。ヤフーを伸ばした利益が直接ソフトバンクに上がっている来るようにした方が、シナジーをより発揮できる」

「兄弟」とは、これまでのSBGのグループ戦略を語る上で重要なキーワードである。孫社長はグループ会社について「同志的結合」を求め、発行済株式の過半を握ったり、あるいは重要事項を拒否することができる3分の1を握ったりすることにこだわってこなかった。資本の論理を振りかざさなくとも、SBGという小宇宙が壊れることはないという考えだったと言える。

それが一転した。ヤフーをソフトバンクの子会社にし、PayPayはSBGが株式の過半を握るという2つの現実は、同志的結合の放棄といってもいいだろう。

ヤフーとアスクルのケンカの帰結は確かに気になる。しかし、それ以上に注目すべきは、「孫氏変節のワケ」である。


悠木亮平:ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。

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